第35話 黒服の男、ダン
「まさか、また会うとはな……何の用だ?」
下っ端二人とは違い、落ち着き払った様子で黒服の『アニキ』は肩を回しながらグリードへと尋ねる。
その眼差しは冷たく、見るモノすべてを射すくめるかのような迫力を含んでいた。
しかし、対面するグリードも一切動じることもなく、室内に漂う緊張感などどこ吹く風といったように軽口で返す。
「列車で奪った荷物を取り戻しに来た。できるなら荒事は避けたいんだが、返してもらえるか?」
「そういう交渉をしたいなら、事前に連絡を取ってもらわないとな。いきなりやってきておいて、荒事は避けたいだなんて、どんな冗談だ?」
「だって、連絡したところで取り合ってなどくれないだろう?」
「わかってるじゃないか」
「じゃあ、腕づくで奪還するしかないな」
そう言うなり、グリードは眼前で現状をうかがっていた、下っ端の男のうち一人――橙のシャツを着た方の男の襟首を素早くつかむと、そのまま背負いあげてドアの外側へと向けて投げ飛ばす。
「うがあっ!」
投げられた男は、襲われることはあっても投げられるとは思っていなかったのか、とっさに受け身を取ることもできず、マットなど敷かれているはずもない通路の堅い床に背中から落下し、横たわったまま、苦しそうな声を上げた。
「てめぇ、よくもっ!」
もう一人の下っ端――黄色いシャツの男は、仲間に手を出されたことに、怒りを露わにして、携帯していたナイフを鞘から引き抜くなり、グリード目がけて突進をしてくる。
「来いよ、仕留めてやる」
挑発の言葉と共に、グリードは手先を軽く返して男の感情を逆なでする。
あからさまな誘い込みにも関わらず、黄色いシャツの男は刃を光らせたナイフを手に、愚直に、グリードの胸元へ目がけて腕を伸ばす。
次の瞬間、思いきり蹴り上げられたグリードの足は、ナイフを握る男の手に直撃する。
「ぐっ……つぅ……」
容赦なくぶつけられた脚の一撃に男の指が耐えられるわけもなく、握られていたナイフは男の手を離れ、宙高く回転しながら後方へと飛んでいき、天井、壁、そして床へとぶつかり、高い音を上げて、その刃を割った。
「おらっ!」
それからわずかな間を置いて、グリードは、身体を縮ませながら蹴られた手を押さえながら顔をしかめる、黄色いシャツの男の頭部目がけて、回し蹴りを仕掛ける。
鈍い音が響いたかと思えば、側頭部でまともに蹴りを受け止めた男の意識はぷつんと途切れ、まるで置物が倒れるかのように床へと倒れる。
「……こんなもんか」
軽く手を払いながら、グリードは倒した下っ端たちの姿を一瞥し、そして今一度部屋の主ともいえる相手――黒服のアニキへと気怠そうな視線を向けた。
「これでも、渡してはくれないのかな? 黒服のアニキさんよ?」
両手を広げ、自らの成果をアピールするかのようなグリードの態度に、唯一残された黒服の男は、片眉を吊り上げながらも、感情的にならないよう必死に努めながら、言葉を返す。
「さすがにお前にアニキと呼ばれたくはないな」
「悪いな。さっき表で会ったヤツがアニキって言ってたからよ」
そう言って親指で後ろを指し示すグリード。
その態度に、黒服は一度息を吐き、熱くなった精神を冷却するように呼吸をし、心を落ち着けると、ビジネス的な硬い笑みを浮かべ、答えた。
「なるほど。それでは、私のことはダンと呼んでくれ。グリード」
「わかったよ、ダンだな。それにしても、俺の名前まで覚えてくれているだなんて、ご苦労なことだな」
「一応、この町を拠点にするなら、それなりの情報は集めておくものだ。脅威や障害になりそうな組織や人間は、特にな」
そう告げると、ダンと名乗った黒服は、半身に構える。
それに応えるように、グリードも同様に半身に構え、向かい合った。
ロベルトの自室に比べれば狭い部屋だが、それでも人間二人が向かい合うには十分すぎる広さがあり、部屋奥に机やら戸棚やらが集まっているおかげで、注意すべきは二人の間にあるテーブルとソファくらいなものであった。
「それじゃあ、覚悟はいいか?」
「そっちこそ、ロベルトの一派に手を出したこと、後悔するんだな」
邪魔者の入らない、二人だけの空間。
互いの言い分が吐き出されたところで、両者はほぼ同時に動き出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます