第32話 2人の対決 前編
私、森崎由亜は今、メタバース内にあるリーフィの部屋に来ていた。
「ユア、いよいよ運命の結果が分かる時が来ましたね」
「そうね。虹川さんは草プロ行きに関して、一体どう考えているのか凄く気になるけど、それ以上に本当にシズクは上手く行くのでしょうか?」
「大丈夫です、ユア!! シズクを信じるのですよ!!」
「どこからそんな自信が出て来るのかは知らないけど、とりあえず今はシズクを信じるしかないのよね」
今回、私がリーフィの部屋に来ていたのは、スピアーズのメンバーとシズクのゲーム対決の生配信を一緒に見る為であった。
メタバース内のリーフィの部屋にある大画面に映し出された映像には、メタバース”スピアーズ・ワールド”内の釣りを楽しむ事が出来る場所が映し出されており、そこには火花さん達スピアーズのメンバー4人とシズクの姿があった。
そんなスピアーズとシズクの生配信は、開始早々に双方のファン達によるコメントが画面横に流れる様に表示された。
「ユア、凄い数のコメントですよ!!」
「それだけ、双方のファン達が観ているって事ね」
たくさんのコメントが表示される中、スピアーズとシズクの生配信によるゲーム対決は始まり、私とリーフィはその行方を画面の向こう側から見届けるのであった。
私、火花晴は今、スピアーズのメンバー達とシズクとのコラボ生配信に出演していた。
「今日はよろしくね。シズクちゃん!!」
「こちらこそよろしくね。ハルちゃん!!」
昨晩、シズク側からの要望として突如として決まったコラボ生配信。正直なところ、あまりの急すぎる生配信である為、流石の私でも内心は凄く緊張をしている。
それもそのはず。普段、私達が行う生配信の時と比べても、明らかに倍以上の視聴者達が観ている中での活動という事もあり、私は凄く緊張していた。
これだけの多くの人が集まるなんて、流石は天下の草プロ所属のバーチャル型アイドル系UTuber。ローカルで活動をしている私達とは完全に格が違うよ……
っと、そんな事を私は心の中で思ったのであった。
そんな急遽決まったシズクとの生配信は、私達スピアーズの拠点地となるメタバース空間“スピアーズ・ワールド”内にある防波堤の釣り場のフィールで楽しむ事が出来る魚釣りのゲーム対決であった。
魚釣りのゲーム対決を提案してきたのはシズクであり、私達はスピアーズ4人で1チームという扱いになる為、1人で戦うシズクにとっては4対1と凄く不利な状況である為、シズクの得意分野のゲームでの対決となった。
ゲームの勝敗はシンプルに、制限時間内にどちらが多くのポイントを稼げるかである。
そんな感じで、生配信開始の挨拶も終わり、視聴者達からの多くのコメントが滝の様に流れる中、私達は画面を操作して釣竿を出しゲームの準備を行った。
そして、いざゲームの準備も終わり、いよいよシズクとの魚釣り対決のゲームが始まろうとした。
「みんなで頑張れば、絶対にシズクに勝てるよ」
「向こうは1人。対するこっちは4人なんだから、この勝負は楽勝だよ」
私と同じスピアーズのメンバーであるユキとウミは、4対1のゲーム対決に凄く自信満々であった。
「そうだね。4対1だと絶対にこっちの方が楽勝だよ!! さっ、みんなで勝利を祈願して、円陣を組むよ」
ユキとウミと同様に、私も4対1の状況である以上、簡単に勝つ事が出来ると思った後、スピアーズのメンバー全員で勝利を祈願する円陣を組もうと思い、メンバー達を自分の元に呼んだ。
「ほらっ、ソラは何ボーと突っ立ってるんだよ。今から円陣を組むよ」
「ほらほら、早く来る」
「あっ…… はいっ!!」
私が呼びかけた後、ユキとウミはすぐに私の元に来てくれたものの、ソラだけは目の前の海を眺めながら突っ立っていた為、私とユキがソラに向かって呼びかけると、その呼びかけに気づいたソラは慌てて私達の求めと駆け寄った。
そして、スピアーズのメンバー4人が揃い、勝利を祈願しての円陣を組んだ後、いよいよシズクとの釣り対決が始まった。
「4対1である以上、私達が絶対に勝つからね!!」
「私が1人だからと言って、かなり自信があるようね…… そんなに自信があるのならさ、何か賭けをやらない?」
「賭け?」
「そう。もし、この4対1の釣り対決でこの私が勝ったら、ハルちゃんトコにいるソラちゃんを私にくれない?」
「えっ!?」
突然のシズクの発言に、私は凄く驚いた。
そのシズクの衝撃発言は、私だけでなく生配信を観ていた多くの視聴者達にも衝撃が走ったのか、大量のコメントが勢いよく流れた。
「そのまんまの意味。ソラちゃんを私にくれないかな?」
「いっ、いやぁ…… スピアーズは4人で1人のグループだし、1人でも欠けたら、そっ、それは、スピアーズじゃないよ!!」
「そうかな? 今のハルちゃん達なら、4人で1人でなくても、1人1人それぞれの個性が出て輝いているし、十分にソロとしても活動ぐらい上手く出来ると思うよ?」
「そっ、それは、まだ…… 今の私達には、はっ、早いと思うよ……」
「そんな事を考えていたら、いつまで経っても前には進む事は出来ないし、何事も挑戦をするなら1日でも早い方が良いよ。だからさ、この勝負の敗北をきっかけに、まずはソラちゃん。スピアーズというグループを抜けて、私がいる草プロに来てソロとして活動をしてみない?」
シズクが喋り続けた後も、視聴者達からのコメントの嵐は止まる事はなく、ましてや先程以上にコメントの流れる勢いが増した。
確かにうちにいるソラは現在、草プロ行きに関する話があるけど、まさか生配信という場所で多くの人が観ている中でソラの草プロ行きを誘って来るとは、流石は天下の草プロのやり方……
ソラがスピアーズから抜けてしまうと、私達が子供の頃から今まで4人で作り上げて来たスピアーズというグループが終わってしまうかも知れないという心配や不安があるものの、ソラの今後の事を考えると応援しないといけないとついつい思ってしまい、どうしても私には呼び止める事が出来なかった。
「ねっ、ソラちゃん? どう、草プロは? きっとソラちゃんなら、草プロに来てもきっと上手く行くと思うよ。今こそキャリアアップを目指して、もっと上に行くチャンスだと思わない?」
「たたっ、確かに、そうかも知れないですね……」
そして、ソラの元まで近づいたシズクはソラの耳元で喋ると、それを聞いたソラは驚きと同時に凄く緊張をした様子で返答をした。
「でしょう。草プロに来たかったら、この勝負、わざと負けてもいいのよ」
その後、驚いて緊張をしているソラの耳元でもう一言呟いた後、シズクはソラの元を離れた。
その後、私達の準備は終わり、ソラの命運をかけた釣りのゲーム対決がいよいよ始まろうとしていた。
「みっんなぁ~!! 絶対に勝ってみせるから、応援よろしくね!!」
釣りのゲーム対決が始まる前、シズクは多くの視聴者達に挨拶を行った。
「ほらっ、ハルもみんなに挨拶をしないと!!」
「あっ、そうだった!! みんな、私達スピアーズが4人で1つの力を合わせて絶対に勝ちますので、皆さん、応援よろしくお願いしまう!!」
シズクの挨拶の後、ユキに言われるがまま私も生配信を観てくれている視聴者達に挨拶を行った。
シズクと比べると多少堅苦しくなったものの、これはこれで私達スピアーズらしくて悪くないと思った。
その後、お互いの視聴者に向けての挨拶を終えた後、いよいよ釣りのゲーム対決が始まった。
釣りのゲーム対決が始まった後、私は釣竿にルアーを装置させた後、そのルアーを海に向かって投げて魚が引っかかるのを待つのと同時に、色々と脳裏がよぎった。
今回、シズクとの釣り対決により、私達は生配信を観てくれているファン達に楽しんでもらう為、事前に凄く強力な釣竿とルアーのセットを課金をして入手した為、これを使って生配信でのゲーム対決は盛り上がろうと思っていた。
最も、この生配信の為だけに凄く強力な釣竿とルアーのセットを入手する事が出来たのは、先日ソラが森崎さんとリーフィと一緒にテストプレイ中に入手したレアアイテムである刀を売ってたくさんのゴールドを入手してくれていたおかげでもある。
その為、たくさんのゴールドを用意してくれていたソラに悪いと思い、シズクとの釣りのゲーム対決は絶対に勝とうと思っていた。
しかし、先程のシズクの発言により、この釣りのゲーム対決は勝っていいのか疑問に思ってしまった。
それもそのはず。ソラの草プロ行きを賭けての釣りのゲーム対決になってしまった為である。
本来なら、ここはソラの草プロ行きを阻止する為に私達が全力を出してシズクとの釣りのゲーム対決に勝った方が生配信的には盛り上がる様に思えるが、実際はどうなんだろう?
ソラが草プロに行くかも知れないという話は前々からあった事だし、特に数日前にシズクから急にその事を言われた時以降、ソラはその件について凄く考えている様にも見えた。
ソラは草プロに行くよりも、このままずっと私達とスピアーズとして一緒に居たいと思っているのかも知れない。
でも、スカウト先はあの今話題の事務所の草プロだよ?
草プロになんて、普通はなかなか行く事なんて出来ないんだよ。
そんな大チャンスを得たソラに対して、今の私達がやらないといけないのは、草プロ行きに対して迷っているソラの背中を押す事だと思っていた。
でも、本当にそれでいいのかな?
この釣りのゲーム対決に私達がわざとでも負ければ、ソラはスムーズに草プロに行く事が出来ると思うけど、どんなきっかけとはいえ、こんなやり方でいいのかな?
シズクとの釣りのゲーム対決中にも関わらず、今の私の頭の中はその考えでいっぱいだった為、肝心の釣りのゲーム対決にはなかなか集中する事が出来なかった。
「ハルッ!! 魚が釣れたみたいだよ!!」
「何やってんだよ!!」
そんな時、私の投げたルアーが海の中を泳ぐ魚に引っかかった事に気づいたユキとウミの慌てる声に気づいた私は、慌ててリールを巻く事にした。
「あっ!! 急がないと!!」
そして、急ぎながらリールを巻いたせいなのか、途中で魚が逃げてしまった。
「残念。逃げられちゃったよ……」
「残念じゃないよ。せっかくの得点、逃したじゃない!!」
「全く…… ハルらしくないね」
アハハ…… 確かにこれは私らしくないのかも。
一応、魚を逃した後、私は怒っているウミとユキに平謝りをした。
その後は、気を改めて釣りのゲーム対決に集中をしてみたものの、結局釣れるのは木の枝やゴミと言った、どれも点数にならないものばかりであった。
「見た感じ、肝心の魚が釣れていないけど、もしかして、ソラちゃんの為にわざと負けるつもりなの?」
「そっ、そんな事はないよ!! ただ単に、魚が釣れないだけだから!!」
私達があまりにも点数になる魚を釣っていなかった為、隣で魚を釣りながらその様子を見ていたシズクから、ソラの草プロ行きの為にわざと負けているのかとさえ言われてしまったが、そんな事は決してなく、本当に魚が釣れない状態である。
一方のシズクに関しては私達とは異なり、たくさんの魚が釣れていた。
「そうなの? それにしても、魚が全く釣れていないね」
「そう言うシズクさんは、どうしてたくさんの魚を釣る事が出来ているの?」
「それはね…… 単に魚が良そうな場所をシンプルに狙っているだよ」
「シンプルにって、それだけでそんなに釣れるの!?」
「とりあえず、見極める力を身に付ければ、ある程度は釣れるよ」
シズクは簡単そうに言うものの、釣り経験がほとんどない私にとってはその見極めすら凄く難しく感じてしまった。
それと同時に、現時点ではシズクとの大差が付いてしまっている釣りのゲーム対決、ソラの草プロ行きに関する話にはどう答えたらいいのか分からず、今の私はいつもの様にゲームで盛り上がる事が出来ない状態であった。
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