1-3
「リズ、君はどうしてそこまで冒険にこだわるんだ?」
そう聞くと、リズは首にかけていた銀色の笛を取り出して、自分に見せてきた。
「この笛、異界の笛って言うの。始まりの異界へ導いてくれる、お宝のひとつだよ」
「始まりの異界?」
リズが語るには、その場所は数えきれないほどある異界の原点――最初に生まれたとされる特別な場所だという。
新しい異界が誕生する瞬間が見られるとか、全ての異界の秘密を知ることができるとか……噂は色々あるけれど、実際に行った者はいないらしい。
「私の夢は、その始まりの異界に行くこと! どんな場所なのか、自分の目で確かめたいんだ!」
キラキラと輝く瞳で、真っ直ぐにそう言い切るリズ。
……正直、羨ましかった。自分にはそんな熱意も、夢に突き進む勇気もない。
「ねえジュン。君も一緒に冒険の旅に出てみない?」
「は、はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「いやいや……いきなりすぎるだろ」
「旅ってそういうものだよ! 突然始まるのが冒険なんだから!」
リズはにっこり笑うけど……いや、無理だろ。
滑り止めの大学に通う予定だし、親にどう顔向けするんだ。
レールから外れる勇気も度胸も、自分には――
「……うーん」
頭を抱えたその時、部屋に電子音が響いた。
ビビビビビ!
リズがカバンから取り出したのは、スマホみたいな装置。
「あれ、この反応は……」
「どうした?」
「発信機が反応してる!」
「発信機?」
聞けば、リズは追っていた組織の誰かに発信機を仕掛けていたらしい。ただし途中で落とした可能性が高いとか。
「でも……なんで反応してるんだろう?」
考えられる理由は一つしかない。
(まさか……リズが追ってたその組織、この世界に来てるってことか?)
「えっ!? 追ってきた!?」
「いや、もしそうなら今ごろお前、囲まれてるはずだろ。違う理由だろうけど……」
「それでも、この世界に来た理由があるはずよ!」
リズはベッドから跳ね起きた。
「おいおい、まさか行くつもりか?」
「ギルドに連絡しても、この世界に来るまで時間がかかる。だったら少しでも時間稼ぎをしないと!」
「簡単に言うなよ……てか、この世界の場所をギルドに教えられるのか?」
「……無理だった」
あっけらかんとした返事に、頭を抱えたくなる。
「だからジュン、協力して!」
「はぁ!?」
「お願い! 一緒に来てほしい!」
無茶言うな。戦闘経験ゼロの自分が行ったところで、足を引っ張るだけだろ。
そう思ったのに、リズの真剣な眼差しに心が揺れる。
「……で、具体的に何をすればいいわけ?」
「要はね、君が戦う力を持てばいいのよ!」
そう言って、リズはポケットからバッジのようなものを取り出した。
「これさえあれば、君の潜在能力を引き出せるわ!」
「は……? 潜在能力って……え、ちょっと待って!?」
自分の頭の中は混乱でいっぱいだ。
冒険? 異界? 潜在能力? どれも想像の遥か上を行く話ばかり。
でも、胸の奥に少しだけ芽生える高揚感を、自分は隠せなかった。
(……もしかして、これが本当の冒険ってやつなのかもな……)
リズはにっこり笑って、自分を見つめる。
その瞳には、挑戦と期待が光っていた。
その瞬間、自分の平凡な日常は、完全に崩れ去ったのだ。
そして――自分の中で、新しい何かが動き出すのを感じた。
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