第42話 しっかり過去と向き合ってこ その1
「くっ、俺も新技バリエーションの練習しとかないと…!」
これはね、由々しき自体よ。
よく考えると、いやよく考えなくても俺にはパンチしかないもんな。
だが、考えている余裕はない。
次々に天使はやってくる。
「やああ!」
アリ子はシキナキとの跳躍でコアへと迫る。
今回は向こうから来る展開だったため、空高くまで追いかける必要はない。
そのままブロードソードをコアに突き立てる。
「…やった!」
アリ子は喜びの表情を見せるが、コアは砕けてはいなかった。
「アリ子、危ないぞ!」
コアはさらに光を放つ。
これはビームの前兆だ。
どうにかして止めなければ。
「アリ子、心は穏やかに」
たった一息で大きく跳躍した青年騎士は、熱線からアリ子を一振りの長剣で守り抜く。
「お、お兄さん!」
「無事で何よりだ…。それよりも、剣を握れ」
アリ子兄はアリ子を守り抜き、咄嗟の瞬間でアリ子の手から零れた剣を手に戻す。
「はい…! 心に情熱を! やああ!」
アリ子は再びコアに剣を突き立てる。
今度は型などを殴り捨て、力任せに全体重を乗せて貫く。
「やった!」
コアは砕け、天使は地に落ちる。
「…上出来だ」
そう言い残すと目にも止まらない速度で兄は別の天使へと飛び込んでいった。
俺の出番が…。
幸いにも、目の前にもう一体天使が来てる。
「エンチャントファイア・オーバーロード!」
とりあえずワンパンで倒しておいた。
くっ、ぷかぷか飛んでないでもっと俺の方に来んかい!
こうなれば手っ取り早く魔王城へと駆けていくか。
アリ子兄姉はめちゃくちゃ強そうだし、なんとかなるだろ。
「アリ子、エル子、俺たちは少数の良さを活かして魔王城へと向かうぞ」
「はい!どこへでも!」
「ええ、長引かせるのは良くないでしょうし、賛同しますわ」
俺たちは魔王城へと向かう。
首を洗って待っていろ、真魔王ヴィルヘルミナ!
*
「どうやらちゃんと着いたようね」
魔王城とあたしの家は近い。
あたしの家の庭に転移できれば、それは魔王城へと転移できたと言っても過言ではないだろう。
すぐそこにヴィルヘルミナがいることを感じる。
「てっ」
最愛のキュートサキュバス、ジゼルが盛大に顔からすっ転んで転移門から現れる。
「うわっ、だいじょうぶ?」
あたしが駆け寄ると、ジゼルはあたしの頭を撫でる。
「おねえちゃん、心配しすぎ。逆におねえちゃんが心配になっちゃうよ」
そう言いながらあたしを抱きしめる。
く〜、天使か!
「にへへ…って、そうじゃなかった。あいつのところに行かないと」
そうだ、今回はやりとげたいことがあるのだ。
惜しいが、ここは立ち止まっている場合ではない。
「そうだね、おねえちゃん。いこう」
デゼルとあたしは羽ばたいて一気に魔王城へと行こうとしたその時だった。
「どこへ行こうっていうんだい? デゼル、ジゼル」
目の前には、悪魔が立ち塞がった。
あたし達は、この悪魔を知っている。
前任魔王の側近であり、好敵手であり、最愛の人であり、そしてあたし達の唯一無二の父親。
「パパ。いえ、ベルゼブブ・モンドワール」
裏の魔王、ベルゼブブ。
「…邪魔しないで」
ジゼルは父に対して初めて嫌悪感で埋めつくしたような声音で声をかける。
「…ヴィルヘルミナのコンソールコマンドというので知ったんだ。僕はね、本来は魔王四天王と呼ばれる存在らしい。そして彼女は、魔王なんだ。僕は───」
「───違うでしょ」
あたしの一声に、父は固まる。
魔王四天王だからなんだというのだ。
そんなものに、単なる称号に父が縛られるはずがない。
それに今は四天王でもなんでもないのだ。
「───どうしてそう思ったんだい?」
「顔を見ればそんなこと分かるわ。だって、苦しそうじゃない。教えて」
理由を知らねばなるまい。
「…ああ、いいよ。全部見せるよ。でもいいのかい? きっとデゼルもジゼルも考えが変わってしまうかもしれない。それでも、いいのかい?」
「ええ、構わないわ」
ジゼルもこくこくと頷く。
「じゃあ見せるよ。じっとしているように」
辺りが白い光に包まれていく。
一瞬目を閉じると、見たことのある景色が眼前に広がる。
「ここは…」
目の前には玉座がある。
そこには凛として母が座している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます