1-4

「このバッジは、自分自身が持っている能力を引き出してくれるの」


リズがそう言いながら、光を放つバッジを差し出してきた。


人間は誰でも、何かしらの能力を持っている――でも、多くの人はその力を使いこなせずに一生を終えるらしい。

このバッジは、持ち主の潜在能力を呼び覚ます道具。決して魔法のように即戦力にはならないけれど、冒険者にとっては欠かせない必須アイテムだとか。


「だけど、そのバッジを使ったところで、いきなり戦えるわけじゃ…?」


「うん、まあね。でもその辺は私が教えてあげるから」


「大丈夫かよ…」


「はいはい、文句はいいから、手に取って!」


仕方なくバッジを受け取ると、突如、光が体を包み込む。

熱くも痛くもない――けど、体の奥で何かが目覚める感覚があった。血管の隅々まで、まるで小さな火花が走るような――そんな気配。


「うん、これで君の能力が引き出されたわ」


「……本当に?」


見た目は何も変わらないけれど、信じるしかない。

自分の胸は高鳴り、少しだけ未来が開けた気がした。


「君は、自分に適した武器を使えるようになったはず。さあ、手に武器があるイメージをしてみて」


半信半疑で手を握ると――光が再び現れ、拳銃と大型の剣が手元に出現した。


「うおっ、何だこれ!? 出てきた!」


「これが君と共に戦う武器。剣と銃の二種類が出るなんて珍しいわね」


初めて手にしたのに、妙に手になじむ感覚がある。

……これが、自分に合った武器、ってやつか。


「さて、もう一つ。胸元のバッジを見て」


そこには〆切マークのような模様と、ローマ数字の「I」が刻まれていた。


「君の職業は“見習いヒーロー”ね」


「見習いヒーロー……うーん、なんだか地味な響きだな」


「最初はそんなもんよ。後は君次第。レベルが上がればクラスチェンジもできる」


初期はレベルⅠ。上級者はレベルⅦ以上だという。

リズのバッジには「Ⅸ」と刻まれており、彼女の冒険家としての実力がどれほど高いかを物語っていた。


「さて、戦う力の準備はこれで完了。あとは実践で覚えていけばいいわ」


まずはリズを助ける準備が整った――しかし次の問題は、発信機の所在だ。あの電子音は、近くにあることを示していた。


「手がかりは他にないの?」


江戸川町は建物が密集している。範囲は広すぎて、探すのは容易ではない。


「あの近くに、数十人規模の人が入れる建物があればいいんだけど」


リズは侵入時、そんな規模の人数を見かけたと言う。

学校や公民館……いや、まだ開いていないはずだから違う。


「うーん……」


その時、外からパトカーのサイレンが鳴り響く。

しかもかなり近く、複数台が集まっている。


「やけに多いな…」


ベランダから外を覗くと、家の近くの工場にパトカーが集まっていた。

数十人規模の建物――条件にぴったりだ。


「まさか…」


「ジュン、どうしたの?」


「いや、リズが言ってた数十人規模の建物、あれじゃないかと思って。パトカーも集まってるし、何かあるはずだ」


「なるほどね。手がかりもないし、行く価値はありそうだ。よし、行こう」


自分の胸の奥が、わくわくとざわめく。

平凡な毎日では絶対に味わえないスリル。

未知の場所に踏み出す――その瞬間、自分の冒険が、ついに始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る