2/5(微修正再公開)
大甕 孝良
00-prologue
十年前、
真面目且つ理想の高い相柄議員は、この街の状況改善の為――この街は元々、政府をよく思っていない人間が多く住んでおり、政府も問題視していた――応援演説に訪れたのだが、そこで事件が起こった。政府に反抗する勢力が、演説会の行われている広場で暴動を起こした。そしてそれに乗じて議員の暗殺。たった一日で国が変わってしまったようだった。
この一日で、この街は国から手を差し伸ばされる最後のチャンスを失ったのだ。そう言われた。街の住人たちは、その意識からも強く逃れたがった。
様々な国民運動の末、この街に住む積極的な活動家達は全員逮捕された。そして、その上でこの街は見放されたのだ。存在するのに、まるで存在しないかのように扱われるこの街は、すぐに無法地帯へと顔色を変えた。
国に見捨てられた街、無法地帯と化した街、名すらも無い街。
そんな街の、人気のない場所に向かい合った影。一方は、ガサガサとビニール袋を鳴らしながら迫る男。真っ黒な格好、左手にはナイフ。もう一方は、小学校高学年くらいだろうか。穴が開いたり、破れたりしているTシャツと短パン姿な上、あちこち擦りむきボロボロになった子供。
イヤダ、イヤダ。と泣き叫ぶ子供の声が響きだす。しかし、助けが来る様子はない。
「お前が悪いんだってなんでわかんねぇかな」
乱暴に発せられた男の声に、子供から引き攣るような悲鳴が漏れた。汗に塗れ、足は縺れ、もう助からないことを悟っていながら、身体はどうしてもそこから逃れたがった。迫りくる男から逃げるように身体を捩るが、あまり効果はなさそうだった。
布と身体が切られる音、血が飛び地に落ちる音。それを追うようにまたビニール袋の擦れる音がした。
ドサリ、と倒れて、もう動くことはなかった。男はソレを足で道の端に寄せた。そして抉るように踏み潰す。
「せいぜい、後悔でもしてろよ、悪ガキ」
血を地面にのばすように足元を拭う。男は口角を上げ、静かに笑った。
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