第18話 買いかぶり
パソコンのモニターには、サルマーロと猿の仮面を着けた女性が映っている。
女性はサルマーロの事務所に所属し、配信のアシスタントを主にしているタレントだ。
間もなくサルマーロのライブが始まる。
◇ ◇ ◇
「ヘイロー!ウキキ!サルマーロでおざーる。ハイ、という訳で今日は[第七回ここ掘れウキキ!徳川埋蔵金がザックザク!]を予定通りお届けするでおざる」
「でっ、サルマーロ!どーなのよ?見つかりそーなの徳川埋蔵金?」
「サルマコ姫、ご安心を。実はマロは先日、Vチューバらゃむらゃむ達と赤城山に行って来たでおざる。そして、そのパーティーには何と、何と、今度こそ正真正銘の超能力者も入っているのでおざるよ」
「本当に?今まで連れて行ったハイブリッド風水師や超電脳易者とか、全然駄目だったジャン」
「今までのは只のペテン師でおざる。だが、だが、今回の能力者は一味違うでおざる」
「でっ、何て名前の人なの?」
「それは今は伏せておくでおざる。今発表して、もし埋蔵金を見つけられなかったら、その御方の沽券に関わるでおざる。だから埋蔵金を手にした時に発表するでおざる。まあ、埋蔵金は十中八九、手に入れたようなものでおざるがね。ウキキキキ――」
サルマーロは【サルエボくん】と言う、烏帽子を被った猿のオリジナルキャラクターグッズを左手で振り回しながら、右手で力強くガッツポーズをした。
◇ ◇ ◇
「サルマーロの奴、プレッシャー掛けてくるわね……」
ジュエリは爪を噛み、イライラした様子で机上のモニターを睨んでいた。
「このまま埋蔵金が見つからなかったら、私は【無名の三流エスパー】という烙印を押されるだけだわぁ」
赤城山には明日、再び挑む。
だが肝心の埋蔵金の在り処が特定出来ていない。
霧の結界の打開策も、その呪術を掛けた者の正体も、依然として解らないままだ。
このまま行っても徒労に終わるだけだろう。
ジュエリはずっと考え悩んでいた。
溜息の数が、時間を追うごとに増えていく。
「発泡(八方)塞がりか……」
そう言って立ち上がると、浮かない表情でパソコンのモニターから離れた。
街明かりが写り込む窓ガラスに近づくと、静かに解錠して窓を開ける。
手すりを持ちながら身を少し乗り出し、隣の部屋の明かりを確認すると、渋い表情で唇を内側に巻き込んだ。
隣の部屋の主、ジュリヤとは昨日から会話をしていない。
元々明日は連れて行く気は無かったが、知恵は借りるつもりだった。
だけど埋蔵金探しに反対する以上、それも望めない。
「そうよ。もう、ジュリヤを巻き込んじゃいけないわぁ。自分だけで何とかしないと……」
ジュエリはゆっくり窓を閉め、再びパソコンの前に座った。
サルマーロの放送を消し、帽子とマスクをして自分のライブの準備に入る。
頭のモヤモヤを振り払い、意を決して配信ボタンを押した。
「ハーイ!エスパー系ライバー、ジュエリの生配信よ!今日も皆の気になる過去をパスってあげるわぁ。さあ、リクエストはある?」
◇ ◇ ◇
『いちこめん♡』
『わこつ』
『きゃわわわわわわ』
『キター』
『何これ?天使?』
『ピーピング姫や』
『わこつなのー』
『かわいいいいいいい』
『初見でーす』
『わこ』
『パスってえ』
『神きたー』
『わこです@レッキー』
『覗き屋きたぁー』
『出歯亀女』
『わこつ』
『久しぶり』
『性格悪そう』
『ヨシャアアアアアアアアア』
『パスられに来ますた』
『888888888』
◇ ◇ ◇
「えっ?何これ?コメント多すぎて読めないわぁ。あっ、初見の方ありがとう。ゆっくりして行ってね」
◇ ◇ ◇
『サルマーロが言ってた超能力者ってジュエリン?』
『埋蔵金探しするって、言ってたもんな』
『やったね。大金持ちジャン』
『うらやまー』
『歴史的快挙だーーー』
◇ ◇ ◇
「……そ、そうね」
◇ ◇ ◇
『あれ?どったの?』
『元気無いね』
『病んでる?』
◇ ◇ ◇
「……ごめん、みんな。その埋蔵金の事なんだけど……私、期待に応えられそうに無い……」
◇ ◇ ◇
『駄目そうなの?』
『埋蔵金無かった?』
◇ ◇ ◇
「私……私さぁ、調子ぶっこいてた」
ジュエリは何時もと違い、低いテンションで語り始めた。
「私、家族にも環境にも恵まれていてさあ、小さい頃から特に悩み事も無く育ったわぁ。勉強出来なくてもマグレで普通の高校にも受かったし、スポーツは得意だから運動会やダンス大会とかは独壇場。小、中、高とも校内一の美少女とか言われ、周りからチヤホヤされてたから好き勝手に生きてきたわぁ。そんな私が超能力を得たの……」
ジュエリの目を閉じ、昔の自分を覗いていた。
大声で笑いながら、周りの仲間とふざけ合っていた頃の自分を……
「私、もう自分は人類最幸なんだと、その時は思ってたわぁ。何不自由なく、もっと楽しい未来が待ってるんだ……なんて思ってた。だけど――」
◇ ◇ ◇
『違ったんかい』
『充分リア充』
◇ ◇ ◇
「この力を得てから失う物ばかりだわぁ。友情も、家族愛も、安全も、笑顔も……お金や名誉も手に入りそうに無い。ただただ失うだけ。気付いたら頼る人もいない……私が馬鹿で、性格が最悪だから自業自得なんだけどさあ。パストビューで自分の行いを振り返れるように成って、当然の報いだと今更分かったわぁ。大事な物が何も見えて無かった……」
ジュエリは自分の不甲斐なさが悔しくて、泣きかけていた。
◇ ◇ ◇
『失ってばかりじゃねえだろ』
◇ ◇ ◇
「何を得たって言うの?イコニコポイント?」
◇ ◇ ◇
『俺達』
『私達はもう友達なのー』
『今、何人見に来てるんだと思ってんだ』
『確かに見えて無いな』
『まあ、得て損かも知れんがwww』
◇ ◇ ◇
「アナタ達、配信を見てるなら分かってるでしょ?高慢で我儘なクッソッ女が、お金欲しさに配信してるだけなのよ。超能力が珍しいから見てくれてるのは有り難いわぁ。けど超能力が無かったら――」
◇ ◇ ◇
『超能力関係ねえよ』
『クソ女?誰が?』
『少なくとも漏れはジュエリンが好きで見に来てる』
『俺はトークが好きなんだけどな』
『どの放送よりオモロイわ』
『ジュエリン人助けとかしたく無いって言ってるわりに人に優しいよね』
◇ ◇ ◇
「えっ?!」
◇ ◇ ◇
『他人の事がどうでもいいなら忠告なんかしないし』
『将来おせっかいおばさんに成りそうw』
『本当に性格悪い奴なら、超能力隠して悪さするよ』
『口悪いけど良い奴なのバレバレwww』
『凄い超能力なんだし、もっと偉ぶって良いぐらい』
『人を楽しませようと考えてるから、リクエスト聞いてるんだよね』
『人間不信みたいな事言ってるけどさあ、本当は皆でワイワイするのが好きなんでしょ?』
『ジュエリンも、おまえらもサイコーかよ』
『みんなジュネキが大好きなんだよ♡』
◇ ◇ ◇
「違う!!違うわぁ!!」
ジュエリは首を振り、熱くなる目頭を押さえながら叫んだ。
「私は、私はそんな良い子じゃ無い……みんな……みんなカワ被り過ぎよーーー!!」
◇ ◇ ◇
『皮被りwww』
『間違ってはいないが、間違ってる』
『買いかぶりだろーーーwww』
『そこ、絶対に間違っちゃ駄目』
『えええええええ!この場でそんな間違いする?』
『こちとら玉まで剥けてるぞ!取消せや!』
『草』
『俺泣きそうだったのに、おもくそコーヒー吹いわあwww』
『さすがジュネキ♡』
◇ ◇ ◇
「ウッザッ!!何よ!ちょっと間違った位で、寄って集って揚げ足を取らないでくれる!!」
ジュエリは紅くなった頬を手団扇で扇いだ。
「そうだ!!みんな!!恥をしぼってお願いするわぁ!!私に力を貸して!!」
◇ ◇ ◇
『しぼるな。忍べ』
『続けざまwww』
『うむ。まずは搾った恥じ汁を頂こうか』
『駄目だ!その恥じ汁は俺が飲む!』
『紳士共www』
◇ ◇ ◇
ジュエリは今までの経過や、自分の見た過去の映像の事を話した。
谷口の事や、ユムの超能力の件は秘密にしながら――
「いくら考えても私にはサッパリ分からないの。小栗上野介は何処にどうやって埋蔵金を埋めたの?あの結界の意味と呪術者は誰?」
◇ ◇ ◇
「徳川の軍資金は、いつ金倉から持ち出されたか分かる?」
◇ ◇ ◇
「一応江戸城の過去も調べたんだけど、全く分かんなかったわぁ。大政奉還より少し前の倉庫には既に大きな金塊は無くて、大判や小判が入った箱が沢山有ったんだけど、ちょこちょこ持ち出されて行っちゃって、やがて空に成ったわぁ。全部は追いきれてないけど、箱が赤城山に運ばれた様子は無かったの。でも、何かしらの方法で赤城山に運んだのよね?」
◇ ◇ ◇
『ちょこちょこ持ち出されたら解らんな』
『確かに難解』
『どうやって大金運んだんだろう?』
『小栗は天才だったらしいからな』
『小判を砕いて細かくしてから川に流した』
◇ ◇ ◇
「あっ!ソッレッ!水に混ぜた
◇ ◇ ◇
『そもそも徳川軍資金は残ってたのかな?』
◇ ◇ ◇
「えっ?どういう事?」
◇ ◇ ◇
『既に分銅金が無かったのなら、使う為に溶かして小判にした事に成る』
◇ ◇ ◇
「徳川さんの貯金だったんでしょ?使う用途が有ったの?」
◇ ◇ ◇
『反幕府勢力や外国と戦う為の武器』
『横須賀製鉄所の建設費用に使ったんじゃね』
『新選組や見廻組の賃金?』
『大政奉還の頃には貯金尽きてたかもね』
『360万両は勝海舟のブラフ説』
『小栗は逆に軍資金が欲しかったかも』
◇ ◇ ◇
「えーーー!!どういう事よ?!まさか埋蔵金は無いって言うの?じゃあ小栗は何を埋めようとして掘ってたのよ?!あんな結界まで作って――」
◇ ◇ ◇
『逆に考えるんだ』
『埋めるの為では無く、掘り返す為とか』
◇ ◇ ◇
「アハハハー、じゃあ、何?小栗上野介は徳川埋蔵金を埋めようとしたのでは無く、掘り出そうと――あっ!あっ!ああああぁぁぁあああああ!!」
ジュエリは立ち上がり、両手で頭を抱えながら叫んだ!!
「江戸時代に囚われてたわぁ!!伝説……そうだッ!!伝説!!ねえ!!赤城山伝説の蛇と百足って何?蛇の神様と百足の神様に意味は有るの?」
◇ ◇ ◇
『蛇は水の神様。百足は鉱山の神様』
◇ ◇ ◇
「鉱山?」
◇ ◇ ◇
『掘った坑道が百足のようだからという』
『鉱物が有る所にムカデ有り』
『武田信玄の金山衆の旗もムカデだね』
◇ ◇ ◇
「鉱山、鉱物……つまり、金、銀、パール!!って事は――それってお
◇ ◇ ◇
『パールは山じゃ出ないけどね』
『パールは生体鉱物。これマメな』
『なるほど。ムカデは宝物を表してるのか』
◇ ◇ ◇
「そうよ、そうよ!!ヤッタッー、分かったわぁ!!小栗上野介は埋蔵金を埋める為じゃ無く、掘り出す為に赤城山を探索してたんだわぁ!!赤城山の埋蔵金伝説は、幕末よりも前に有ったのよっ!!」
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