エピローグ

 初めて特殊能力があることに気がついたのは12歳だった。


 宙に浮けるという能力だ。


 ずっと隠していたけど、そのうち父と母にはばれて、両親は厳しくそれを隠すように言ってきた。


 能力があることがばれたらここにはいられない。

 それは当たり前のことだ。


 それはわかっていたのにある時、子供を助けるためにボクは能力を使ってしまった。


 そして捕まり、何度も裁判と管理された部屋を行ったり来たりする生活が続いた。


 そんな中でボクの心を奪った言葉。


「空を飛べる能力なんて」


 『空』、その言葉は不自由な身にとって唯一の希望だった。


 父も母も友人も先生も、それ以外も多くの人が助けようとしてくれたのはありがたかったけど、ボクの中では追放を望む気持ちがどんどん大きくなっていった。


 お爺ちゃんやお婆ちゃんも生まれていなかった時代、人は空の下で暮らしていたらしい。

 大衝撃が起きる前、伝説のような昔話だ。


 特殊能力者はここでは暮らせない。

 そんなことは学校で習うまでもなく当たり前のこと。


 自分がそうなるなんて思っても見なかったけど、なった以上はそうしなきゃならない。


 特殊能力はあってはならないもの。

 それはルールだ。

 そうして人は生きてきたし、疑問を挟む余地もない。


 出界口に連れて行ってくれる役人は沈痛な面持ちで「恨まないでくれ」と言った。


 恨む筋合いなんてどこにもない。

 悪いのは特殊能力が出てしまったボクなのだ。

 ただのルール。

 ルールから外れたボクはそれに従わなければならない。


 だけどボクの心はどこか晴れやかだった。


 空の下に行ける。

 空を飛べる。


 その期待感は、別れの悲しみや寂しさを紛らわせるのに十分だった。


 出界口から出て見渡した景色は色がなかった。


 灰色の地面。

 岩と砂、雲と煙。

 見上げると灰色の空。


 今まで見たこともない天井のない世界。


 ボクは空を飛んだ。


 空は怖いくらいに高かった。


 どこまで上がっても上のない空間。

 それが空だった。


 思い描いていた青空ではなかったけど。

 寒くて涙が出そうだったけど。

 それでもどこまでも行けるその広い空間は、ボクの人生で最高の開放感だった。


 どのくらい空を飛び続けていただろう。


 色のない世界に色が現れた。


 緑が広がり、植物が生えていた。


 降りていくと、そこには天に向かって建つ建物があった。


 恐る恐る近づくと、金属の歪む音がして人の叫ぶ声が聞こえた。


 少しだけ宙に浮いて、いつでも逃げられるようにして伺う。


「フレッシュ!」


 車輪の付いた鉄の塊の下からボクと同じくらいの年頃の少年がそう言って顔を出した。


 ボクを見ると少年は目を丸くして、汚れた服のホコリを払う。


 そして笑顔でこう言った。


「やぁ、なにかお困りかね?」



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星降る空にヒーローは笑う 亞泉真泉(あいすみません) @aisumimasen

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