26話 都立天ノ宮教育学校 2

「えっとね……天ノ宮はね、ここの南の都市唯一の教育学校っす。」

私の目の前で私の手を掴んでいる少女――姫月ひめづき まいは一生懸命にについて話している。

「天ノ宮は分かるっすよね?この街の名前なんだけど――」

まだ舞さんの話は続く、ちなみにこの街が天ノ宮という名前なのは初耳だ。

「それで私は天ノ宮の高等部2年で、クラスには面白い人も沢山いて――」

既にほとんど関係ない話になっている気がする。とりあえず教えて貰った話をまとめると、都立天ノ宮教育学校は、初等部、中等部、高等部の3つに別れている南の都市唯一の学校で、南の都市で1番栄えているこの街、天ノ宮の中央ら辺にある。そして私の1番心配していた受験についてだったが、そんなものは無いと言っていたので一安心だ。

「そうだっ!」

と、突然舞さんがそう声を上げる。私はビックリしながらも、

「ど…どうしたの?」

そう聞くと、

「良ければ明日学校見に来るっす?」

と提案をされる。

「だけど仕事が…。」

そう言って店長の方を見ると、小さくこくんと頷き口を開く。

「バイトなら気にしなくても良いよ、行っておいで。」

「ほら!店長もそう言ってるっす。」

「なら…行きます。」

「ありがとうっす! 明日8時くらいに此処に集合っす。」

「その代わり、連れて来たい人がいるんだけど――」

「もちろん良いっすよ!大歓迎っす。」

それじゃあまた明日、そう言って舞さんは帰って行った。

その後はまた雫さんに仕事を教わり、バイトは終わりの時間を告げた。

「ありがとうございました。」

私は店長に感謝を告げ、家に帰る。


#

収穫の仕事が一段落したのは夕方、空が綺麗な茜色に染まる時間だった。普段よりキツイ仕事を長くやったせいで体を動かすだけで少し痛む。明日は確実に全身(特に腰と腕)が筋肉痛になるだろう。

「お疲れ様でした。」

茶眩が痛いのであろう腰を撫でながら言う。

「お疲れ様。」

その横でそう言った音羽さんは何故だか元気そうにしている。

今は仕事道具を片付け、収穫したものを近くの倉庫に入れている途中だ。収穫したものを持つためにしゃがむとすごい痛いが仕方がない。横で茶眩も痛そうにうめき声をあげていた。

その仕事も終わらせ、僕達は帰路に着く。


#

バイト先から家に帰ると、ちょうど玄関で茶眩と雷と合流する。

「バイトお疲れ様。」

「そっちこそ朝からお疲れさま。」

そんな言葉を交わし家に入る。

家の中に入ると、リビングからとてもいい匂いが漂ってきた。

「おにぃ、おねぇ、おかえりなさい!」

奥では緋莉が夜ご飯を用意してくれていた。

「ただいま、夜ご飯ありがとう。」

「おにぃ達が疲れて帰ってくると思ったので、私だけ何もやらないのもアレですし。」

みんなでご飯が置いているテーブルを囲い、食事を始めたので、私は今日あった出来事を話す事にした。

「そういやみんなに話があるんだけど―――。」

私が話している間、3人は集中してその話を聞いていた。特に茶眩と緋莉は目をキラキラと輝かせていた。

「……という訳だから。」

話を終えると、雷はなにやら用ができたと言って1人でどこかへ行ってしまった。私は特に話をしたかった2人ともう一度向き合い、質問をする。

「2人とも、学校に通いたい?」

茶眩と緋莉はパッと表情を明るくさせたが、すぐにちょっと残念そうな顔になる。そして緋莉が口を開いた。

「でも、それじゃあまたおねぇ達に迷惑かけることになるから……。」

ただでさえ家に住ませて貰っているんだし、と付け加える緋莉。だから私は少し胸を張って言葉を返す。

「家族に遠慮はいらないんだよ?私は2人が通いたいならそれで良いと思ってる。」

「明日、実際に学校を見て決めさせてください。」

「わかったよ。明日は早いから寝坊しないようにね。」

私はそう言い残して、夜ご飯を片付けリビングを出る。2人は

「分かりました。」

と返して夜ご飯の残りを食べ始める。

雷は私たちが食事を終えてからしばらく経って帰ってきた。外は寒いはずなのにうっすらと額に汗を浮かべているので、急いでどこかへ行っていたというのが分かる。私がそれを見ていることに気付いたのか、雷は私の方を見て小さく頷く。その行動の本当の意味は分からなかったが、雷も私と同じで2人に学校に通って欲しいから何かをした、という事だけはわかった。

明日は何時もより早く起きないと行けないので私はすぐにお風呂を済ませ、明日の準備を始める。楽しそうに明日の事を語っている茶眩と緋莉は、

「楽しみで寝れないかも。」

と言っていて、ちょっと心配だったが、結局みんな(私も)街――いや折角名前を知ったのだからこれからは名前で呼ぼう。天ノ宮まで行く馬車の中で寝ているから問題は無さそうだ。

2人も寝る準備などをやりにに行ったので、リビングには私と雷の2人きりになった。

「まさか学校があるなんて思わなかったね。」

私がそう口にすると、

「そうだね、ここに来てもう半年以上は過ぎるけど街の名前すら知らなかったし、繭のおかげだよ。」

「そんな事ないよ、私だってバイト先に来た子から聞いただけだし。」

その話は結局、世界は広いという事で落ち着いた。

「バイト先の人達と、仲良くなれそう?」

突然雷にそんな事を聞かれる。

「うん、私に仕事を教えてくれてる人も優しい人でね――」

話し始めると、つい盛り上がってしまい長々と話をしてしまった。話を終え、

「ごめん、長く話しすぎた。」

と謝ると、

「大丈夫だよ、繭がバイト先でも楽しそうでちょっと安心した。」

と返される。それがなんだかちょっと恥ずかしく感じて私は

「そろそろ寝ないと明日起きれないね。」

と誤魔化すように言う。

「そうだね、じゃあおやすみ。」

リビングから寝室へ雷は歩いていった。

「おやすみ。」

私もそう返し、そしてもう一言を雷に聞こえないように呟く。

「いつもありがとう、雷。」

そして私も寝室に行って布団に潜り込む。さっき自分で言ったことに、ずんずんと恥ずかしさを感じて来て、何度も寝返りを繰り返したせいで満足に寝る事が出来なかったのはここだけの秘密だ。





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