第346話:エピローグ
――そして、魔王を倒してから一ヶ月が経過した。
「……ここが本当に、魔の森なのか?」
意識を失った俺は、あれから一瞬間も目を覚まさなかったらしい。
森谷の魔法でグランザウォールまで運んでもらい、そこでアリーシャの看病を受けていた。
もちろん記憶にはないが、グウェインが言うにはとても甲斐甲斐しくしてくれていたようで、本当にありがたい限りである。
目を覚ました俺は今回もアリーシャから苦言を呈されるかと思っていた。しかし、意外にも彼女は心配したと、生きて帰ってきてくれてよかったと、そう言ってくれただけで、苦言を呈することはなかった。
そのことが少しばかり嬉しくもあり、不安でもあった。
そんな中、俺はアリーシャに連れられて魔の森へやってきている。
目を覚ましてから今日まで、アリーシャの屋敷で療養しており、魔王討伐以降で魔の森に足を運んだのは今日が初めてだ。
そして見てしまった魔の森の変わりように、思わず呟いてしまった。
「すごいでしょう? 凶悪な魔獣が闊歩し、天候も荒れに荒れ、四季がない場所まであった魔の森が、こんなにも緑豊かで、多くの自然動物たちが安心して過ごせる場所に様変わりしてしまったのですよ?」
とてもまぶしいものを見つめるように、アリーシャは様変わりした魔の森を見つめながらそう口にすると、その視線をこちらに向ける。
「……これで、防衛都市としての看板を下ろすことができるかもしれません」
「……え?」
するとここで、アリーシャから驚きの言葉が飛び出した。
「元々グランザウォールは、魔の森から溢れてくる魔獣を抑えるために作られた防衛都市だったんです。そして、その魔の森がなくなりました。ここのことも、魔の森以外の名称を考えなければなりませんね」
「……確かに、この様子で魔の森なんておどろおどろしい名前は遠慮してもらいたいな」
俺の言い回しに苦笑しながら、アリーシャは言葉を続ける。
「実は、陛下からも勅命をいただきまして、グランザウォールは別の方が治めることになったのです」
「えぇっ!? いや、だって、それはダメだろ!!」
そこからのまさかの展開に、俺は声を荒らげてしまう。
「私も最初は驚きました。ですが、勅命で頂いた手紙にはこうも書かれていたのです」
「……それは、なんて?」
「……長い間、一族で魔の森からの魔獣を退けてくれて感謝する。アリーシャ・ヤマトの代からは肩の荷を下ろし、最も愛している者と末永く幸せになってもらいたい」
その言葉をアリーシャから聞いた俺は、どう答えるべきか悩んでしまった。
「手紙にも記されている通り、この地はヤマト家が代々で守り続けてきた場所です。本当に私の代で手放してもいいのか、それをお父様やお母様、先代たちが許してくれるのか、それがとても心配でもあり、不安でもありました。だけど、お父様やお母様、それにお爺様やお婆様たちなら、最後は私の幸せを願ってくれるのではないかと、そう思ったのです」
そう口にしたアリーシャの瞳には、涙が浮かんでいる。
彼女が口にしたことは事実なのだろう。しかし、事実だとしてもいまだに不安がないとは言い切れないのだと俺は思った。
「……なあ、アリーシャ」
俺はこの世界に来て日も浅いし、ヤマト家が築き上げてきた歴史についても知らない。
だからこそ、俺にできることと言えば、目の前で悩み苦しんでいるアリーシャを思い、彼女と一緒になって考えることだと思った。
「俺は、そんなアリーシャの隣に並んで歩いていても、いいかな?」
「……いいのですか?」
「いいも何も、俺がそうしたいと思ったから聞いたんだよ」
悩み、苦しんでいるアリーシャを支えて、共に歩んでいける未来があるのなら、俺はその未来を手に取りたい。
俺がそう告げると、アリーシャの瞳に溜まっていた涙が彼女の頬を伝い落ちてきた。
「……私は、この地を離れても、いいと思いますか?」
「俺の我がままを言うなら、この地を離れて二人で色々な場所を見て歩きたいかな。そうしたら、先祖が起こってきたとしても、俺のせいにできるだろう?」
本音と冗談を交ぜながら、俺は笑顔でアリーシャにそう宣言した。
「……うふふ。それじゃあ、その時はトウリさんに守ってもらってもいいでしょうか?」
「当たり前だろ? これから一緒に歩いていくんだからさ」
そう口にした俺はアリーシャへと歩みより、彼女を優しく抱きしめた。
「……大好きだ、アリーシャ」
「……はい。私も大好きです、トウリさん」
異世界に召喚された時はどうなることかと思ったけど、最終的には俺にとって最高の出来事だったに違いない。
大変なこともあったし、死にかけたことも一度や二度では収まらない。
だけど……アリーシャと出会い、心を許せる仲間と出会い、今が一番幸せだと思えているのだから。
終わり
職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職で自由にいきたい~ 渡琉兎 @toguken
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