04-grope(2)


「大活躍だったんだ?」


「……不可抗力だ」


「ほんと、是非毎回一緒に来てほしいよ。怪しいとかすぐ気づくし、絶対逃がさないし」


 依砂いさに犯人達を任せた後、三人で痴漢パトロールし、バーに戻ってきていた。もちろん、骨を折るのは伶唯れいだったが、逃げた際や暴れた際の対処は生蛇なだが請け負っていたし、被害者のフォローには河東かとうが回っていた。効率とバランスの良い対処、そして何より、生蛇の察知能力が高すぎた。痴漢している男の顔や被害者の青ざめた顔で、そこで何かがあることは分かるらしい。言われて見てみても、よく分からなかった。


「毎回とか、ほんと勘弁してほしい」


「疲れきってるねぇ」


戸端とばの記憶のこと考えたら憂鬱だしな……」


 その言葉に、確かにと返した栖田すたはじっと考え込んだ。戸端の今の状況といえば、生蛇であった間に起こった事はなかった事になっているというもの。なかった事をあった事には出来ないが、なかった事にしていた事本当はあった事をあった事にすることは出来る。辻褄合わせの為には一部をあった事にしなくてはいけない。今日の場合はそれが中々に難しい。何故なら、生蛇として起きてから今に至るまで、普通ではない事ばかりしてしまっている。その為に、物事を上手く繋ぐ方法を探さなければいけない。それが生蛇にとっては厄介でしかなかった。

 戸端、いや、榛名佑吏はるなゆうりをまともに戻すためには、人と関わることが必要。この者達である必要はなかったが、他を探すならこの者達を殺さなければならない。だから、仕方なかった。おそらく、バランスを崩した瞬間待ち受けているのは殺し合いだ。本当に命を奪う生蛇と、戸端の精神を壊しかねない栖田との、殺し合い。生蛇の殺人を確実に止めるには、戸端を壊すことになっても、現実に向き合わせてから逮捕するのが妥当――生蛇には犯罪知識や技術が備わっていて難しいが、戸端には備わっていないはずだからである――と考えられる。他の者も加勢するだろうが、殺人である限りは栖田の担当だ。それを勘違いして出しゃばる者はいないだろう。


「それより伶唯れい、約束はどうしたの?」


 約束とは無論、戸端を眠らせないようにすること、だ。生蛇として目覚めてしまった時に、伶唯が一人でそこで起こり得る事に対応出来るとは思えない。これに関しては、伶唯も反論はないようだ。


「そっちだって、こっちに黙って河東かとう送り込んで来たくせに」


「空いてるって言うし、まだ一人よりかは二人かな、と思ってね」


 栖田に最初から信用されていなかったと知って、反論しようかと動きかけたが止めたようだ。実際、約束は守られなかったのだから伶唯に勝ち目はないのだ。


「裏切る時は、裏切るって分かりやすくやるから安心しろ」


 栖田が作ったオムライスを真顔で食べながら生蛇がそんなことを言い出す。全く安心できないその発言に、みんなの表情が固まる。

 そんなに悪いこと言ったか、そんなことを思いながら紅茶を飲み干す。生蛇も例に漏れず相当なマイペースさを発揮している。


「私は裏切らないでほしいと思ってるんだけど」


「だろうな。それに、本当は赦せなくて苛々してんじゃないか?」


 なんてこともないようなその言葉に、栖田が顔色を変える。事実、栖田の腹の中はぐちゃぐちゃだった。生蛇が戸端以外をどうでもいいと思っているのと同じように、栖田は戸端のことをどうでもいいと思っているのだ。それでも栖田は、そうしないと彼を止められないと分かっているから取引を継続している。まったく、成果の見えないこの取引を。


「生蛇くん、キミは」


「俺はいつでもここにいる全員、殺せる」


 その言葉に一番反応したのは伶唯と河東だった。何故なら、今日の彼の動きを見ているからだ。彼はナイフで人を殺していたが、今日犯人に向けて正確に銃を撃っていた。銃を持つ手に正確にてることなど、他の街の警察でも難しいと思われた。まあ、その手のプロフェッショナルなら別だが。


「……そう、なんだろうね」


「そうしない理由を思い出せって。すぐに思いつくようなことは大体試してる。簡単に解決すると思うなよ」


 そうしない理由、つまり殺人以外の発散方法を見つける為に待つという取引。


「え、人と関わればいいんじゃないの?」


「とりあえず暫く保つというだけで、解決はしない」


 そのシンプルな答えに、皆ほぼ同時に顔を伏せる。最初からそういう話であったことを思い出した。それを愚かだと反省し、策を考えなくてはと改心した。


「それならさ、教えてよ。榛名佑吏はるなゆうりくんのこと」


 そんなことを言い出した栖田すたは、誰にも見せたことがないくらいの笑顔を作った。






『あいつら呑気で面白いな』

「ていうか、俺演技上手すぎじゃない?」

『そこは評価してるよ、さすがに』

「何が評価出来ないって?」

『身のこなし』

「及第点だろ」

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