第27話 悶々とする日々
あれ日から、私はずっとモヤモヤとした日々が続いた。
コーヒーチェーン店で出会った、琢磨さんの後輩社員である谷野さんから聞いた話は本当なのか?
真相を確かめたかったけれど、琢磨さんへメッセージを送る勇気も出なかった。
というか、私がメッセージを送ったところで、琢磨さんには迷惑な話に違いない。
『先週の金曜日、本当は誰と出かけたの?』
私は琢磨さんの彼女でもないのに、何様だよという感じになってしまう。
結局、どうやって自然に聞き出せばいいのか分からないまま、メッセージアプリのトーク画面に、メッセージを打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返す。
さらに言えば、あの日の昼間。
私は大学で一人寂しく昼食を食べているところを、琢磨さんに見られてしまった。
そのことについて追及されないか、不安で怖い。
琢磨さんは優しい人なので、優しく宥めてくれたり、同情してくれたりするかもしれないけれど、かえって私にとってはそれが一番つらいのだ。
そんなこんなで悩みもがいているうちに月日は流れ、あっという間に次の金曜日がやってきてしまう。
あれから、琢磨さんの方からも音沙汰は特になく、悶々とした日々を過ごした。
琢磨さんはいつもと変わらず、『八時にいつもの場所で』、と連絡してくるのだろう。
それが、私にとっては余計に悲しくてつらかった。
本当は、ドライブ彼女なんて存在、琢磨とっては迷惑でしかないことに改めて気づかされる。
無理矢理頼み込んで琢磨さんにお願いしたドライブ彼女。
さらには、大学生活が上手く行っていない私を見られてしまったことにより、琢磨さんと顔を合わせづらい状況を作り出していた。
気付けば、琢磨さんからまたドライブできないとメッセージが来ることを望んでいる。
私は初めて、琢磨さんとドライブに行きたくないと思ってしまった。
※※※※※
「お疲れ様です。お先に失礼します」
琢磨は仕事を終えて、いつものように満員電車に揺られて帰宅する。
夕食を食べ終え、いつもよりも時間に余裕をもって家を出る。
『今から向かう。待ち合わせ時間には間に合うと思う』
一応、由奈に何の変哲のない業務連絡だけ送っておく。
車を駐車場から出して、通知を見れば一言だけ――
『わかった』
と、由奈から一言返信が来ていた。
先週の金曜日は、網香先輩とのドライブデートをして、その後一緒にご飯を食べて充実した日を送った。
由奈とのドライブデートを断ってしまったのは申し訳ないと思っている。
なので、今日くらいはしっかりと待ち合わせ時間に遅れないよう行こうと決めていた。
先週ばったりと大学で由奈に出くわしてたことは、由奈から何も言われない限り、何も言及しないことにしようと琢磨は心に誓っている。
ドライブを始めた当時、琢磨は由奈のことを不思議な女子大生程度の認識しかしておらず、どこにでもいる華やかな学生生活を送っている大学生の一人だと勝手に決めつけていた。
けれど、四阿の下でひっそりと一人寂しそうに昼食を食べている姿を見てしまえば、どれだけ鈍い琢磨でも、由奈がどういった大学生活を送っているのかは分かる。
琢磨は順調に車を走らせて、予定よりも早く待ち合わせ場所に到着する。
辺りを見渡すが、まだ由奈の姿は見えない。
由奈が到着するまで、時間潰しにスマートフォンでも見ようかと思い、ポケットから取りだすと、丁度由奈からメッセージが届いていた。
『ごめん、少しだけ遅れます』
折角いつもより早く来たのに、今日は由奈の方が遅刻か。
まあ、以前由奈を二時間も待たせちゃったし、少しくらいならお安いご用だな。
『わかった。いつものところで待ってるよ』
琢磨は返事を返して、由奈をゆっくりと待つことにした。
※※※※※
「はぁ……」
琢磨さんと顔を合わせないという気持ちからか、由奈の足は琢磨との待ち合わせ場所へ向こうとはしなかった。
地下街の本屋で何も考えることなく、本の表紙を指でなぞりながら、短いため息をついている。
いっそこのまま、適当に理由を付けて、琢磨のところに行かないという考えも思い付いたけれど、琢磨さんに嘘を吐くのも気が引けた。
結局、由奈の中でどうしたいのか気持ちがぐちゃぐちゃのまままとまらず、無駄な時間を潰していく。
待ち合わせ時間から十分ほど過ぎたあたりで、由奈は決心して、ようやく重い脚を動かして、琢磨さんの元へ向かう決意を固めたのだった。
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