第42話 投資

 さて、時間は待っちゃくれない。俺も前に進まなければやがて死を待つばかり、生物は止まったら負けだ、諦めたらそれまでだ。足掻くのを止めたらそれでもし生きていたとしてもそんなのは終わっている、緩慢な死を待つだけのつまらない存在に堕してしまう・・・・・・


 視界が研究室に戻ったことに気付いた俺は、くすんだ銀色のヘルメットを脱いだ。


「きつー、ネコさーん。あんた、どこの鬼軍曹だよ。もう、何回やり直させられたか覚えきれないくらいだよ」

「まあ、それは竜さんの魔法や魔力に対する感受性、感性が想定より低すぎるからだわ。何事にも想定外は付き物よ。

 あと、これ見て納得したら清算してね。ずいぶん勉強させて貰ったわよ」


 請求書と書かれた紙をにっこり微笑んで渡すネコさん、なんか尻尾をゆったりと振ってご機嫌な様子だよなあ。

 えっ?


    請 求 書

 施設使用料   五0万霊子レイス

 技術指導料  二00万霊子

 真鍮の壺   五00万霊子

 治療費    三00万霊子

 保管料    一00万霊子

 *値引き   一五0万霊子

 合計    一000万霊子


 ええ?!


「はい、お手をどうぞ。お得意様だから、良心価格、いえお友達価格にしといたわ。グッドディール!」

「おおい、ちょっと待て、いや待ってください。これからもっともっと色々と物入りなんですから。というか、グッドディールは別れの挨拶じゃない。笑顔の商取引、会心の利益を上げたときに、何時か俺が使いたかったのに・・・・・・」


 俺の交渉も虚しく、使い魔の保管容器である真鍮の壺|(左の腕輪に装着済み)や魔法の指導料やこの間の戦闘後の治療費、それとワフードさんの試作品の保管料等で締めて一千万霊子をネコさんに支払った。

 これは、向こうの世界でも稼がしてもらうしかないな。


「ああ、スカーレットか。忙しそうで何よりだ、早速だがヘッドハンティングだ。ああ、ウロボロスの技術者を引き抜いてくれ」

「ちょ、ちょっと。今度は何よ、ウロボロスって業界で三本の指に入るという仮想通貨取引所でしょ。そこから誰を引き抜くのよ?」

「たしか、三国志の劉備玄徳と義兄弟の契りを交わした豪傑と名前が似た技術部長がいるから引き抜いて新しいコンセプトの取引所を立ち上げてくれ。もう既に、ベラボウメは始動してしまって今から食い込むのは遅いし、美味しくもない。

 だから豪傑さんに伸し上がって貰って、うちは出資という名の投資で稼がしてもらう。上手くいくはずだ、未来は俺の手にあるからな、ふっ」


(もう、こっちは仮想通貨の買い占めやロケット関連の技術者から情報を仕込むので天手古舞だというのに。また、ヘッドハンティングって私を誰だとって。まさに、本業じゃないの変な仕事に手を染めすぎておかしくなってるわね。

 でも、少しくらい我が儘いっても良いよね)


「もう、わかったわよ。その代わりまた近いうちに、そっちに呼んでよね。きゃっ。

い、今のはなし、ちゃんとやるから。そっちに行くのは止めておくわ、今忙しいから、じゃあ、買い占めはなんとかやってるから。それじゃあ」


(うわ、あ、あの猫の目があの時のように赤く光った。私を貪った、あの猫、こ、怖い)

 な、何だかなあ?以前はこっちに来たがってたくせに、慌てて忙しいからやめるとか言い出すし。少しくらい休ませてやりたいが、そういう訳にもいかないか。


「まあ、これで損失補填以上には利益が出せるだろう」

「竜さん、あの壺はとてもいい物なのよ。どっかの少将さんに届けたくなるくらいにはね。今後、下僕一号の使い魔を手下に加えるからには、今からちゃんとした寝床が必要よ。こういう、先行投資があとでものを言うのよ」

「・・・」


「まだ、納得がいかないならもう一度模擬戦をやって、成果を確かめてみる?」

「いや、今回もありがとう、ネコさんのおかげで助かったよ」

「そう、わかればいいのよ」


 剣呑な雰囲気から一変して、ネコさんは尻尾をゆっくりと振るのだった。

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