忘れ物を取りに来た!
ふぁーぷる
【第1話 湖畔で目覚める】
唐突に終わった生命。
自我だけが漂う時に、問いが胸に残る――
俺がこの世に置いてきた「忘れ物」とは何か。
それを探す旅が始まる。
物語は、常若の
その中心に鎮座する
人界と断絶された湖畔で幕を開ける。
〈ザップン、ザップン〉
湖水のさざ波が、枯れ葦の群生に打ち寄せる。午後の逆光にきらめく水飛沫の中、突然〈ブクブクッ…バシャッ〉と水面が割れ、一人の男が姿を現す。
「……溺れ死ぬかと思ったぞ!」
迷彩服に濡れた隊員装具。肩の日本国旗パッチ――陸上自衛隊特殊作戦群・敷島三尉。
ムクっと顔を持ち上げて起き上がり、その場に胡座する。
「さてと〜、ここは一体何処だ?」と顎の無精髭を摩る。
肩口の無線マイクは無音状態。
作戦行動中だった筈なんだが…。
無防備な自分に気づき、
「うーアッ」と唸り声をあげて即座に伏せて耳をすます。
葦の擦れ合う音が風の流れに同期して聴こえる。
先程むせる程に飲んだ水で淡水だと知った。
湖の水辺なのか多少の波間で〈タポーんタポーん〉と水の音。
耳に細心の注意を払って周りの状況の把握に努める。
自然の音しか聴こえないと判断してほっと内心胸をなで下ろす。
腰のホルスターに手を伸ばし、 コルベット の存在を確認する。
次に手足を使って89式カービン銃の所在を探る。
何処にもその感触は無く肩を落とす。※あったとしても弾倉は空だが…。
コルベットももう弾は尽きているのが蘇って来た記憶で思い起こされる。
今、攻撃を受けたら対抗する手立てが無い事を〈ツー〉と頭から滴る冷汗が先に絶望を伝える。
武器武力が無ければ生存の確度も無いに等しい事は身に染みて知っている故の焦燥感がどんどん膨らむ。
「ここは……どこだ?」
「丸腰だ!」
この状況、マズイ!非常にマズイぞ!
乾いた銃腔の匂いがまだ鼻に残る気がする。だが現実には銃も無い。己の“魂”だけが残った。
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