I Wanna Hero

あっとえす

第一章 きっと死ぬって何よりも怖いのだろう

第一輪 零

 この世界は果てしなく広がり続け、道ゆく敵も、あらゆる資源リソースでさえ無限である。

 生き方はその人次第、国を作るも、盗賊になるも、殺人だって自由だ。

 しかし、何をしてもいい代償に、一つ絶対的な決め事ルールが存在する。


 命は一つだけ


 この世界で年をとる事はない……が、死は存在する。


 この世界では、広がり続ける土地を制御する為に100km間隔で門が存在する。その門を守る為のモンスター、いわゆるボスが存在する。それを倒さなければプレーヤーは新しい土地を手に入れる事はできない。だがボスの圧倒的な強さを恐れた者達は、coward臆病者という軍団を作り、始まりの大地を占拠した。ゲームが始まって早々、住む場所を失った者達は外周へと進出し、門を見つけ新しい土地を手に入れる事に必死になっていた。

 一度死ねば二度と戻ってこれない、現実にも、ゲームにも。世界の名はInfinite worldインフェネイト ワールド

 またの名を––––

《紡がれる場所》。


 そして、これはその世界で必死に生きる者達の姿を描いた物語。


 


 第一の門

 

 守護者:???


 どこからか現れた艶めかしく光る大鎌が、前衛プレイヤー達の四肢を切り落としてゆく。多くの死体と武器の山にまた、一つ、一つと死の証である魂の抜けた肉体が積まれていった。

 前衛には知名度や経験値を狙って参加した、まだレベルの低いプレイヤーが多く集まっていた。

 中には強いプレイヤーもいるのだが……

 先程から、あらゆる攻撃をあの隆々とした両腕で構えた大盾で弾いているプレイヤーだ。その後ろには、小柄なプレイヤーが次の攻撃を盾持ちが弾くのを今か今かと待っていた。名をタツとクウ、戦闘において彼らが不利な場面に陥った姿を見た者はいない。安定したプレイスタイルで上位プレイヤー達の信頼を集めていた。


 下半身を失っている巨大な骸骨型のモンスターは、自らに近くモノをひたすら破壊していた。 

 攻撃を受けたプレイヤーの頭上に表示されているHPバーが、目で追えない速度で減っていく。彼らの声帯から発せられる叫びは、声とは思えないほどにリズムも、高低も狂っていた。味方の死を目の前にして恐怖したか、1人のプレイヤーが逃げ出した。直後巨大な槍が彼の背をめがけて飛んで来るのが見えた。骨を砕き、肉を裂き、内臓を千切り、槍は彼の肉体を貫いた。

 相手のモンスターの中身はただのAIだ、だからと言ってあんなに酷いことをするのは少し癪に障った。

『ついてこい!!お前ら!!』

 無数の大鎌を振り回すモンスターへ接近を試みる。モンスターの見た目は見れば見る程妖怪のようで、その圧倒的サイズ感と骸骨、思いつく名前はたった一つしかなかった。

『まさか、がしゃ髑髏どくろ––––なのか?』

 その発言と同時に、モンスターのHPバー上に名前が表示される。

『Gashadokuro』

 同時に視点の右上に図鑑登録のサイン。

 それは敵の能力と弱点開示の合図。

 

 がしゃ髑髏の腕がこちらに向かって伸びてくる、横目に弱点確認していたせいで回避が遅れる。気が付いた時には右肩口をその腕が貫いていた、と言ってもたった一本の指が刺さっただけなのにその痛みは堪え難いものだった。

『イッッヅぁあああ!!』

 だがこんな所では止まることなんて出来ない。自ら敵の指に深く深く突き刺さりにゆく。すると刺さっていた場所が千切れ、その場に落ちた。

『こッのクソドクロが!!』

 落ちた右手が大事に握っていた剣を左手で拾い上げ、全速力で駆け出す。

 が、突如背中を掴まれ、前に進めずその場に膝から座り込む形になった。

『お前さん冷静になれ、あいつは強い、全員で戦わなけりゃ勝てない。』

 今作戦のリーダー格の男、レイジ。彼ならもっとキツく言っていただろう、だが今はそんな余裕もないのか、顔を険しくし、身体中からは長期にわたる攻略によるものか、肩が上がり、疲労が滲み出ていた。

『悪かった、でもどうするんだ。』

『俺にもさっぱりだよ』

 そんな事を話しているうちに前線の者達が次々とやられていた。

 が、後ろから駆けて来た五人のプレイヤーがその穴を埋める形で戦闘に混ざった。

『待たせたね、諸君。』

 全員同じ服装を着ていた、けもみみフードのついた薄灰色の外套と半ズボン、時折外套が揺れて見える足は黒い包帯で巻かれていた。彼らの持つ武器は今まで見たことのないものばかりだった。背丈に収まらない程の大太刀、双剣、エストック、連弩、大槍と大盾を同時に持つプレイヤーもいた。

 先頭の大太刀が、上空から迫る奴の腕を大きく宙に弾いた。弾かれた腕の下を大槍を先頭に、双剣、エストックが駆け抜ける。あんな大きな槍と盾を持って走れるとは、一体どれだけレベリングをしたのだろう。まさかの展開と状況にほとんどのプレイヤーが手を止め、戦闘というには美しすぎる連携に目を奪われていた。

 ドクロの方から飛んでくる白い槍、いや今はっきりと見てわかった。骨だ、綺麗に研がれ、槍と見紛う程の骨だったのだ。彼らとドクロとの距離はおおよそ十メートルを切った頃だろう。その十メートル超えた所からがデンジャーラインだったか、その瞬間ドクロの後方に大量の骨が現れ、我々に向けられた。

 一々追尾してくる骨一本一本の先端が鋭利だ、名をつけるなら骨剱。

 大槍はその左手に持つ盾で大量の骨剱を確実に弾いていく。一本一本のもつエネルギーはきっと考えたくも無いほど強烈なのだろう。大盾が一際大きな骨剱に掬われる形で押し切られた。だがまだ骨剱は彼等に襲いかかる、そんなこと承知と言わんばかりに、エストックと双剣が危険を返り見ず前に進んでいく。

 だがそれだけ無謀な事をする勇気があるのだから、実力がないわけがない。


 瞬間、暴風と共に彼らを追い切れなくなった骨剱が地面に突き刺さった。何をすればあそこまで早くなるのだろうか。


 だがまだ終わりじゃない。

 座り込む俺に追ってきているのはおよそ10本、全てが俺の行動を止めようと、両足に向かって、胴に向かって、唯一の左腕に向かって、頭に向かって、背後から、頭上から、死を纏って追撃してくる。

 一本目、右足を狙った追撃。少し飛び上がり、下に向かって切りつける。

 二本目、胴を狙った追撃。地面と平行に回転し、上に吹き飛ばす。

 痛みと死の恐怖のお陰か。今俺は体の何処にどんな攻撃が来るのか、いつ来るのかが分かるほどに神経が研ぎ澄まされていた。次に来るのは......頭。

 三本目、頭を狙った追撃。目の前まで引きつけ、確実にタイミングを待って上に弾く。

 俺の視界は。同タイミングで襲ってくる残り七本の骨剱が接近しているのを捉えていた。いつもならこんな状況、死としか捉えられないだろう。

 だが、今なら全て躱せるし、弾く事だってできる。

『こい』

 そんな事を口にした時には、既に骨は目と鼻の先まで来ていた。

 四、五、六本目、こいつらは大きく動かなくても避けられる、いわゆる「敵を誘導する牽制」だ。

 骨剱は頬と足をスレスレで通って行った。

 俺に害を与えること無く通り過ぎた骨剱が、地面に深々と突き刺さった。

 七、八、九本目、こいつらは絶対躱すなり弾かなければいけない。骨剱は頭、胴、左足を狙って飛翔して来ている。全て同時に着弾するのは分かっている、一度バックステップしタイミングを合わせ上から全て叩き落とした。

 残り一本。

『どこだ』

 不覚、頭上からだった。死が俺という標的を脳天から貫こうと必死になっていた。だが頭上なら躱すのは容易だ。

 ガシャドクロへ向かって全力で駆け出す。

 俺を狙う最後の骨剱は曲がり切れず地面に深く突き刺さった。

 他のプレイヤー達も学び集団で上手くいなしていた、盾持ちが弾き、もう1人が壊す。失敗しても、別の者がカバーする、上手くやっている。

 彼等を尻目に俺は残りの十メートルを使い、髑髏に飛び斬りを喰らわせようと全力で戦場を駆けていた。スッカラカンのはずの骨から、周囲のプレイヤーの動きを止める程の咆哮が放たれる。体が言う事を効かなくなるほどの頭痛と目眩に襲われる。だが走るのは絶対に止めない、ただ一直線に走り続ければいい、それだけでいい。

『だぁぁぁぁぁああ!!』

 全力で地面を蹴り飛ばし、ドクロの腕を駆け上がる。

 全力で、全力で、全力で、今出せる全てをその剣に込める。

 ガシャドクロの巨体を見下ろす高さまで飛び上がった。

 落下と共に加速する。

 俺はガシャドクロの眼前に一瞬にして迫っていた。一瞬だ、瞬きする間も、させる間もなかっただろう。自らの全てを込めた「全力の一撃」が当たった瞬間、髑髏も骨剱も剣も崩れ落ちた。同時にHPバーは減る様子を見せる事無く、一瞬で消え去った。


 疲労と激痛で今にも意識を失いそうな中、引き千切れた自分の右腕を見つめた。

『いつ生えてくるのかな。』

痛みを堪えながら、少し強がりな台詞を吐いた。

 その間、彼の目の前にはずっと「第一門突破おめでとう。」という文字と一緒に、門を開けますか?という文とNEXTの文字盤が表示されていた。

『やっとかよ、クソ。』

 同時に彼は思い出していた。

 3ヶ月前。

 この狂った世界に、引きずり込まれた日の事を。



『これが噂に聞いたオールタスクかぁ』

 VR会議や実際に会社に行かなくても、あらゆる五感をネット世界に一時的に移行できるのが元々の売りだ、もちろんそれにも使うが、絵を描いたり、複数画面を開いて作業もできるので擬似的な他画面PCの作業環境も作れる。この機械ひとつあればやりたい事殆どが出来しまう。 

『さて、使ってみるか。』

 今持っているのは、オールタスクの第二販目で手に入れた物だ。なぜ、まだゲームも販売されていないのにも関わらず俺はこの機械を買ったのか。もうすぐ販売されるからだ。五日後オールタスクの第三販が、さらに十日後には第四、五販が午前と午後に分けて行われる。同日の午後、一緒にゲーム《紡がれる場所》が発売される。海外では《Place to be spun》と、名前を変えて販売してるらしい。

 オールタスクの販売数は日本だけで五十万台、世界では合計一千万台が売られるらしい。でもってゲームは四百万枚以上と大盤振る舞い、もちろんすぐに売り切れるだろう。だが五感を完全に異世界に持っていけるなんて、そんな話見逃せるわけがない。

 興奮した様子で彼は箱に手を伸ばし、慎重に開封する。色はシルバー、全体的に光沢を纏っている。コンセントに繋ぎ、すぐに頭に装着する。

『おおぉ。』

 すぐに現在時刻、心拍数、装着者の趣味等が検出され、適正と思われるソフトがダウンロードされる。

 SNSにペイントソフト、他にもいくつかのソフトが直ぐにダウンロードされた。

 SNSにログインし、ゲーム仲間に連絡する。

『やっとオールタスク手に入った!!』

『よかったやん、まぁ俺は第一販売で手に入れてるけどな。』

『いいなぁ、自分も欲しいですよー。』

『まだ3回販売会あるし手に入るって。』

『頑張ってみます......』

 会話を終え、ログアウトを押すと現実に引き戻された。

『これスッゲェな......』


2035年 7月24日

 ゲーム《紡がれる場所》発売

『最低でも20人は身内がいる状態で始められるのは強いな。』

『あぁ、思ったよりみんな運がいいみたいだ。』

『今直ぐ始める?』

『俺はもう行くよ。』

『りょうかーい』

 ゲームのソフト番号を入力し購入を選択、直ぐにダウンロード。直ぐに起動し、ゲームのデータがロードされると同時に、キャラメイクへと移る。キャラは現実の見た目メインに少しずつ弄っていく。

 最後にプレイヤーネームを入力するのだが、今までゲームを変える度に名前を変えていたのでどれにしようか迷う。

『どうしようかな......名前』

『んー、あの時のでいっか』

 慣れた手つきで名前を打ち込んでいく。

『こちらでよろしいですか?速星SOKUSEI「ハイ」「イイエ」』

「ハイ」を選択すると、ゲームが始まった。

『ようこそInfinite worldインフェネイト ワールドへ。』

 目の前が暗転した、次の瞬間無限と思える星々が周囲を包み込み、世界に俺を招待した。

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