第80話 兄弟

 探索者ニュースでもネットでも、その日のうちに写真が流れ、勝手なコメントや予想がされていた。

 それらをまとめると、ハリーとマイクは、最深部でずっと張り合っているらしいが、ハリーの方がやや劣勢なようだ。

 ハリーの所の魔術士が先月ひき逃げされ、別の魔術士に変わったらしいが、力不足というのが大方の意見で、全体的に火力不足らしい。

 マイクの所はマイクが突出しているらしいのと、どうも、黒い噂があるらしい。ハリーの所の魔術士をひき逃げしたかさせたのがマイクで、これまでも、いつもライバルに当たる所が迷宮内外の事故などで死んだりケガをしたりしているという。

 それで俺は思い出した。

 ハリーは俺達に、周囲に気を配れと言った。あれは、マイクに気を付けろという警告だったのかも知れない。

「外野は無責任だよな」

 采真は呆れたように言った。

「それに惑わされないようにしないとな。探索者はゲートの外でくらい気を抜いて楽にしたいよな」

 そんな事を言いながら、夕食の為に俺達はマンションを出た。

 日本へ帰ってもいいのだが、やはりその土地の名物も気になる。

「これと言ってないのかな」

 カレー、ピザ、牛丼、ホットドッグ、中華、ファミリーレストラン的な店などが並ぶが、ここの名物、というものが見当たらない。

 いや、この色々な料理が混在しているのが名物なのだろうか。

 そんな事を言いながら歩いていると、ルイスを見付けた。スーツ姿の若い男と口論しているようだ。

 トラブルかとそうっと近付いてみた。

「そんな甘い事を言ってるから、兄さんはダメなんだよ」

「人命を疎かにすることが正しいとは思えない」

「企業はきれいごとじゃ済まないんだよ。夢に逃げてそこから目をそらしている兄さんにはわからないだろうけどね」

 驚いた事に、相手はカイト・ブライトン、ブライトン社の次期社長だった。

「鳴海、あれ、ブライトンの次期社長だろ?」

「ああ。ルイスを兄さんって呼んでるな」

 小声でかわす。

 ブライトン社は、探索者向けの装備品全般を取り扱う大手の企業だ。ハリーのグループが確か装備提供と宣伝の契約を結んでいて、ブライトンのウェアや防具やバッグ、武器を使っていた。

「エマの悲劇を繰り返す気か!?」

「あれは運が悪かっただけだ!」

「運だと!?」

「とにかく、次期社長は俺に決まったんだ!兄さんは負けたんだよ!口出ししないでくれ!」

 カイトはそう言って、大股でその場を去って行った。

 俺達もこっそりと立ち去ろうと思ったのだが、振り返ったルイスに見つかった。

「あ、こんばんは」

「こんばんは。その……」

「ははは。恥ずかしいところを見られちゃったね」

 ルイスは苦笑して、俺達3人は近くのベンチに座った。

「わかったと思うけど、俺の父親はブライトンの社長なんだ。

 企業としては仕方がないとも言えるんだけど、とにかく利潤追求でね。次期社長を決めるのも、俺とカイトが成績を競い合って、それでカイトに決まったんだ。

 だけどちょうどその頃、杖の暴発事故が起こったんだ。エマだよ」

 ルイスは眉を寄せ、俺達は息を呑んだ。

「暴発の原因は、部品を安いものにしたために起きた強度不足。子会社にギリギリの安い値段で仕事を回したがために、子会社がサイレントチェンジと言って、部品を勝手に安い物に変えたんだ。子会社だって、儲けを出さないといけないからね。

 でもそのせいで、エマの人生は狂ったんだ」

「補償とかは?」

 訊くと、ルイスは頷いた。

「子会社の責任、そしてブライトンは監督責任という事で、エマの治療費を負担し、エマを社員として雇用する事で、生活できるようにはしたよ。

 何も喋らないのを条件にね」

 何とも、重い気分になる話だった。

「エマ、ルイスがブライトンの長男だって事は?」

「知ってるよ」

 ルイスは何とも言えない泣きそうな顔で笑った。

「ブライトンが、提携しているグループでの、ここの迷宮の初踏破を目指しているんだ。今はハリー・ポーリングのグループだけど。

 ブライトンは、とにかく利益第一主義だ。父も、弟も。今、丁度あの時と、経営状態もほかの状況も同じなんだよ。また同じような事故が起こりそうでね」

 ルイスは小さく溜め息を付いた。

「それで、鳴海と采真はどうしたんだい?」

「ああ。夕食に」

「ここの名物をと思ったんだけど、よくわからなくて」

 それに、ルイスは笑った。

「なるほどね。

 ここの名物は、何でもありのこの状態かな」

 やっぱり、と俺達は思った。

「でも一応、『UFOピザ』と『探索オムライス』かな。ピザは、UFOの形のピザ生地を使ってるだけだね。オムライスは、卵とライスの中に、ウインナーとかプチトマトとかいろんな具が隠れていて、それを掘り進めながら食べるっていうものらしいよ」

「ああ……なるほど……」

 無理矢理ひねり出した感というか、田舎の街おこしみたいな感じがする。

 それでルイスは笑って手を振りながら帰って行き、俺達は一応、探索オムライスなる物を食べに行く事にした。

「ルイスも、苦労してそうだな」

「ああ。それにハリー達もだぜ。きっと、やいのやいの、尻を叩かれてるに違いない」

「だろうな。気の毒になあ」

 俺達は他人事として呑気に言い合い、そして、探索オムライスの卵の下に隠された具は何か、何が入っていれば嬉しいか、そんな事を言い合いながらレストランに入った。


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