第21話 鎬

 なんで、パンケーキの生クリームってあんなに美味いんだろう?


「よし、デザートも食ったし休憩は終わりだ。お前にもう一つ質問だ。

 霊子レイス以外の仮想通貨を特徴と共に述べよ。チッチッチッ」


「えー、ビーストコイン(BSC)は最古の仮想通貨で発行枚数の上限が少なくて処理が遅い、イーチャリウム(ECH)は取引の予約ができる、ビロウ(XBL)は他国への送金が速い。ただし、これらは異国発祥の仮想通貨で原則的にこの国では使われていない。

 あとは、センゴッド(SNG)は金の価格と自動調整された価値を持つ仮想通貨です。うーん、難しい理屈は知りませんが一SNGと一グラムの金はいつでも交換できるらしいです。

 これで、全部だと思います。ふー」


 うーん、流石にまりあの記憶を持つだけあって全部正解だな。


「そうだな、今出てきた仮想通貨でSNG以外は、電気とかコンピュータとかが無いからこの世界では俺以外使えないんだ。俺は別の世界のネットワークにこのスマフォで繋がってるから使えるんだけどな」


「へー、確かにそんなことを聞いたような気がしますね。たぶん、マリアさんがですけど。でも、あまり気にしてなかったようですね」


「では、お前にも苦労を掛けた本題のイージェイ(EJ)だが」


 こくっ

 M78号がかたずを飲むのが妙に判って楽しい気持ちになった。そうだよなプロジェクトの開始はワクワクするよな。


「霊子は、人々の魂にその価値を刻む仮想通貨だ。

 また、取引毎に実は極わずかに手数料を取っている。0.一パーセントだがな。塵も積もればなんとかで。

 手数料の80%を霊子保有者に還元している。残りの20%は俺の懐に入るがな。だから、霊子で取引をすればするほど皆の懐も温まるようになっている。


 今のところ欠点は大陸間の決済スピードが船の移動速度に依存しているところだ。

 これは、人々の潜在意識が魂は海を越えられないと感じているからだ。

 ただ、この欠点は仮執行の仕組みを使って見かけ上は即時決済している。いずれは、ソフトフォークで解決するつもりだがな」


(EJの立ち上げもあるから、霊子に弱点ぽいところがある方が都合がいい、ふっ)


「EJは、霊子からハードフォークしたときに、人々の血を廻る仮想通貨となった。血も海にある水も元々は同じものだ。だから海水を介してEJは海をも渡る。

 これが島々からなるナッキオ群島の群島国家ハナ王国で流通するための力になる。


 あと仕上げとして、ナッキオ群島にも例の劇団に行って貰うかな。下僕一号が文句言うだろうがその辺の調整は、ネコさんに泣いて貰おう」


「えと、下僕一号って誰ですか?」

「ああ、劇団の人気女優のことだ。正体は、お前と同じジョージさんの造ったホムンクルスだがな。ま、あまり気にするな。会うこともあるまい」


「ふーん」

「ところで、そもそも何でナルシュ王子に肩入れしたの?」


 うーん?なんでだろう。俺も前世で皇子だったからか、違うなあ。惚れた女の頼みだからか?

 うん、それは有りだな。

 だが、それだけじゃないはず?


「そうだな、一つはマリアの頼みだったからな。あいつに力を貸して欲しいと。

 それと、今事実上この世界で霊子一強で面白味がないだろう。ライバルと|鎬(しのぎ)を削ってより強くなるこれが王道だよな。

 あと、EJの総発行枚数の35%は俺が握っている。

 この意味するところは、手数料80%掛ける保有数35%でEJ全体収益の28%を俺が労せずして手に入られるということだ。


 だから、ナルシュよ頑張って俺に貢げよ」


「うん、あんたが外道だってことは理解した。だから、安心して逝ける、悪党は死なないから・・・」


「もう、いいかしら。死体を抱く趣味がないなら回収させて貰うけど?」

 俺が頷くと夕陽をバックに美人さんバージョンに擬態したネコさんはM78号に覆いかぶさった。

 それほど時間も掛けずに、M78号の亡骸はネコさんに食い尽くされていた。


「なにか不満そうね。造られし者が用済みになるって、こういうことよ」

「ああ」


「でも、そうね。M78号は私の中でアイツに対抗するための力になるわ。どう、これで満足?」 

「うん、ありがとうネコさん。吹っ切れたよ」 

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