第10話 初めてのクエスト

 冒険者ギルドを出て、再びスカイウォーカーの円盤の上に乗る。


「それじゃ、最初の依頼、行くわよぉ」


「うっす」


 勢いよく滑りだそうとしたところで、しかしカリーナは急ブレーキをかけた。


「あっ、バッカー!」


 向こうから見覚えのある大男とノッポと小柄の三兄弟が歩いてくる。


「おお。お前、無事だったのか、マモル」


 いかつい顔のバッカーが僕を見て少し驚くと、ほっとしたような表情を見せた。

 なんだ、心配してくれていたのか。と言ってもまあ、人殺しの罪で兵士に逮捕されてもこの三兄弟は困るだろうし、その程度だろうけど。だが、名前を覚えてもらったのはちょっと嬉しい。


「はい、おかげさまで」


「マモル、そんな奴に愛想を振りまかなくたっていいわよ。大怪我までさせられたのに」


 カリーナが不満げに言うが、これはタダの処世術、喧嘩腰よりはトラブルが少ないと思ったまでだ。


「フン、言ってくれるじゃねえか、カリーナ。そいつは見たところピンピンしてるし、この街のボスであるオレ様に随分な態度だと思うがな」


「ハッ、誰がボスだって? そんなの認めてるのは一人もいやしないし、領主様が聞いたらなんと言うやら」


「なんだと! 兄貴はボスだぞ!」


「私も認めてますよ。いえ、まぁ本物の領主様には内緒でお願いしたいですがね」


 手下のノッポが言うが、せこいな。


「まあ待て、お前達。別にオレ様が領主だと言ってるわけじゃねえぞ。そういうのじゃなくて、ほら、あれだ……村の世話役だ!」


「世話なんてアタシは受けたことも無いんだけど?」


「なんならこれからたーっぷりと世話してやってもいいんだぜ? へへ」


 バッカーが下品にニヤついて笑った。


「お断りよ、キッモ」


 少し鳥肌が立ったのか、カリーナが二の腕をさすりながら言う。


「なんだと! お前、キモいって言った奴がキモいんだぞ!」

「そうですとも」

「そうだそうだー」


「意味分かんないし。じゃあね」


「あっ、待て」


 三兄弟がスカイウォーカーを捕まえようとしたが、その前に僕らは急加速して通り抜けた。


「べー!」


 カリーナが後ろを向いてあかんべえをやってさらに煽るが、あの三人とはとても仲が悪そうだ。


「カリーナ、あまりあいつらを怒らせない方が良いよ」


「ハッ、マモルも小心者ねえ。何にもできやしないわよ、あの三馬鹿は」


 高をくくっているカリーナだが、僕はちょっと心配になった。


「この家よ」


 最初の依頼人がいる家にやってきた。平屋の木造建て庭付きだ。家はそんなに新しくないが、庭と畑付きならまあまあの物件だろう。


「こんにちはー。『何でも屋』のカリーナだけど」


「ああ、はいはい、ちょっと待ってくださいね」


 中から優しそうな目をした若い女性が出てきた。


「あなたがエミさんね」


「はい、そうです」


「じゃ、今いい? 依頼の内容を確認したいんだけど」


「はい、大丈夫です。じゃあ、上がってください。お茶を出しますから」


 丸い木のテーブルに着いて、お茶を飲みつつ、僕ら二人はエミさんの依頼の話を聞いた。


「――つまり、おばあさんの病気が酷くなってきてるから、それを治したいってことね」


「ええ……できるでしょうか?」


 不安げに聞くエミに対してカリーナが自信満々の笑みを見せた。


「まっかせなさーい。ちょっとアタシに当てがあるわ」


「本当ですか! ありがとうございます」


「じゃあ、アタシ達はいったん準備してくるから」


「はい、よろしくお願いします」


 家を出る。


「いいの? あんなに安請け合いして」


 僕はカリーナがおばあさんの病気の状態すら確認していないので、ちょっと不安だ。


「大丈夫よ。じゃ、行くわよ」


「どこへ?」


「決まってるでしょ、病気と言えばあそこよ」


 カリーナがウインクするが、思い当たると言えば……なるほど、あそこか。


「僕はちょっと遠慮したいんだけど」


「心配しなくても医者のクロードはアタシがいれば追い出さないわよ。ジョージにも手は出させないから」


「そう?」


「もちろん」


 カリーナが自分の胸を任せろと言わんばかりに叩くが、存在感のある胸がぶるんと揺れたので僕は慌てて目をそらした。


「ちょっと、マモル、そのいかにも信じてませんって態度は何?」


「いやいや、信じてるけど、違うんだって」


「意味分かんないんだけど。とにかく行くわよ」


「うん」


 それではさっそくということで、僕らは街外れにある病院へと向かった。

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