第20話 運命

 さて、どうしたものか?


「おい、M78号、お前なんかやりたいことあるか?そうだな、俺も忙しいが夕方くらいまでならお前に付き合ってやれるぞ」

「いえ、どうせ時間が経てば消える運命さだめ、今更、何かをしたとしても・・・」

 今回、M78号のおかげでナルシュはハードフォークを会得し、EJを開発できたのだが、ジョージさんが片手間に造った即製のホムンクルスであるM78号の寿命はわずかに二十四時間、丁度夕闇が迫る頃である。


「お前、マリアのデータをコピーした割には後ろ向きな奴だな?人生?いや人造人間生では山あり谷あり、苦しいこともあれば楽しいこともあるだろう。

 どうせ、授かった命だ。有意義に残りの時間を使わないか?」


 M78号は、俯いてじっと自分の手を見つめる。


「私の命ってどれほどのものなのでしょうか?私が生まれてきた意味って?

そうですね、一つ聞きたいことが出来ました。あの、ナルシュさんが創った仮想通貨EJって、何なのですか?

私の命と本当に釣り合うものなのですか?そんなに、大事なものなのですか?

答えてよ、乱導 竜!」


 悔し気な瞳の奥に、勝気な炎が垣間見える、下手な答えを言おうものなら襲い掛かることも辞さないほどの闘志が覗えた。


「ふっ、いい顔するじゃねぇか。流石に俺が惚れた女の現身うつせみだな。じゃあ、そうだな昼飯でも食いながら話すか。

 朝飯も食わずにこの時間まで落ち込んでいたんだからな」

「ええ、美味しい物をご馳走してください。それくらいしてくれても、罰は当たりますまい」


 小料理屋の座敷に案内されると、驚いたことにM78がすぐさま注文してしまった。


「あっ、良かったんですよね?少々、値が張る物ばかり頼んでしまいましたが?」

「ふっ、遠慮はいらないよ。たんまり、仮想通貨で儲けているからな」


「それなら、あとで追加注文いたしましょう」

「いいけど、そんなに食えるのか?」

「ふふ、冗談です。ははっ」


 お待たせしました、では、ごゆっくり。

 料理の数々を並べていくと仲居は出ていった。


「この、お魚は美味しいですね。あ、こっちの玉子焼きも甘くて美味しい」

「おお、良かったな。だけど、あの注文は?」


「ああ、マリアさんのパワーフードですよ。疲れたときとか、落ち込んだ時にここで元気を貰うんだそうです。だから、私も・・・」


 そうだったな、マリアの記憶を受け継いでるんだからな、こいつは。


「うーん、この香り鰻はやっぱり丼でなくちゃね。うんうん、美味しいなあ」

 

 一通り食事が済んで渋いお茶を二人で飲んだ。満足したようだな。


「じゃあ、ナルシュの創った仮想通貨EJについて説明していくぞ。その前に、一応おさらいとして、霊子レイスについてだがお前はどれくらい知っている?」


 M78号の知識(マリアの記憶に基づく)では、この世界で初めて出現した仮想通貨は霊子であり、その特徴は以下のようになる。



1 流行の劇団が、プロモーションを実施して四大陸で不動の地位を築いた。

  人気女優の名言「銀貨がなければ、霊子を使えばいいじゃない!」は世界的に有名です。

(余談だが、この劇団『魔族』はあの水色のドレスを纏った少女とその使い魔たちであり、四大陸を縦断した公演ではいつも満席となっていた。

  閉幕後に出演者が握手サービスをしてやるため、霊子の保有者は四大陸に拡散していった。


2 霊子ネットワークは、保有者の魂に刻印され、保有者と接触した未保有者は資産ゼロの新たな保有者となります。


3 霊子の相続は、契約によらない場合は、保有者の死後自動的に一番血縁の深い者に継承される。また、意に添わぬ脅迫等によって霊子の移動は行われません。

  これは、霊子が盗難に遭わないということであり、従来の金貨・銀貨や宝飾品の保管用途以外の金庫の存在価値が激減したことも意味します。


4 霊子は大陸内では即時、取引が完了します。

  大陸間の取引については即時に仮交換が発効、交易船等が相手先の大陸の港に着いた時点で完了します。

 (大陸間で、即時取引が完了できないのはこの時代の人類の限界であった。魂は重力に引かれ、水に沈むという迷信が、潜在意識に刷り込まれているためである。)

 

 M78号はマリアから記憶を受け継いでいるだけあって、仮想通貨の知識は確かなものだった。

 だが、EJだけはマリアも知らない新しい仮想通貨であった為、当然これについての知識はなかった。


「ほお、流石にマリアと言うべきか、よく知っておるな。ナルシュにやるには惜しい女だったな」

「ふふーん、私とマリアさんを、軽く見ないでよね。あんたなんかには、もったいな過ぎるんだから」


 憎まれ口を叩いているがM78号は、マリアを褒められてうれしいようだった。

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