第62話 坑道へ
技量に差があるとはいえ、数十もの相手をさばき続けるというのは簡単ではない。
それをグリードは、消費される体力と、これから相手をするであろう敵の面々を目にして、嫌という程に実感を得ていた。
しかし、グリードの口から出てきた言葉は、そんな内情とは真逆のものであった。
「ったく、どんだけ数がいるんだよ。これじゃあ、全員潰してたら日が暮れちまう」
激闘の最中であるにも関わらず、余裕を感じさせるグリードの言葉。
それは、控えて攻撃のタイミングを計っているマルクの手下たちを刺激するには十分過ぎるものであった。
「こいつ、余裕かましやがって!」
手下の一人が、正々堂々とは無縁の、背後という死角から近づき、不意打ち気味にナイフを突き刺そうと突進してくる。
ただ、それもグリードは既に見抜いていたらしく、一切顔を向けることなく、気配のみで男の攻撃タイミングを悟り、その長い脚で胸部を突き飛ばす。
「ぐえっ!」
無理やり空気を押し出したような、潰れたような声を吐き出しながら手下は吹っ飛び、後方に控えていた輩を巻き込んで、スペースが生まれる。
そこで一旦グリードは攻撃の手を休め、これからの動きについて、一旦考えを巡らせた後、宣言をする。
「さすがに、俺は最後まで付き合ってやるほどお人よしってわけではないんでね、少しばかり汚い手を使わせてもらうぞ」
「この状況で何ができるってんだ。やれるもんなら、やってみろや!」
威勢よく声を張り上げ、吠える手下たち。
しかしながら、グリードはそれらの声を軽く聞き流しながら、目線を男たちの更に向こうへ側へと移し、ある場所の位置を確認する。
「……よし、じゃあ、戯れは終わりだ」
グリードの視線が止まった先――それは線路の延びた坑道の入口であった。
距離と、残りの人数、そして自分の体力、それらを総合的に判断し、グリードは黙ってうなずくと、無言でスタートを切る。
「なっ⁉」
真正面から突っ込んでこようかという輩を、グリードは今回の戦闘で初めて、相手の肩に手を着き、まるで腕の中にバネでも仕込んであるかのように、軽やかに宙を舞い、飛び越えた。
突然に見せつけられた、グリードの予想外の行動に、その場に居た、すべての敵が、動きを止め、固まったまま見上げる。
無論、眼前の敵一人を飛び越えた先にも、輩は大勢いるわけだが、彼らもまたグリードの姿を見上げ、向かい討つという準備が整ってはいなかった。
そこへ、グリードは空中にて体勢を整え、膝から着地点に立っていた男へと落ちた。
グリードの膝をガードすることもなく、まともに受け、男は反撃ひとつすることなく、その場に昏倒し、グリードの下敷きとなる。
いきなり上方から降ってきた相手を前に、それまで息巻いていた周囲の輩も驚き、思わず距離を置いてしまう。
その隙間を、グリードは見逃さない。
仮に相手が襲い掛かってきたとしても、脚の下にいる男の武器を奪って強引に突破を考えていたグリードは、当初の思惑通り、再び動き出そうとする人間の波の、その合間を縫うようにして、抜け出る。
そして、一直線に坑道へと向けて駆け出したのだった。
「おいっ、逃げたぞ! 追え! 絶対に逃がすな!」
どこからともなくグリードを追う声が上がり、それに突き動かされるように、男たちの波は、方向を変えて、これまた坑道へと向かって、線路を飲み込むように進んでいく。
その様子を、グリードはチラリと背後へ目を向け、しっかりと確認した後、再度視線を前へと戻し、踏み出す脚へと力を込めた。
若干凹凸のある、それでいて線路も通っている、決して走りやすいとは言えない足元。
そこを、つまずいたり、失速したりすることなく、器用に足を着きながら、グリードは、設置された松明が申し訳程度に坑内を照らしている、薄暗い坑道の中へと飛び込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます