第21話

 案の定僕らは、放課後に呼び出しを食らった。怒り心頭の川田先生を、僕らのクラスの担任の先生がなだめ続ける展開だった。木村さんが平気な顔をしているのが、火に油を注ぐ結果になっている。たぶん担任の先生の力だけでは、川田先生の怒りは収まらなかっただろう。しかし今回は慎ちゃんが僕らについてきてくれた。

「菅原君は部活も同じですし、昔からの友人なんですが、先生。友人だからかばうわけじゃないんです。先生のお話の後で、木村さんが拍手をしていましたよね? あれは恐らく、木村さんの心からの拍手なんです。お前も、先生の話はちゃんと聞いていたよな?」

 慎ちゃんが僕に答えを促す。ハイ、と僕は答える。

「ほほえましいカップルなんですよ、こいつらは。だから、先生がおっしゃるように危なっかしいところもあります。生徒会としても、ちゃんと注意していかなければならないと思っています。先生、こいつらなんかは分かりやすい方ですよ。例えば最近は、他学校の生徒とですね……」

 慎ちゃんが勝手にしゃべりまくっている。川田先生も、いつの間にか慎ちゃんの話に引き込まれている。信用の差、というのもあるだろう。最後にはみんなで、学校の規律を正して行こう、みたいな感じに話がまとまってしまった。僕と木村さんについては、例え恋愛をしているとしても、それが他の生徒の見本となる様に、という慎ちゃんの論調だった。いつの間にそんな事が決まったんだ……。恐ろしい……。


「俺は革命を起こすよ」

 その日の部活の帰り道、慎ちゃんが笑って言った。

「革命って、どんな?」

 僕は言った。

「思春期大革命だよ。まずは来年の、生徒会選挙から始める」

「……どういうこと?」

「うん。まずは恋愛は必ずしも悪いことじゃない、という風潮を作り上げる。それと同時に、優秀な生徒こそ、もしくは優秀な生徒だけに恋愛が許される、そういう流れに持って行く」

 慎ちゃんが笑顔のまま言った。

「持っていくって……。言うのは簡単だけど……」

「そうだな。実例が必要だろ。だから俺は、春休みに門脇聡美に告白するよ。すべてはそれからだ」

「それは……がんばって……ください」

「お前、絶対無理とか思ってるだろ! 俺はやる時はやるんだよ!」

 そう、慎ちゃんはやる時はやる男だ。

「無理だとは思わないよ。でも、振られたら、革命はそこで終わってしまうのでは?」

「俺は振られないよ。例え一旦振られても、あきらめない。絶対に革命を成し遂げるよ。考えてみろよ、生徒会の会長と、副会長が付き合ってるってすごくないか? その時点で革命だろ!」

 慎ちゃんがガハハと笑った。この自信を僕も分けてもらいたい。いや、やっぱりいらないかな。




「先日僕は、副会長に立候補している門脇聡美さんに告白して、OKされました。そこで、ワアッと拍手が起きる。門脇が俺をものすごい視線で睨む。しかし俺は怯まない。みなさん、思春期の恥かしい気持ちはみんな同じです。ただ、プライドの為に青春を無駄にしてしまうなんて、もったいないと思いませんか。人生の大切な時期です。素敵な思い出を作ろうじゃありませんか。だからといって、学生の本分を忘れてしまっては本末転倒です。僕の親友の菅原君なんて、図書館で勉強デートしています。みんな、見習おう。清く正しく美しく。勉強も運動も、恋愛もがんばってこその学校生活。みんなでこの学校に恋愛革命を、起こそうじゃありませんか!」

 春休み。部活の後で慎ちゃんが、僕の部屋に来て演説の練習をしている。演説の練習というよりは、妄想と言った方が正しい。

「それで、聡美ちゃんには告白したの?」

 僕は言った。

「門脇のな……。家の前までは行ったよ。でもな、ピンポンが押せないんだよな……」

 結局慎ちゃんは何もしていないのだった。

「学校の革命を考える前に、自分の中の革命を成し遂げないと、ダメなんじゃないの?」

 僕は言った。

「……図星だよ、コノヤロウ!」

 慎ちゃんが殴りかかってくる。もう、このパターンはやりすぎている。

「今日の部活も疲れたし……。僕、寝たいんだけど。明日デートだし」

 止めを刺すように僕は言った。ベッドに潜り込む。

「先日僕は、副会長に立候補している門脇聡美さんに告白して、OKされました!」

 ヤケクソになって慎ちゃんが叫んだ。これはある意味、病気じゃないのか? 思春期のプライドって、本当に厄介なものだ……。

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偏差値の高さは恋愛の障壁であると親友の慎ちゃんは申しており ぺしみん @pessimin

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