わるものをぶっ飛ばせ!
空が茜色に染まった頃、ようやく一行は目的地である街の入り口を視界にとらえた。
野盗対策か、閉ざされた木の門の先にあるのは、マヤガ県第二の規模の街・イリリクである。
「やっと着いたか、貴様らのせいで遅くなったではないか」
「うるせえ! さっさと報酬をもらってきやがれ!」
結局、アタルカについて来るのに精一杯で、ぜえぜえと息を切らしている山賊たちを尻目に、アタルカは街の入り口に向かって歩を進めた。
「おっと待て、赤ん坊と荷物は置いてってもらうぞ! 人質を取っとかねえと仲間を呼ばれるかもしれねえからな」
「それも親分の指示か」
「なんか文句あるのかよ!」
「いや。賢い親分だな」
尊敬する頭を褒められたためか、山賊たちは嬉しそうに微笑を浮かべている。
こいつらは自分の任務が分かっているのかと、アタルカは敵ながら少し心配になった。
「という訳だ。ちゃんと言ったとおり、いい子にするんだぞ」
「分かりました!」
「荷物は死んでも手放すな」
「それだけちょっと心配ですけどね……」
アタルカはそれだけ言い含め、鳥地を地面に下ろした。
彼の顔には緊張こそ浮かんでいるが、捕まってすぐの時のような頼りなさはすっかり消えている。
予め伝えていた作戦通り動いてもらうため、山賊たちにも指示を出す。
「こいつは気難しいからな。お前らは少し離れていろ」
「言われなくてもこんな気味悪いガキ近づきたくねえよ!」
気味が悪いと言われた鳥地はわずかにむくれるが、見た目からは想像もつかないほど流暢に喋り、易々と歩いて見せる赤ん坊は確かに恐ろしいかもなと思い直す。
アタルカの指示に従い、山賊たちは荷物の上に乗った鳥地から一メートルずつ離れて四方を囲む。
そのまま仁王立ちしてアタルカのことを待つつもりらしかった。
「では行ってくる」
「早く行けよ!」
アタルカは今までと同じような速足でスタスタと街の門へ近づいていく。
そして、山賊たちから百メートルほど距離を取った頃。
突然後ろを振り向き、合図をするように手を振った。
「何してんだ?」
「こっちへ来いってことじゃねえか?」
山賊たちはその合図の意味を探ろうとしていたが全てハズレである。
こっちなんだよね~、と鳥地は頭の中でつぶやきながら、気取られないように小さく、アタルカに教わっていた呪文を口の中で唱えた。
短い詠唱の直後に、一気に魔力が無くなり、エネルギーが消費されている感覚。
体からフッと力が抜けて前のめりになり、慌ててリュックサックを掴みなおすと、周囲の空気がざわざわと動き出し、強く、鳥地の柔らかい頬を撫でた。
「うおっ!?」
野太い男の声が上がった。
鳥地が顔を上げると、竜巻が周囲を草や細かな砂を巻き上げている。
その規模は徐々に大きくなり、やがてむさくるしい男たちの体をも持ち上げた。
鳥地の周囲、半径五十センチほどはそよ風程度の風しか吹いていないが、その先は風によって巻き上げられた物や埃でほとんど見通すことができない。
アタルカに教わっていた太古の魔法は、自分の周囲に竜巻を起こすものであった。
以前エス家の騎士たちを追い返すのに使った火柱の魔法では自分たちまで巻き込んでしまう上に、周囲への被害が大きすぎる。
そのためこちらの魔法を使うことにして、アタルカは上手く鳥地から距離を取ったのだった。
風が収まった頃には、山賊たちはどこかへと吹き飛んでしまっていた。
「よくやったぞ、学生!」
鳥地のもとへ駆け寄ってきたアタルカは、珍しく爽やかな笑みを浮かべていた。
鳥地は彼に抱きかかえ上げられながら、先生も山賊たちの態度が相当頭に来ていたのかもなぁ、と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます