第52話 最終回その1 ただいま、おかえり

「では、リンクスタート!」

 


 いや、ちょっ、その掛け声はちょっとまず───

 


 気がつくと、真っ暗な世界に俺たちは立っていた。

 


 


 


 サキュ子、もサキュ美、エル子もここにはいる。

 


 こうして並ぶとやはり、これだけでは俺たちにはやはりあの少女が足りないのだと気がつける。

 


 さあ、行こう。

 


 


「うわ、暗いな」

 


「デバッグおにいさん、だいじょーぶ」

 


 サキュ美は電撃の球を放ち、空中に浮かせて灯り代わりにする。

 


 かろうじて足元は見えるようになった。

 


「わたくしはアリ子さんを探してみますわ。精霊憑依───これ…いいえ違う。これ…?」

 


 エル子の精霊憑依でも分からないか。

 


 


 そうだ、ここでは特徴が一致している必要があるんだったな。

 


「俺たちが強くアリ子をイメージすれば、少しは正解に近づくんじゃないか?」

 


 俺の提案にみなは頷く。

 


 


「そうね、アリ子は気が強いように見えて案外繊細で、なのに人一倍気を使う器用な子ね」

 


 サキュ子は呟く。

 


「でも、優しくて料理が上手で、おかあさんみたいな人」

 


 サキュ美が呟く。

 


「わたくしの友人の妹で、強かな強さを持ち合わせた豪傑、ですかね…」

 


 エル子も呟く。

 


 俺の番か。

 


「アリ子は黒髪でめちゃくちゃ可愛い。美少女だ。あといい匂いがするし、胸の形がいい」

 


「「「えっ」」」

 


 


 みなが揃ってこっちを見る。

 


 いやだって、特徴じゃん。

 


 俺は間違ってないもん。

 


 …やっぱごめんアリ子。

 


 


「最悪ですわ…。いまのデバッグおにいさんのセクハラ発言で精霊がそれっぽい反応を見つけてしまいましたわ」

 


「マジか…」

 


 マジでごめん、アリ子!

 


 しかし、灯りはあるが全て黒塗りで、道が分からない。

 


「それは心配ないわ、あたしは暗視で見えるから、幻術で着色してあげる」

 


 サキュ子の幻術により、暗い世界に緑の線でハッキリと見えるようになった。

 


「ありがとう、みんな」

 


 


「こっちですわ、さあ!」

 


 俺はエル子に言われるがままに進んでいく。

 


 


 だいぶ進んだな。

 


 もう後には引き返せない。

 


 


「ここから先はわたくしたちでは行けないようですね。それにあまり時間もないようです。デバッグおにいさん、さあ、行ってらっしゃいませ」

 


 


「ああ、行ってくる」

 


 


 俺は暗い道を駆ける。

 


 漆黒の中を駆けて、ついにアリ子らしき人物を見つける。

 


 


「お、アリ子! おーい!」

 


 だが、アリ子は振り向かない。

 


 俺は近寄る。

 


 


 しかし見えない壁のようなものにぶつかってこれ以上進めない。

 


 


 これに音も遮られてしまっているようだ。

 


 音が通じないということは、どこもアリ子には繋がっていないということ。

 


 ここは引き返すしか…。

 


 


「だいじょーぶ…です…おにーちゃん」

 


 突如現れた白いふわふわの幼女を、俺は知っている。

 


「ヴィルヘルミナ、こんなところまで来てくれたのか」

 


 


「ええ…ここはまかせて…」

 


 ヴィルヘルミナは身体を黒いオーラに包むと、かつての巨大な鎌をぶん回してた頃の姿になる。

 


「破壊…する…」

 


 ヴィルヘルミナの一撃は見えない壁をぶち壊す。

 


「ありがとう、ヴィルヘルミナ」

 


「行ってらっしゃいませ、お兄ちゃん」

 


 大きなヴィルヘルミナは俺に抱きつくと、背中を押す。

 


 


 妹、最高だぜ。

 


「アリ子! おーい!」

 


 俺はアリ子に駆け寄る。

 


 だが、それと同時に床の崩壊が始まった。

 


 俺は落ちそうになるが、踏ん張って前の床にたどり着く。

 


 だが、その床も崩壊を始める。

 


 


「デバッグおにいさん!?」

 


 アリ子は振り向いた。

 


 よかった、ちゃんと聞こえたな。

 


 


「こい! こっちに!」

 


 このままではアリ子に触れられない。

 


「でも、わたし…」

 


 く、もうダメだ、落ちていく。

 


 


「俺を信じろ! 俺の名前を言ってみろ!」

 


「デバッグ…おにいさん。デバッグおにいさん! そうでした、不可能を可能に!」

 


 アリ子はいつもの笑顔を取り戻す。

 


 


「うおお!」

 


 俺は飛ぶ。

 


 アリ子も俺に向かって駆ける。

 


 


 あと少しだ。

 


 あと少しで手が届く。

 


 


 あと少し…!

 


 その指先は───

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