第50話『バケツとジェリカン』
かの世界この世界:50
『バケツとジェリカン』
ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……
葦の草叢を三つの足音が逃げていく。
グリと目配せして川下と川上に分かれて追いかける、それぞれケイトとブリを従えている。
融合体との戦いで、四人は阿吽の呼吸で行動できるようになったようだ。
草叢の上にグリの掲げた手が「そこ」を示している。「そこ」とは、カエル投げの犯人が一秒後に到達する位置だ。今現在の場所を指しても、飛び込んだ時には手遅れになる。
セイ!
その未来位置にケイトと一緒に飛び込む。グリとブリも飛び込んで瞬くうちご用!
襟首と腰の後ろを掴んで持ち上げると、ジタバタと手足をもがかせて抵抗するが、いかんせん小さい。
離せ! 離せ~! 離せ~ヘンタ~イ!
「おまえら、ヴァイゼンハオスの子どもたちだな」
腕組みしたグリは怖そうだが、目が笑っている。
「だ、だからやめろって言っただろ~が!」
わんぱくそうなのがもがきながらイケメンの男の子に言う。イケメンの方は苦笑いだが、ケイトに掴まったお転婆が口を尖らせる。
「き、きったねー! 投げようって言ったのはロキの方じゃないか!」
「そうか、そういうやつか、お前は……」
ピシ!
グリが畳んだままの鞭を一閃、わんぱくの数本の髪の毛が宙に飛ぶ。
ヒエ~~~~
三人同時に悲鳴を上げて、腰が砕ける。
「ここじゃ、水に浸かるなあ」
戦車の前まで連れていき、四人で囲んで正座させた。
「なんでカエルなんか投げたのよ!」
一人命中弾をくらったケイトが詰め寄る。
「こんなとこまで戦車でやってくるのは……」
「えと……」
男の子二人が言葉を濁らせると、女の子がまなじりを上げる。
「きっとサボりに違いない! だって、シュタインドルフはオーディンシュタインに護られてるから安全なんだもん! そんなとこに来る兵隊は、きっと腰抜けだ! って……間抜けだったっけ? ロキ?」
ロキに振るので、首謀者は丸わかりだ。
「お、オレに振るな~!」
わんぱく坊主はヘタレでもあるようだ。
「おまえたち、こんな河原で何をしていたんだ?」
「決まってるじゃん……あ!?」
女の子は、自分の両手を見てハッとした。
「バ、バケツが……」
わんぱく坊主もオタオタ、どうやら、なにかの用事の最中に、わたし達を発見して悪戯を思いついたようだ。
「バケツなら、三つまとめて向こうに置いてあるよ。戦車に気づいたとたんにほっぽり出すんだから」
ピシュ
グリが大きく一振りすると、鞭の先に取っ手を絡めとられた三つのバケツが引き寄せられた。
「水汲みか……」
「わたしたちも挨拶代わりに水を汲んで持っていこうとしていたところだ。ちょうどいい、作業を手伝え」
「戦車で水汲み?」
「ああ、そうだ。たくさん運べるが、水槽に入れるところまでは人力だ。がんばれ」
「そのまえに、ちゃんと名前を聞いておきたいな」
ブリが、手ごろな使い魔を見つけたという顔で言う。
「ぼく、フレイです」
イケメンが最初に名乗る。
「わたし、フレイア。フレイの妹よ」
なるほど、性格は違うようだが顔立ちは似ている。
「ほれ、あんたの番よ」
フレイに小突かれて、いっそうオタオタのわんぱく。
「ロ、ロキだ。ハオスの子どもの中じゃ一番偉いんだぞ」
「そうか、じゃ、偉いのが先頭で作業にかかるぞ」
「そそ、そっちも名乗れよ」
「向こうに着いてからだ、さ、かかるぞ」
子どもたちのバケツと戦車のジェリカンをぶら下げて水汲みに掛かった……。
☆ ステータス
HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
グリ(タングリス) トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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