破壊者たちの戦場。
だが、それだけの施設ではなかった。
なぜなら、異能者でない者たちからしたら、コロッセウムの存在など本来の立場からしたら価値がない建造物だ。
が、
科学技術研究開発施設の一つという役割を与えられることで、利用価値があると異能者でない者たちに周知させた。
科学技術――防御機能の耐久試験所として。
異能者たちが放つエネルギーは、科学兵器で生み出す破壊力と相等しい。それでなおかつ、安価なので各国と企業の懐事情に優しい。
異能者組織としは、自己資金支出が少なくすみ。それでいて異能力を存分に、発揮できる最新鋭の施設が確保できた。
数世紀前なら科学技術と異能は相反する存在で、間違いなく対立関係から戦争へと発展してた。
しかし、
各国が相互に依存し、他国や国際社会の動向を無視できなくなっている情勢。それは科学技術と異能にも、同様の関係をもたらしていた。
コロッセウムでの収集データは、軍事や防衛産業だけでなく。それ以外のあらゆる技術産業にとっても、非常に貴重なものであった。実験に必要な攻撃側の費用を異能者たちが、トレーニングと実戦形式試合から無料提供してくれることで、防御側に大幅にコストを回せ開発できる好循環が生まれていた。
その結果。
国内外で運用されているコロッセウムは、日々の改修改善作業が行われており、安全性が常に高められている。
……そして。
最近、太平洋に沈んだ
非常警報が鳴り響く!
ドーム状の天井が対戦者と観客を包み込み、広いアリーナが戦いで荒れ果てた舞台へと化していた。
二人の闘いに触発され、興奮していた観客席の生徒たち。だが、徐々に主水が優勢になり、アニーに劣勢に陥った。
あとは、ペネトレイトを身体に撃ち込む、一方的な蹂躪が始まったのであった。
様々な表情と感情が渦巻いていた。かつての勇敢な姿が見る影もなく、見る者の心に暗い影を落としていた。
静寂が支配する。
そこに座る生徒たちは、息を呑んでその光景を見つめ、まるで時間が止まったかのように固まっていた。彼ら彼女らの目は主水に釘付けで、一発、一発、放たれる銃弾が、スローモーションで流れているかのように感じられた。
心臓の鼓動が耳に届くほどの沈黙が、その場を包み込み。言葉を失う者、無言で祈る者、心の中で厭気が囁いている者。
一方、応援の声を上げるグループも存在した。
啖呵を切った
「負けるな!」
「ここからだ!」
「立ってーえーぇー!」
「もんどーおーぉー! いい加減しろーおーぉー!!」
「クソ、野郎ーろーぉー!」
と、力強い声援と怒号がが響き渡っていた。少しでもアニーに勇気を与えようとしていた。しかし、その応援が届いている。が、動きはますます鈍くなっていくばかりであった。
それぞれの思いを胸に、観客席の生徒たちは闘いの結末を見守り続けることしかできなかった。
この試合の勝敗を判定する審判が、試合を終わらせる気がなかった、から。
主水が仰向けに倒れいるアニーの顔を覗き込んだとき――静寂が破られた。
一瞬の出来事だった。
観客席から観えたのは。
コロッセウムのちょうど中央付近の地面に倒れいるアニーは、主水が近づいてくる気配を感じたとき揺るぎない決意を宿した、瞳をカット見開き主水を睨みつけた。
顔に向かって、口元が微かに動き、舌打ち音が響いた。
口内で反響している音を調整変化させていく。口内に高次元物質を粘膜化させることにより、
それは肉眼では捉えられない速度で、一直線に主水へ。
瞬時に行動を起こした。
主水は伊達や酔狂で異能者として、世界最強の座に君臨している訳ではない。数え切れないほどの戦闘をくぐり抜け、それが経験となり本能へと。無意識のうちに最適な異能の力を――選択していた。
授けられた異能のなかから防御に適した能力を。
輝く盾が主水の前に現れ、意識を集中し、攻撃を絶対に防ぐことだけを考えた。
が、
超音波メーザーは、主水の盾を呆気なく貫通させた。受け止め弾き反らすことすらさせないで、いともたやすく通り抜けた。
まるで盾が存在しなかったかのように、主水が用いる最強の防御手段を容易く突き破った。
さらに、
接触しながらも、その威力を落とすどころか! まるで紙を裂くかのように、物ともしないで突き抜け、右肩を容赦なくぶち抜いた。
衝撃で主水は後方に吹き飛ばされ、アニーと同じ仰向けに倒された。
「ぃゃ、ィャ、いや、イヤ! 舌打ちで、壊されるって。ヨソウ、できないって!!」
新しいおもちゃを手に入れた子どものように、瞳を輝かせていた――主水。
撃ち抜かれた勢いで体勢が揺れ、体を支えようと足を踏ん張った。が、痛みから力が一時的に逃げたことにより、膝から簡単に崩れ落ちた。
その顔には、明るい笑みが。
「最初の一太刀で、衣と鎧を斬り裂くだけじゃく。盾すら、も、か。まぁ、よくよく考えてみれば、先生が
主水のなかで、抑えきれなかった――興奮と期待。
倒れたままの姿勢で手を軽く握りしめ、そこに感じる痛みを確認する。
「
痛みさえも楽しみに、喜びに。
無邪気に唇の端が愉快そうに、引き上がる。
「おい! いつまでも、寝っ転がってないで仕事しろ、主水」
審判員が登場した。
細身の体ながら、どこか余裕を感じさせる歩みで、コロッセウムに居る誰もが視線を奪われる。だが、その優雅な姿の彼女、以上に目を引いたのは――うずまきの形状をした棒付きキャンディーを舐めていること。
鮮やかな色彩のキャンディーをほんの少し斜めに傾け、咥え噛り、破片をゆっくりと口の中で転がし溶かす動作。
やっていることは、子どもそのもの。なのだが、不思議な魅力を引き立てていた。周囲の
静かに立ち止まる。
その瞳には軽やかな光が宿る。まるで戦場でも遊び心を忘れないかのように、そしてその姿は彼女がただ強いだけではなく、圧倒的な自信と余裕を持つ存在であることを感じさせた。
「仕事って?」
「崩落する天井の迎撃だ」
「ぇ! お嬢さま、魔法障壁も撃ち抜いてるの?」
「聴こえるだろ、非常警報音」
「ヴァルホルのデータを元にして造った、よ、ね?」
「ああ。年明けに、私がテープカットしたところだ」
「で。なんで、俺なの」
「始末書にお前が壊しましたって、書くため」
「ぇーえー!
「ワタシは、いま、お前が通っている学園の理事長、な! こと忘れてる、だろ。
キャンディーを咥えた
だが、
どこか愛らしさも含んでいた。
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