第49話『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』


かの世界この世界:49     


『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』  








 ムヘンブルグの遥か西、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。




 シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のせいか、武骨な二号戦車のエンジン音も振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。


「よく、こんな体勢で寝られるなあ」


 知恵の輪のように絡み合って寝ているブリとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。


 敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。


「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」


「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」


「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」


「石村……」


 拍子抜けがする。


「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」


「主神オーディーンの名を冠した石?」


「ええ、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです」


 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


 う!


 軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。


「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」


 最初に飛び出したのはブリだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。


「ふわああああああ(´Д`)…………え……みんなも出てみろ!」


 車外に出て猫のようにノビをしたブリが沈んだ声で呼んだ。


「どうかしたんですか……」


 続いて出たグリが息をのんだ。


「これは……」


 驚いた。


 一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?


 魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり崩れたりの無残な姿だ。


「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」


 目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているのだ。


「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」


「それがいいようだな」


 グリの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。


 右手二十メートルの川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当だと思う。


 二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。




 ブン! ブン! ブン! ベチャ!




 何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。


「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」


 それは、よく肥えたカエルであった。




☆ ステータス


 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る