第31話 行ってきます

 ───魔界・魔王城───

 


 少女は黒く、大きな鎌を振るう。

 


 それは直撃しなくとも、衝撃だけで魔王城の城壁を破壊します。

 


 


「くぅ、なんやこの少女は! デタラメ過ぎるわ!」

 


「川田、こいつの攻撃を受けようとは思うなよ!」

 


「ぴよっ!(了解です!)」

 


 


 しかし困りました。

 


 私川田のスライムの攻撃が何も通じないとは。

 


 全ての攻撃があの黒い宙を浮く物質に吸収されていきます。

 


 


「…」

 


 少女はヴァンパイア加藤さんに鎌を振るい、それを加藤さんは必死の形相で避けます。

 


「あっ、マントが!」

 


 


 最大の武器であり防具でもあったヴァンパイア加藤さんのマントが持っていかれます。

 


 


「くっ、ワイのバックラーも役に立たんし、万事休すやな…!」

 


 謎の少女に我々魔王四天王は追い詰められていきます。

 


 ですが、諦めるわけにはいきません。

 


 


 課長が戻ってくるまで、この魔王城を死守しなければ。

 


 課長、めっちゃ怒るだろうな。

 


 


 しかし、どう戦うべきか…。

 


「破壊…する…」

 


 今度は私へとロックを移したようです。

 


 


 一瞬にして距離を詰め、大鎌を振るいます。

 


「ぴー! (ふー、危ない)」

 


 ギリギリ回避に成功します。

 


 


 しかし、少女は半回転すると、そのまま安田さんへと振るいます。

 


「な、こっちやと!」

 


「…」

 


 


 安田さんは左手にバックラー、右手にショーテルのスタンダードな騎士スタイルで戦っています。

 


 


 安田さんは卓越したプレイヤースキルにより、盾で攻撃を受け流します。

 


 


「ふ、ワイにはな。守るべきものがあるんや!」

 


 ですが、安田さんの頭上には四枚の刃が浮かんでいます。

 


 回避不可、防御不可の一撃が繰り出されようとしていました。

 


 


「奥義、骨砕斬…」

 


「刺し違えて!」

 


 それを安田さんは避けようとはせず、正面からショーテルで攻撃をしかけます。

 


 


 ですが、どう見ても安田さんの攻撃は届かない。

 


 私と加藤さんはダメだと思ったその時でした。

 


 


「ン…ン…ンつくしい!」

 


 突如、安田さんは安全域へと瞬間移動をします。

 


 


「なんや、案外遅かったやないか。この薄情もんが」

 


「今はそれで構いません。ですがこのユニコーン大久保、誠心誠意尽力させていただきます」

 


 なんと、元魔王四天王の白馬のユニコーン大久保が、帰ってきたのです。

 


 


「我、来タレリ」

 


 さらに、辺り一面を影が覆ったかと思うと、上空には黒よりも黒々とした龍が佇んでいました。

 


 


「「「『暗黒破壊神龍ガイア!』」」」

 


 私と加藤さんと安田さんは思わずハモリました。

 


 いける。

 


 


 これならいける。

 


 


「安田先輩。このンつくしい俺さまの背中に乗ってください。人馬一体の攻防と行きましょう」

 


「ああ、負ける気がせんわ!」

 


 さあ、形勢逆転です。

 


 第二ラウンドと行きましょうか。

 


 


 


 


 


 


     *

 


 


 


 


 


 


 ───B98Fにて

 


「ええ、そうですか…」

 


 どうやら数時間前にダークナイト山根が倒されたらしい。

 


 魔王四天王の五本の指に入るであろうあの男が倒されるとは。

 


 


 あの男の進行スピードを考えれば、もうすぐここに辿り着くだろう。

 


 そう、文字通りすぐにだ。

 


「瀬川クン、ガイアの転移陣はもう使えるのかね」

 


「ええ、ばっちりっす。あとはガイアの意思次第って状態ですかね」

 


 それの心配はあるまい。

 


 


 生みの親であるこの私の命令に背くはずがない。

 


 なぜなら、考案者は小学生の時の私だからだ。

 


 


『ぼくのかんがえたさいきょうの暗黒破壊神龍』が、言うことを聞かないわけないのだ。

 


「さて、ガイアに連絡を入れますか…」

 


 私はガイアに通話を挑む。

 


 すると、すぐに応答した。

 


 


「もしもしガイア。そろそろお時間ですよ。こちらに来てください」

 


「我、今チョット無理」

 


「…はい?」

 


 


 それ以降はなんの返事もなかった。

 


「…なぜだ、何故だー!」

 


 相棒の素っ気ない対応に、思わず大きな声を上げる。

 


 


「可哀想な人だな…」

 


「ですね…」

 


 


 めちゃくちゃ失礼な声が聞こえたので、振り返る。

 


「ふ、失礼な。誰が可哀想な…あがっ」

 


 


 正直、顎が抜けるかと思った。

 


 なぜならそこに居たのは…

 


「デ、デバッグおにいさん…!?」

 


 史上最悪の男と、その仲間たちだったのだ。

 


 


 


 


 


     *

 


 


 


 


 


「よし、間に合ったな」

 


 俺たちはこの大迷宮を爆速で駆け抜けることにより、本来戦うことのないはずだった魔王パイセンにたどり着くことができた。

 


 


「さあ、お覚悟を!」

 


 アリ子は剣を構える。

 


 


「ま、待て待て待て。ウェイトですよ、ウェイト」

 


 魔王パイセン、いつになく慌ててるな。

 


 


「何度見ても残念な男ね…」

 


「本当に可哀想な人…」

 


 


 サキュ姉妹、その辺にしておいてやれ…。

 


 


「精霊憑依。ここで戦いになれば倒せる確率は95%です。さあ、いかがなさいますか? デバッグおにいさん」

 


 エル子の分析は役に立つ。

 


 ならば、仲間の言葉を信じよう。

 


「ああ、畳み掛ける! さあ、勝負だ魔王パイセン!」

 


 


「くっ…くそぉ!!! コンソールコマンド、ムーブ! ルームID43994399! セル、デバッグルーム!」

 


 突如、空間に次元の裂け目のようなものが生まれ、それに吸い込まれるようにして魔王パイセンは消えていく。

 


 コンソールコマンド、それはデバッグのためにあらゆる条件を満たすことができるチート級のコマンドだ。

 


 いうなれば、デバッグ技の極地だ。

 


「コンソールコマンドか。ついに禁じ手に手を出したな、魔王パイセンよ」

 


「管理者権限を行使しただけですよ。では、99階でお会いしましょう」

 


 


 そう言い残し、完全に消え去った。

 


「あ! 逃げた! どうしましょう、デバッグおにいさん」

 


「大丈夫だ、俺に考えがある」

 


「え?」

 


 みなきょとんとしている。

 


 


 魔王パイセンの逃げた先はデバッグルーム。

 


 デバッグルームとは、この世界の全てのアイテムが存在し、あらゆる状況を再現することが出来る究極の部屋だ。

 


 そこでは何でも手に入る。

 


 そのため、一般のプレイヤーがデバッグルームに入ることはできない…と思うかもしれない。

 


 


 だが、ルームIDから座標を割り出すことはできた。

 


 あとは壁を抜けるだけだ。

 


「ここから先は俺一人しか行けない…みんな、ありがとう。ここまで付き合ってくれて」

 


「今更水臭いですよ! じゃあわたしたちは待ってますから」

 


 アリ子はぎゅっと俺の手を握る。

 


 ありがとう。

 


 


「そうよ、あんたならきっと出来るわ」

 


「…いってらっしゃい」

 


 サキュ子、サキュ美、ありがとう。

 


 


「ついでに美味しそうなお酒を見つけたら持ってきてくださいね」

 


「お前はいつも自由だな、エル子」

 


 


 みな、俺にそれぞれのエールをくれる。

 


 大丈夫、俺ならできる。

 


 


 いつだって不可能を可能にしてきたのだ。

 


 デバッグおにいさんに不可能はない。

 


 


「それじゃ、行ってくる!」

 


 俺の言葉に合わせて、みな口を揃えて言う。

 


 ───行ってらっしゃい───

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