38話 ホワイトクリスマス 【後編】

 ついにクリスマス当日になった。しかも雪も降っている所謂ホワイトクリスマスだ。準備の為に早く起きると、昨日買い物から帰った後からずっと寝ていた繭も丁度起きたようだった。


 「おはよう」

 「おはよう、雷」


 未だ眠たい目を擦りながら、朝の挨拶をする。そうしてから暫く今日の予定について話し合った。

 最終的に今日の僕の仕事は協力してくれるという音羽さんと一緒に会場(自宅)の飾りつけをすることになった。繭は同じく協力してくれるという詩歌さんと、食事の用意をしてくれるという。

 とりあえずクリスマスツリーを用意しようと思ったその時、玄関の扉が外側から叩かれる。何だろうと思い扉を開けてみると、そこには茶眩や緋莉と同年齢くらいの少女が立っていた。


 「初めまして、私緋莉ちゃんと茶眩君のお友達の白宮しろみやかえでです。お二人に誘われて来たのですが…」


 目の前の可愛らしい少女はそう名乗る。どうやら二人が誘っていたらしい。玄関は寒いので家の中で二人と遊んでいてもらおう。


 「来てくれてありがとう、僕は二人の一応保護者みたいな存在の、秋雨(うとき)雷(らい)。今日は楽しんでいってね。」


 軽い自己紹介と感謝を混ぜた言葉を述べ、楓をリビングに案内する。それが終わると、やろうとしていた仕事に取り掛かる。と言ってもクリスマスツリーの準備は僕が楓と話をしている間に半分以上終わらせていてくれていた。残りは下部分の飾りつけだけだ。近くに置いてあった小さな熊の模型をぶら下げる。うん、めっちゃ可愛い。

それを付けた後は鈴やらサンタクロースの模型をつけ、すぐに完成した。完成したその時、ふといいにおいがするな、と思いキッチンのほうに目をやると、エプロン姿の繭と詩歌さんが料理に取り掛かっていた。材料を見るにローストビーフとピザ辺りを作るらしい。

 そこそこの時間がたち、時刻はお昼ごろとなった。料理も飾りつけも完成し、後は天使さんたちを待つのみとなった。来るまではすることがないので、雑談でもして待とう、という事になった。


 「雪、綺麗だね…」


 繭が外を見て、言葉を漏らす。それにつられ僕も外を見やるとしんしんと降り積もる雪が、絵画にように美しい銀世界を描いていた。本当に美しい。思わずため息が出る程に。


 「なんだか、懐かしいね」

 「そうだね。」


 だんだんとしんみりとした雰囲気になってくる。でも、雪とはそういうものだ、と僕は思っている。空から降る雪の結晶はいつでも心を寂しくさせる。

 そんな静かな時を過ごしていると、不意に玄関の扉が開かれる。


 「こんにちは、お邪魔するよ。」

 「繭ちゃん来たよー」


 玄関から二人の女性の声がする。昨日声をかけた天使さんと雫さんの声だ。


 「待ってました、今日は楽しみましょう」


 二人を出迎え、リビングへ案内する。みんなで食卓を囲い、ついにクリスマスパーティーの始まりだ。


 「本日は、僕たちのクリスマスパーティーに来ていただき、ありがとうございます。今日一日思いっきり楽しみましょう。それでは、乾杯!」

 「かんぱい!!!」


 僕の乾杯の掛け声に合わせ、みんなの声も響く。楽しい楽しいパーティーの幕が開けた。

 みんなの楽しそうな声が部屋中にこだまする。その声たちから一度意識をそらす。静かな自分だけの世界に、聞きなれていた声がした。


 「メリークリスマスです。お父さん」


 その声を聞き、一度目を瞑る。瞼の裏に浮かぶのは雪の顔だ。まだ幼げのあるあの顔を思い出す。心の中で


 「ありがとう」


 と返し、意識を周りに戻した。まだまだみんなは盛り上がっている。終わってほしくないな。と切に感じた。でも、季節は廻り、繰り返す。それと同様に、世界も何度も何度も繰り返し、その度変化をしていく。今日が二度と来ないように、同じ世界は訪れない。だけど、そんなことを分かっていながらまた同じ世界がくればいいと願う。何度も、何度も。

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