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「このバッジは、自分自身が持っている能力を引き出してくれるの」
リズがそう言いながら、光を放つバッジを差し出してきた。
人間は誰でも、何かしらの能力を持っている――でも、多くの人はその力を使いこなせずに一生を終えるらしい。
このバッジは、持ち主の潜在能力を呼び覚ます道具。決して魔法のように即戦力にはならないけれど、冒険者にとっては欠かせない必須アイテムだとか。
「だけど、そのバッジを使ったところで、いきなり戦えるわけじゃ…?」
「うん、まあね。でもその辺は私が教えてあげるから」
「大丈夫かよ…」
「はいはい、文句はいいから、手に取って!」
仕方なくバッジを受け取ると、突如、光が体を包み込む。
熱くも痛くもない――けど、体の奥で何かが目覚める感覚があった。血管の隅々まで、まるで小さな火花が走るような――そんな気配。
「うん、これで君の能力が引き出されたわ」
「……本当に?」
見た目は何も変わらないけれど、信じるしかない。
自分の胸は高鳴り、少しだけ未来が開けた気がした。
「君は、自分に適した武器を使えるようになったはず。さあ、手に武器があるイメージをしてみて」
半信半疑で手を握ると――光が再び現れ、拳銃と大型の剣が手元に出現した。
「うおっ、何だこれ!? 出てきた!」
「これが君と共に戦う武器。剣と銃の二種類が出るなんて珍しいわね」
初めて手にしたのに、妙に手になじむ感覚がある。
……これが、自分に合った武器、ってやつか。
「さて、もう一つ。胸元のバッジを見て」
そこには〆切マークのような模様と、ローマ数字の「I」が刻まれていた。
「君の職業は“見習いヒーロー”ね」
「見習いヒーロー……うーん、なんだか地味な響きだな」
「最初はそんなもんよ。後は君次第。レベルが上がればクラスチェンジもできる」
初期はレベルⅠ。上級者はレベルⅦ以上だという。
リズのバッジには「Ⅸ」と刻まれており、彼女の冒険家としての実力がどれほど高いかを物語っていた。
「さて、戦う力の準備はこれで完了。あとは実践で覚えていけばいいわ」
まずはリズを助ける準備が整った――しかし次の問題は、発信機の所在だ。あの電子音は、近くにあることを示していた。
「手がかりは他にないの?」
江戸川町は建物が密集している。範囲は広すぎて、探すのは容易ではない。
「あの近くに、数十人規模の人が入れる建物があればいいんだけど」
リズは侵入時、そんな規模の人数を見かけたと言う。
学校や公民館……いや、まだ開いていないはずだから違う。
「うーん……」
その時、外からパトカーのサイレンが鳴り響く。
しかもかなり近く、複数台が集まっている。
「やけに多いな…」
ベランダから外を覗くと、家の近くの工場にパトカーが集まっていた。
数十人規模の建物――条件にぴったりだ。
「まさか…」
「ジュン、どうしたの?」
「いや、リズが言ってた数十人規模の建物、あれじゃないかと思って。パトカーも集まってるし、何かあるはずだ」
「なるほどね。手がかりもないし、行く価値はありそうだ。よし、行こう」
自分の胸の奥が、わくわくとざわめく。
平凡な毎日では絶対に味わえないスリル。
未知の場所に踏み出す――その瞬間、自分の冒険が、ついに始まろうとしていた。
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