31、ロゼリアの休日④

少年はその数の多さに目を丸くしていたが、ここは勝負のしどころと思ったようだった。


「俺のところは御用達でないけれど、縫製には自信があるよ。デザインも、我がまま大歓迎だよ。基本型から細かな変更をきかせてあげれる」

「別にエール王室御用達にはこだわりはないし、デザインは奇抜なものでなければ普通のでいいよ」

「なら、決め手は値段?」

ロゼリアの懐具合に探りを入れる。

ロゼリアは埃を被り薄汚れている。

持っていないと思われたのかもしれなかった。

「値段は安すぎは嫌だ。素材が悪くなるし、縫製も雑になる。でも速さはありがたい。そんなに服を持っていないから。それから、一番重視するのは、、、」

「のは?」

少年は身を乗り出した。

「秘密厳守かな。これが守れるなら、多少の出来不出来はおいておいて、君のところに決めるよ」

ロゼリアはいいつつ、低い台の上に置かれている小さな柄の反物を手にとった。

淡い赤色の地色に、小花の模様が繰り返されている。

「すごい細かな柄だね。こんなに同じ模様を繰り返し描けるなんて達人なんだろうね」

「描く?手書きでなくてこれは型染めだよ。一息に型を押して柄を作る。お兄さん知らないの?」

そういいつつ、吊った服をざっくりと掴んで布にまとめ始めた。

帰りしたくである。

ロゼリアが手に取っていた布も、売り物じゃないよと言わんばかりに奪われてしまう。

「え?もう店じまいなの?」

「そう。今日はあんたを連れて工房へ行く。布も多いから気に入るものも絶対あると思う。

まずは採寸して、一着作らせて。それで他も作るかどうか判断したらいいと思うよ?

秘密厳守なら任せとけ。顧客情報は誰にも渡さないから」

少年の押しの強さにロゼリアは負けてしまったのである。


少年の家の工房は裏通りにひっそりとあった。

案内がなければ立ち寄ることもなさそうな、人通りのすくない小さな通りに面していた。

だが、ここは様々な服飾に関係する職人が独立して店舗を持っていて、ロゼリアの言う靴や下着なども作っているし、自分ところで取りまとめるという。

少年はシリルという。

染色の工房は父親が、縫製は母親がしていて、母は10年以上御用達の店で修行をして腕には自信があり、生地から工房で作っているために色を変えることもできるという。


「口は堅いから安心して」

とロゼリアの最重要項目を保証する。

縫製職人の母は几帳面そうな渋面である。

ロゼリアを手早く採寸する。

どんな服を作りたいかを訊かれ、少年に初めにつたえたことを繰り返す。


「まずは一着作るよ。夕方にでも来れるかい?」

願ったりだった。

ロゼリアは、吊ってある女ものワンピースを一着手に取った。

馬上からみたエールの娘たちが着ていたような服である。

女もののヒールのある革で足の甲を押さえる形のサンダルも、サイズと色を違えて、いくつか添えてあった。

それを作っている靴職人も呼べるという。


「本当に秘密が守れる?」

「しつこいねえ、もちろんだよ」

「本当?」

しつこいといわれてもロゼリアは念押しをする。

「あんたが女ものの服をプレゼントに購入したことなんて言わないよ!」

シリルはむっとする母に代わり、元気に答えたが、その服はプレゼント用の服ではない。

銭湯に行くとき用に女ものの服が欲しいと思っていたのだった。

ここだと、着替えもできる。

その服を着ると言った時、少年とその母は、何度も念押ししたその理由を合点する。

ロゼリアが女装趣味があると思ったようだった。

そして、ワンピースに着替え、女もののサンダルをはき、髪を緩くまとめた姿に、二人は感嘆の声をあげた。


「すごい、うまく化けるね!あんたの女装趣味は誰にも言わないから安心して!むしろ、ここをあんたの変身拠点にしなよ。観光を楽しんできなよ!荷物は預かっておいてやる。帰ってくるまでに一着作るし、型染めの様子もみたいのなら親父に頼んでやるよ!」


シリルはやけに神妙に何度もうなずいて、優良顧客の心を捕まえる一言を言う。

「変身拠点って本当?」

「本当!」几帳面そうな顔をさらにしっかりと唇を引き締め、シリルの母もうなずいている。

ふたりはまずはロゼリアを時間つぶしに送り出したのであった。












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