第39話 画策

 スカーレットとの通話を切った俺をネコさんの細められた目が射貫く。そんなに興味があるのか、向こうの世界の経済状況に。それとも?


「ふっ、そんな怖い顔をしないでくれるかな。美人が台無しだぜ、子猫ちゃん」

「戯言を、まあいいわ。ありがとう、竜さん。でも、あんまり気の無いお世辞は逆効果よ」


 ネコさんは、空中に呼び出したポットから器用に俺のカップを満たすと自分用の紅茶にミルクを注いだ。華やかな香りに、ミルクの落ち気分を着かせる香りが混ざる。

 これは、早くしないと鬼の尋問が始まる気配だな。


「ああ、お察しのとおり向こうの世界で相場が傾いた。理由はさっきも語ったとおり、下僕一号の使い魔禿頭で太っちょのくせに魔界一の速度を誇る魔人セーレとの戦いで俺が無制限に霊子レイスを使って金の劔マネーソード金の鎧マネースーツを召喚して戦ったせいだ」

「それは、少々妙だと思うけど。確かに竜さんの力は仮想通貨を消費することによって得られる力、だけどそれはこの世界に限っての話では?」


 うーん、どう説明したらいいのかな。


「まあ、通常ならネコさんの言う通り俺はこの世界の仮想通貨だけでセーレと闘っていただろう。そして、力尽きてしまっただろう。でも、俺は制限を外したそれは何もこの世界に限定したという中途半端な枠を取り払った。

 だから、俺はこの世界で貯め込んでいた霊子に限らず向こうの世界のビーストコイン(BST)も根こそぎ売り払ったんだ」

「つまり、放蕩息子の竜さんがこっちで遊ぶ金が足らなくなったから、親に泣きついて、足らない分を出して貰ったと。それで、向こうの世界の相場がとんでもないことになったということね」


 ああ、なんだか本当に俺がドラ息子になったような解釈だが概ね間違ってはいないのが少し悔しいな。


「まあ、あっちの世界から追い出された不詳の息子かも知れないから。ネコさん、その理解でいいです。

 で、さっき元の世界のスカーレットと話していて気付いたんだが。向こうの世界で幅を利かしている仮想通貨、今回で言うとBSTが何度か異常な値動きをしている。

 巷ではハードフォークしたからだとか、某国がハッキングで不正に入手した分を売りさばいたとか諸説あったが、本当の原因は俺がこっちで無制限に売り払ったからだったんだ。実に盲点を突くような答えが、目の前に転がって来た。

 だから、これを利用して向こうの世界で暴利を得るためにBSTの買い漁りをスカーレットに指示したところだ」


 そう、その道を選んだのね。


 え?ネコさんが言葉にしない、声を聴いた気がした。


「ああ。悪だくみをしないなんて温い舐めた覚悟で、達成できるほど俺の目的は軽くない。既に起きてしまった結果が利用できるなら、利用するさ。

 俺の手はもう女神も悪魔の手も握ってしまったからな」

「まあ、セーレとかは悪魔というか魔界の住人、せいぜいが魔人といったところだけどね」

 

 ネコさんが皮肉っぽく紅茶を飲んでから、ささやく。


「これから、何をするの?」

「まあ、単純に高値で売って安値で買うだけだよ。しばらくは、相場が乱高下して美味しいはずだ。

 あと、そうだな『ベラボウメ』(通称B)って名前の取引所はもうあるはずだから。『ウロボロス』の技術責任者をヘッドハンティングして低額手数料の新しいコンセプトの取引所を作るのがいいだろう。まあ、過去の追認作業をやらなきゃいけないのが若干モチベーションが下がるところだが。

 月旅行のための、魔人の力を入手するためには。仮想通貨の大量消費は避けて通れないからな。あと、力の消費や節約に関してアドバイスが貰えればうれしんだけどなあ、ネコさん」


 退屈そうに前足を舐めていたネコさんに、ダメもとで助言を求めた。


「そうねぇ、新米の魔法使いが力を制御する方法のアドバイスならできるかもね」

「おお、それは助かるな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る