第十六話 ロウの寝起き

 何か頭の上に乗っている。


「あん……?」


 意識がはっきりしてきて、瞼を開ける。

 暗い部屋の中、わずかに入ってくる朝日で何とかどうなっているかわかる。


「腕?」


 ロウの頭の上に白く細い腕が乗っていた。

 何で、誰の腕?

 と、まだ完全に回っていない頭で考え、ぼやけていた視界がはっきりとしてくる。 

 腕の先をたどると、


「……んに」


 可愛らしい寝言が聞こえた。

 キティの寝顔が目の前にあった。


「うっひゃあああああああ~~~~~~~‼」


 びっくりしすぎて変な声を上げて後ずさる。


「わたたたたたッ!」


 下がりすぎてベッドから落ちてしまう。

 ドンという音が響き、キティが起きる。


「ん~、何だよ。うるせぇな」


 ベッドの上で伸びをしながら、目をこすりながら僕を見つめる。


「ど、どうして⁉ ソファで寝てたんじゃ⁉」

「ん? ああ、あのソファ固くてな。こっちの方が柔らかそうだったからちょっとスペースを借りたんだよ」


 平然と言い放つキティ。


「………すん」

「何で自分の服の臭い嗅いでんだよ」

「いい匂いがして」


 自分の服から花の香りのような臭いがした。

 キティの臭いが僕の服に移ったのだろうか。


「………」


 チャキッとどこからともなくナイフを抜く。


「いや、僕そんなに悪くないでしょ⁉」


 勝手にベッドに入り込んだのはそっちなのに、理不尽だと抗議する。

 その抗議の階があったのか、キティはナイフを使わずにロウに足蹴りをお見舞いした。


 〇


 キティと共にアカデミーへ向かう。

 僕は制服に身を包み、色々入れすぎたために膨張しすぎた学生鞄を持って歩く。 

隣のキティはロウの私服を着ている。アカデミーに上がった当初、気合を入れて買った黒い革ジャンと黒いカーゴパンツをはいて、女性シングルシンガーのような恰好をしていた。

 校門前までたどりつく。


「じゃあ、イフに虹の腕輪を渡したら連絡するから、それまで待ってて、何かあったら連絡するから」


 虹の腕輪を入れている鞄を叩く。


「…………」

「キティ?」

「呼び捨てにすんな」

「さん……」


 キティはぼーっと校門をくぐる生徒たちを見つめていた。


「で、なんだっけ?」

「だから、何かあったら連絡するって、それまで学校の周辺で待っててねって」

「ああ、了解了解」


 皆まで言うなと手を振って、ロウに背を向ける。


「?」


 イフに虹の腕輪を渡すという重要なイベントのはずなのに、なぜか彼女は気もそぞろといった感じだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る