第60話 診断

 さて、ここはネコさんの研究室だ。今日は不思議なことに滅多にしない白衣を着た人間に擬態して、つまり美人女医さんモードでネコを診てくれている。

 そう、俺の飼っているネコは地球にいた頃は普通の?と言うと変だが遺伝異常でほとんど体毛が黒いただのシャム猫だった。それが、俺の異世界転移に後からついて来て人間の言葉がしゃべれるようになったり、特訓の成果で宇宙船の操縦までできたりとよくよく考えてみれば超越猫スーパーキャットなのかも知れない。

 そんなうちの手下ペットが数日前から奇行に走っていた。それは浜に打ちあげられた人形をそれこそ肌身離さず持ち歩く様になったことだ。

 心配になった俺が相談したのは、いつも頼りになる異世界のシャム猫、ネコさんであるのは至極当然なことであった。


「それにしても、ネコの奴どうしちまったんだろうか?宇宙に無理やり行かしたが、コックピットの対放射線防御が足りなかったんだろうか?」

「ふふ、竜さん。何だかんだ言ってもネコのこと大事なのね。少し妬けるかなあ。大丈夫私が何とか治してあげるから心配しないで、だから研究室には上手く連れ込んでね」

「ああ、頼むよ。いつもこんなお願いばっかしていて心苦しいけど、あいつのことを頼むよ」


 ふーん、いろいろ面白いことになって来たけど。本当に竜さんが来てからは居眠りする暇もない程、刺激的で面白いわ。今までも奴の力を削ぐために大分利用させてもらってきたけど、今回は天文学的なツキが味方したとしか思えないくらいの幸運よね。

 なぜ、あの者がこちらに転がり込んできたのか。流石は腐っても竜さんのオリジナルの使い魔よね、こうも大物を釣り上げてくれるとは。あまりに嬉し過ぎて、口元が緩んで笑いそうになるのを堪えるのが、ある意味拷問ね。

 あとで、あの者に償いをさせましょうか。その瞬間を迎えるためには、気付かれずに無力化しないとね。さて、どうしようかしら?


「ご主人、こ、これはどういうことなのにゃ?ただの診察という話だったはずにゃ、まさか本気で解剖とか企んでる訳じゃないにゃ?そ、それと人形は関係ないはずにゃ!」


 ネコさんの研究室では、ネコと人形が並んで解剖台に固定されている。何のシャレだか陶磁器で出来た金髪碧眼の人形まで縛り付けるセンスはわからないがもしかしたらネコの趣味を頭から否定しないというメッセージかも知れないな。


「まあ、そんなに焦らなくてもいいわよ。万が一失敗したときは、あなたの大事な人形も一緒の墓に収めてあげるから安心して身を委ねなさい。じゃ、ちょっとチクッとするけど大丈夫よ、全然怖くないから」


 ネコさんは注射器をネコの首に突き刺すと、しばらく反応を確認してから静かに質問を始めた。


「はい、あなたはだーれ?」

「そんなのネコに決まってるにゃ、忘れたのにゃ?」

「そう、じゃああなたの目的はなーに?」

「そんなの決まってるにゃ、ご主人の野望を達成するための手助けをすることにゃ。当たり前なのにゃ!」

「では、あなたはどこでその人形を拾ったの?その人形を拾ったのはいつ?なぜ、あなたはいつもその人形を側に置いているの?」

「拾ったのは、浜辺にゃ。あれは、帰還してから数日後に浜辺を散歩していたら居たにゃ。別に人形を持ち歩いてる訳じゃないにゃ、置いて来ても勝手にそばにあるから。面倒なので最近は持つ振りをしてるにゃ」

「何?!お前さっきここに来るときも人形を咥えていたじゃないか?」

「あれは、勝手に運ばされているだけにゃ。置いて来ても、どうせそばに人形はあるにゃ」


(なるほどね、よく考えたものだわ)


「そうね、聞き方が悪かったようね。じゃあ。あなたは誰なのかしら?」


 ネコさんは、ネコから視線を外すと磁器製人形ビスクドールに向き直り、さっきと同じ質問を始めるようだった。しかし、人形に話しかけるとか何の意味が、精神を患った者に対する優しい配慮なんだろうか?


「ふっふっふ、ふ。なるほど、巧妙に罠を仕掛けたという訳か。油断していたか、これほどの手練れがまだ残っていようとはのう」

「まあ、相手が大したことなさそうなのでこの程度の引っ掛けで対処できたけど。そろそろお名前を聞かせて貰えないかしら、魔人さん?」


 ネコさんが、人形に冷たい視線を向ける。対する人形も醒めためでこちらを窺う。


「まあ、よかろう。我の力、攻撃を凌げたならば。我が尊名を己がごとき下等な者たちにも聞かせぬでもない」


 雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れる。既に研究室という屋内施設ではあり得ない混沌として殺伐な風景をバックに人形と対峙する俺たち。


「へぇー、自分の魔力が充分でないからと初見で研究室のシミュレータを使って疑似戦闘空間を作り出すとはかなり高位の魔神のようね。褒めてあげるわ。でも。

 竜さん、構わないからやっておしまいなさい!」

「なんて、展開なんだよ。もう、乱導竜が命ずる。セーレ四人衆よ、来い。アンドロマリウス、お前もだ。ついでに、アロケルお前も力を貸せ!」


 俺は、正体不明の大物魔人を相手に大盤振る舞いで戦闘の準備を進めた。

 一方、先ほどまで十五センチ程度の大きさだった人形は、五メートルほどの巨大な影を纏っていた。

 俺の放つ銭投げスピンターンが、磁器製人形の発する雷撃に跳ね返される。

 暴風が巨大な岩を俺に向かって叩きつけに来た。俺はセーレの体感速度で何とか躱し続ける。


「五百万霊子レイス金の鎧マネースーツ、五百万霊子、金の劔マネーソード、働いて貰うぞアロケル!、アンドロマリウス!」


 右手に握る金の劔に炎が纏いつく、神速の動きで俺は人形の姿をした魔人に無限の斬撃を与えた。


「いけー、インフィニティ・ファイアー・スラッシュ!」


 際限なく振るわれる、炎の斬撃と魔力の激突に閃光と火花で視界が奪われる。


「こ、これほどの力を、な、なぜ人間ごときが持つのだ。くぅっ、そ、魔力が足りな過ぎる。あぁーん」


 魔人が力なく消えていく間際に呟いた。


「我が名は、アスタロト。もう・・・・・・ 何も言うまい、人間。我を使いこなしてみよ」

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