第9話 冒険者ギルド
カリーナはここが冒険者ギルドだと言ったが……
「ああ。ゲームやアニメじゃ知ってるけど、現実世界で見たのは初めてだなぁ」
「そ。昔、アニメのプレーヤーを見つけたことがあるけど、売っちゃったわ」
「そうか……次は残しておいて欲しいな」
「高値が付かなかったらね」
その建物は酒場のような感じに見える木造二階建てで、中央正面には西部劇で見かけるような扉――木製の小さめの両扉がある。屋根にかけられた看板には、ブーツと翼を組み合わせた意匠が彫り込まれていた。
「ここで依頼があるかどうかを見るから、大事な場所よ。覚えておいて」
「了解」
スカイウォーカーを脇に置き、二人でその腰の高さの両扉を押してくぐる。
中は結構広く、奥側には職員用のカウンターが横切っており、手前には一度に六人は座れそうな大きな丸テーブルが二つ置いてある。七人くらいの革鎧を着込んだ男達が、壁の掲示板を見たり、テーブルで談笑したりしていた。全員、剣や斧で武装していて、ちょっとおっかない。
テーブルの男がこちらに気づいて声をかけた。
「よう、カリーナ」
「ハイ、そっちの調子は?」
二人とも知り合いのようで、カリーナが気さくに手を上げて挨拶を返す。
「まあまあだ。だが、二日前、隣村がクリムゾンスカルの連中に襲われて、焼かれたそうだ。五人殺されたとさ」
「ええっ? あいつら、またそんな無法なことを。騎士団は何をしているの?」
「何にもしちゃいないさ。下手に出て行って返り討ちにあったらそれこそ手が付けられなくなる」
「だからって……盗みや殺しを黙って見ているだなんて……」
「ま、仕方ないさ。この街が襲われないことを祈るだけだな」
二人の話しぶりだとこの世界ではヒャッハーな盗賊団が好き勝手に暴れ回っている様子。世紀末なのか……。
「ところで、後ろの兄ちゃんは見ない顔だが、カリーナの知り合いか?」
「彼はマモル。ほら、アタシが運んできたコールドスリープ患者よ」
「ああ、へえ、生きて解凍できたとは運が良いな。顔色も良さそうだ」
頬に大きな傷跡があり、強面の冒険者だったが、ニコニコと笑っている。僕を襲う気配は無さそうだ。
「マモル、こっちよ。先にあなたの登録も済ませておきましょ」
カウンターの側にいたカリーナが僕を呼んだ。
「登録?」
「そ、登録。私達の仕事は、お客と直接やりとりすることが多いけど、このギルドを通して依頼を受けることもあるから。登録の用紙、出してくれる?」
「そりゃ構わないが、不治の病の奴なんて役に立たないと思うぞ? 医者のクロードも放り出したんだろう?」
職員がカウンターに紙を出して言う。コールドスリープ患者がどのようなものかはみんな承知のことらしい。できれば、知っていない方が良かったんだけど。
「マモルが役に立つかどうかは私が決めるわ。ここに名前と、住所はアタシの家でいいから」
羽根ペンでカリーナが住所と番地を書いたが、日本語だった。僕としてはありがたい。
ま、みんな日本語を喋ってるな。街の名前はバリス。
「名前も漢字で構わないですか?」
僕は職員に聞く。
「ああ、大丈夫だ。でも、下の名前は読み間違えないように、カタカナにしておいてくれるか」
「分かりました。じゃあ、八島マモルと」
次の項目を見ると、職業とある。
「高校生……? かな?」
「コーコーセイ? 初めて聞く職業だな。それはゼンエイか?」
「ゼンエイ?」
「隊列の前か後ろかってことよ。別に戦闘に行くわけでも無し、パーティーは私としか組まないんだから、そこは戦士の前衛って書いておけば良いわ」
カリーナが説明してくれたが、まんまゲーム感覚だな。
「ああ、その前衛かぁ」
「なんだ、坊主、そのひょろっちい体で、前衛職をやるってか?」
大柄な男が僕を見下ろして言う。
「ええまあ」
「ハッハッ、後衛にしとけ。お前よりカリーナの方がよっぽど強えぞ」
それを聞いて他の冒険者達も笑う。
「別にマモルは弱くなんてないわよ。昨日、バッカーとやり合って、追い返したものね?」
「ええ?」
カリーナが僕を持ち上げてくれるが、バッカー達が逃げ出したのは、僕を殺したかと彼らがビビったからだ。本当に勝ったとは言えないな。
「何だと? からかうんじゃねえよ、カリーナ」
「いや、本当だぜ。オレも見たが、そいつは普通じゃねえ」
他の冒険者が昨日のことを目撃していたようで言う。
「んん?」
「まあ、強さはともかく、壁役のタンクってことで」
僕は苦笑する。
「馬鹿言え、その体でタンクが務まるもんか。オレみたいにでかくて踏ん張れる奴じゃねえと無理だ」
「マウス、本気にしないでよ。マモルの冗談よ」
その体格で、意外とカワイイ名前の戦士が僕を見下ろす。
「なんだそうか。ちなみに坊主、牛乳は好きか?」
「好きです」
本気の目で答える。
「おお……」
がっちりと握手。牛乳好きの人に悪い人なんていない。誰にも理解されない中で、良き理解者を得た幸福感が僕を支配する。
「じゃ、これポーションの納品ね」
「なんだ十個か。もっと多くていいんだぞ、カリーナ」
隣のカウンターで完全に僕らをスルーしたカリーナと職員がポーションをやりとりしていた。
「ガラスの空瓶がないとどうしようもないから、道具屋に言うか、そっちで集めてよ」
「分かった、
冒険者カードをもらった僕はちょっと冒険者になった気分でうきうきした。カードはちょうどトレーディングカードくらいの大きさだ。
「すぐ死んだりするなよ」
と去り際に職員が声をかけてくれたが、僕はそれを単なる新人への警告、挨拶程度のものだと思っていた。
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