第37話『超重戦車ラーテ』


かの世界この世界:37     


『超重戦車ラーテ』  







 それは巨大な戦車だった。



 重量1000トン、全長35m、全幅14m、高さ11m 小さな小学校の講堂ほどもある。それで名前は『ラーテ』で、ネズミという意味だから恐れ入る。


 諸元が分かったのは、上がったところがエンジンルームと操縦室の間で、車外と車内の各所に移動するための空間で。最大50人の戦闘部隊を収容できるしブリーフィングもやるため、壁にラーテの三面図と諸元が記してあるのだ。


「昔は、おまえたちが曳く二頭立ての戦車だったのにな」


 ブリが触れると、三面図が、古代ローマにあったような二頭立ての戦車になった。


 赤いチュニックの上に甲冑を着た金髪のマッチョが乗っている。


 勇ましくはあるんだけど、どこかマンガだ。


 マッチョの振りかぶっている得物が柄の短いハンマーなのと、戦車を曳いてているのが馬ではなくてヤギだというところだろう。


 なぜか、タングリスとタングニョーストが俯いている。


「では、ムヘンブルグに向かいますので、席におつきになってシートベルトをお締め願います」


 三面図をもとに戻しながらコクピットを示すタングリス。タングニョーストが厳ついハッチを開き、ブリはツカツカと入っていく。




 コクピットと言っても教室くらいの広さがあって、最前列の操縦席と副操縦席の後ろは何かの機器を挟んで左右に十席ずつのシートがある。


「多少揺れると思うが、辛抱してくれ」


 背中で言うとガチャリとシートベルトを締めるブリ。出会った時は四五歳の女の子に見えていたが、今は体格こそ小さいが、あっぱれ姫騎士の貫録だ。ツインテールは肩にやっと届くほどの長さに落ち着いている。ツインテールは状況に合わせて伸び縮みするようだ。




 ブィーーーーン




 ガスタービンが動き出すような頼もしい起動音がしてラーテは動き出した。


「前方モニターを展開します。モニターを見ていれば酔いませんから」


 タングリスが気を利かせてくれる。


 操縦席の前が、遊覧船のフロントガラスのように見晴らしが良くなった。




 それにしても揺れる。




「な、なんで、こんなに揺れるのーーーッ!」


 ケイトが目を回しながら悲鳴を上げる。


「昨日までいたのは、わたしのための牢獄だ」


「牢獄は見晴らしが効かないとな」


「そ、それにしても……」


 プータレるケイトだったが、すぐに、他のものに気を取られ、揺れどころでは無くなった。


「ちょ、シリンダーが寄って来るんだけどー!」


 単体や、結合帯になったシリンダーが、フロントガラスに雨だれのように落ちてくる。たいていは一瞬覗き込むようにしてすぐに離れていくが、しつこい奴は、ウネウネとナメクジのように這いまわっていく。


「探っているのか?」


「いいえ、親しみを感じているのです。トール元帥は、ムヘンのような辺境でも人気があります」


「餌を撒いて散らしましょう」


 タングニョーストがパネルにタッチすると、なにやらゴマ粒のようなものがラーテの八方から撃ちだされた。


 近くに漂っているのを見ると、ゴムの小袋に充填されたアイスに似ていて、吸い口がチョロリと出ている。シリンダーは割れ目の所が口になっているようで、スポっと咥えると、チューチューと吸い出した。


「ウ……なんだか便秘の治療をしているような……」


「オー、そう言えばイチジク浣腸!?」


 ケイトの即物的な想像力に、ラーテの操縦室は笑いに満ちる。


 やがて、大きな丘を越えたところで、前方にムヘンブルグ城塞都市が見えてきた。


 


☆ ステータス


 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト


 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル


 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2


 


☆ 主な登場人物


 テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 


 

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