夏の終わり それぞれの旅立ち……

第34話 ライブ、一緒に観に行きませんか?

 私、火花晴は今晩、草プロ所属のバーチャル型アイドル系UTuberであるシズクとの生配信で、釣りのゲーム対決を行っていた。


 この釣りのゲーム対決は、何故か私達スピアーズのメンバーの1人であるソラを賭けた釣りのゲーム対決となったが、結果は私が主である大きな鯛を釣り上げた事で一気に高得点を獲得して逆転勝利をする事が出来た。


 奇跡的な大逆転勝利という事もあり、この生配信を観ていたファン達からのコメントが先程以上に勢いが増し、同時に大量のスパチャが届き、生配信は凄く大いに賑わった。


 そして、釣りのゲーム対決が終わった後、シズクが私の元へと歩み寄ってみた。


「いゃぁ~ ハルちゃんがソラちゃんを誰にも渡そうとしないその強い意志に、負けちゃったよ」


「最後のは偶然の奇跡的な勝利であって、あれがなければ、きっと私達は負けていたと思うよ」


「確かに、ハルちゃんがあの大物を釣り上げていなければ、私は負けていなかったと思う。でも今回、ハルちゃんがあの大物を見事に釣り上げる事に成功出来たのは、ソラちゃんを誰にも渡したくないという、凄く強い意志があったからだと思うよ」


「そっ、そうかなぁ?」


「きっとそうだよ。だからさ、これからも私を含めて多くのファン達に、4人で活躍するスピアーズを見せてよ!!」


「わかったよ。これからも、シズクちゃんを含めて多くのファン達を楽しませるスピアーズを見せるよ!!」


「約束だよ!!」


 そして、私とシズクは2人で正面を向いてフィスト・バンプを行った。


「じゃあ、次はスピアーズ側のライブの時にお邪魔するね」


「私達のライブ、絶対に最高のライブにしてみせるから、楽しみにしててね!!」


 そんな感じで、大いに盛り上がった生配信は終わりを迎えたのであった。





 それから、数日後……


 私、森崎由亜はこの夏の間ずっと宿泊をしている部屋の中で、リーフィと一緒にショート動画を観ていた。


「この時の火花さんは、いつ見ても凄いわね」


『そうですね。あの時のハルさんは確実に奇跡を釣り上げましたよ』


 私とリーフィが観ていたショート動画は、つい先日のシズクとスピアーズのメンバー達との虹川さんを賭けた釣りのゲーム対決の時の名場面だけを映した切り抜きのショート動画であった。


 あの時はシズクのやり方が上手く行くのか不安になりながら生配信を視聴していたけど、ゲーム対決でスピアーズのメンバー達が勝った事で、今までのスピアーズがこれからも続く事が決まった為、結果としてシズクのやり方は上手く行った事になる。


 この生配信の翌日、火花さんはシズクから勝利記念として草プロ所属のバーチャル型アイドル系Utuber達のコラボカフェ内で使える1万円分の食事券を貰い、スピアーズのメンバー4人と一緒に私もコラボカフェに招待された為、スピアーズのメンバー達と一緒にこの街から電車で1時間程かかる場所にある大都市まで行って草プロのコラボカフェを楽しんで来た。


 そして、その2日後に虹川さんは早川さんを通じて、草プロの偉い人である草間さんに草プロ行きの件を正式に断ったみたい。


 後で聞いた話だけど、この時の草間さんは凄く悔しそうにガッカリしていたとか。


 まぁ、そんな感じで、ここ数日の出来事を振り返りながら、私はリーフィと一緒に先日の生配信の名場面の切り抜きショート動画を観ていたのであった。





 その後、数あるショート動画の視聴を終えた後、私は散歩を行う為、外に出る事にした。


「私は外に散歩に行くけど、リーフィは行かないの?」


『はいっ、私はやる事がありますので、部屋に残っています』


「そう、じゃあ行ってくるね」


『行ってらっしゃい』


 どんな用があるのか分からいが、リーフィは私と一緒に散歩に行く事はなく部屋に残る事を選んだ。


 その為、私は1人で散歩に出かける事にした。


 そして、宿泊している旅館を出た後、私は目の前の海水浴場を眺めながら、町の散歩を始めた。


 真夏の青空には大きな入道雲が浮かび、周囲からは夏を代表する虫であるセミの鳴き声が響き渡り、気温は8月の後半という事もあり、まだまだ猛暑日が続いていた。


 私がこの夏の間、AIのリーフィと一緒に過ごす為に訪れたこの町は、県庁所在地にあるにも関わらず、周囲が海と山に囲まれた街の外れにある小さな漁村町であった。


 そんな町は昔ながらの古い民家をはじめ、お寺や神社等も存在する日本の典型的な海辺の田舎町であり、私が住んでいる東京の街では絶対に見る事の出来ない景色が広がっている田舎町でもあった。


 そんな夏の間だけ訪れている海辺の田舎町の景色を眺めながら散歩をしていた私は、ある考え事をしていた、


 そう言えば、この町に来てからはずっとリーフィと一緒だった為、今は久々の1人なんだ……


 この夏の間、どこに行く時も常にリーフィと一緒だった為、久々の完全1人という状況に違和感を感じてしまった。


 リーフィだけでなく、今日は火花さん達スピアーズのメンバー達も今晩のSPフェスの練習の為にいない。


 その為、普段は凄く賑やかな状態とは真逆の物静かな状態に、私は違和感と同時にどこか物寂しく感じた。





 そんな感じで、私は1人で周囲の海辺の田舎町の景色をただ眺めながら歩いていた時、ふと反対側の道路を見てみると、釣り道具を抱えてセグウェイに乗って移動をする雨沼さんの姿が見えた。


「あっ、雨沼さん!!」


「もっ、森崎さん!?」


 セグウェイに乗って移動をしている雨沼さんを見かけた私は、思わず雨沼さんに声をかけてしまった。


 そんなきっかけもあり、私は散歩の途中で雨沼さんの釣りに付き合う為、雨沼さんと一緒にこの町の防波堤に行った。


 そして、防波堤に着いた後、私は釣りをしている雨沼さんと話をしながら、その様子を見守る事にした。


「そう言えば、今日はリーフィと一緒じゃないの? 森崎さんの隣を飛んでいるドローンが見当たらないので」


「今日はリーフィと一緒じゃないのよ」


「なにかあったの?」


「リーフィったら、なにかやる事があるとか言って部屋にこもってしまったの」


「なるほど。だからリーフィがいないのね」


 雨沼さんは、いつも私の隣にいるリーフィの姿が見当たらない事に対し、少し気になった様子で釣竿を握って魚釣りをしていた。


 ホント、リーフィったら一体部屋で何をしているのかしら?


 1人部屋に残ったリーフィの事を気になりながらも、私は魚を釣る雨沼さんの様子を見ていた。


「そう言えば、先日のシズクとスピアーズの生配信を見たたけど、あの生配信、凄く盛り上がったみたいだね」


「雨沼さんも、先日の生配信を観ていたのね!! ホントあの生配信、凄かったわよね」


「確かにあの展開には見る側からしても、完全に驚かされたよ。正に仲間を取られたくないという火花さんの強い意志が見ていて伝わって来たからね」


「やっぱり、雨沼さんもそう思うでしょ!! あの生配信の後、虹川さんは正式に火花さん達スピアーズとして残る事を正式に決めて、草プロ行きを断ったのよ」


「そうなんだ。よかったじゃないの、フォレ猫さん。いやっ、森崎さん」


 私は雨沼さんと先日のシズクとスピアーズのコラボ生配信の話で盛り上がった。


 雨沼さんには世間では未発表である虹川さんの草プロ行きに関する話を以前にやっていた為、虹川さんが生配信をきっかけに今後もスピアーズに残る事を知ると、釣りをしながらニコッと嬉しそうな表情をした。


 その後、私と話をしながらでも、雨沼さんは小さな魚ではあるが手際よく魚を釣り上げていた。


「凄いね、雨沼さん!! 話をしながらでもたくさん魚を釣り上げるなんて!!」


「釣りに慣れてくると、どこに魚が潜んでいるとかが分かって来るから、そこを狙うだけでそれなりに釣る事が出来る様になるだけだよ」


「そう言えば、先日のスピアーズとの生配信の時にも、釣りをしながらシズクが似た様な事を言っていたわよね」


「そう言われてみれば、確かにそんな事、シズクも言っていたような……」


 そんなたくさんの魚を手際よく釣り上げる雨沼さんが言うには、魚が潜んでいる場所を見抜く事が出来るようになると、ある程度は魚を釣り上げる事が出来る様になるみたいだけど、釣り素人の私にとっては、目の前の海を見ただけでは魚が潜んでいそうな場所等全く分からなかった。


 それと同時に、魚を釣るコツとして、雨沼さんが言っていた事は先日のスピアーズとの生配信の時にシズクが言っていた事と似ている事を思い出した。


 メタバース内とリアルという違いはあるものの、釣りが上手く出来る人から見れば、釣れるコツは同じ様なモノなのかの知れないと思った。


「そんなシズクは最初こそ、たくさんの魚を釣り上げていたけど、後半は前半の時の様な勢いがなかったわよね。釣りが得意な雨沼さんなら、その理由が分かったりしたりする?」


「実態、それはシズクにしか本当の答えは分からないと思うけど、釣りに慣れている人の目から見ると、後半のシズクは明らかに本気を出していなかったね」


「えっ!? 本気ではなかったの?」


「あくまでも推測だけどね。恐らくシズクは火花さん達スピアーズのメンバーが虹川さんと別れたくないっていう本気の思いを感じてこそ、あえてわざと前半で殆ど点が取れていなかったスピアーズでも勝てる様に手を抜いていたのだと思うよ」


 釣りが得意な雨沼さんの憶測によると、後半戦のシズクはあえてスピアーズのメンバー達が勝てる様にする為に、前半戦の時の様な本気を出してはいなかったみたい。


 それにしても、釣りが上手くなると勝敗までも思いのままにコントロールが出来るなんて、シズクの策略にはホント驚かされたと感じた。





 その後、夕方になり、先程まで防波堤で釣りをしていた人達が釣り具を片付け初め、少しずつ帰宅を始めた。


 そんな他の釣り人達と同様に、雨沼さんも先程まで使っていた釣り具を片付け始めた。


 そんな釣り具を片付けて帰ろうとしていた雨沼さんに対し、私はある誘いを行う事にした。


「ねぇ、雨沼さん。もしよければ今晩、スピアーズの皆さんのライブを一緒に観に行きませんか? シズクもゲストで出る凄いライブですよ」


 その誘いとは、今晩メタバース内のスピアーズワールド内のライブステージで開催される、シズクがスペシャルゲストで出るスピアーズのSPフェスの誘いであった。


 ステージ内の席に関しては、早川さんが特等席を確保してくれている為、私の学校の友達を特別に誘う事が出来る余裕があり、その特等席に私は先日のシズクライブのチケットをくれた雨沼さんをライブに誘う事にしたのであった。


「森崎さん、ライブへのお誘いは凄く有難いけど…… ゴメン!! ちょうど今晩は、どうしても外す事が出来ない急用があって、そのライブには一緒に行く事が出来ないよ!!」


「えっ!? そうなの!!」


 しかし、私がライブの誘いを行った後、雨沼さんは急用がある為にライブには行く事が出来ないと、私に誤りながら伝えた。


「そうなんだよ。ちょうど今晩に限って、突然の急用が出来たせいで、メタバースにアクセスする余裕もないので、スピアーズのライブには行けそうにないよ。ホントゴメン」


「まぁ、急用なら仕方がないわね……」


 肝心の雨沼さんに急用がある以上、無理に誘うわけにもいかない為、私は事前に声をかけていた学校の友達の他、リーフィと一緒にライブに行く事にした。


 それと同時に、あと数日でこの町とはお別れなのに、シズクと出会う事が出来たきっかけを作ってくれた雨沼さんにこの町から去る前に恩返しが出来なかった事が心残りになってしまいそうだと、この時の私は少しだけそう感じた。


 その後、雨沼さんが釣り具を片付け終えた後、私は雨沼さんと途中の道まで一緒に帰ったのであった。

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