抄血し園が瀬、灰に記す天。
まり
心計郷縛
何者かでありたい。
諦観を否定し続ける濁流が、この心臓を巡る間に。
「
「魔術的である、と彼は言いき」
「然して其の名は芳し、遺伝子工学。誰もに咲き誇る、
――――Sakliar S.Cielnah (2066) The modern approaches of politics. (機構訳版)
貴方じゃないの、と母が口にする。それだけ?
憧憬を捨て去れるだけの強さが欲しいので、カラメル色の骨を差し出してみる。それでも父の許には届かない。
至誠、桟を弾いて、浮かぶ瀬の消し飛ぶまでが第一席。
尊崇、業を纏って、愛しさの果てを見る背中が第二幕。
誰もが生まれながらにして、月夜を青に、日の出を黒に見るまで螺旋は続き、時の果てに誰かが書き残した探求を捲る指先が、彼女自身の脳髄を揺り動かしたのがつい十行前。
嗚呼、刻限に鍵して三千星霜。ひとは、死と眠りの区別が曖昧になりつつあった。
「貴方の中にある、渦巻く鍵を――と結ぶ」
叙述と発話の境を消すのは彼女の心が昂揚している時と決まっている。手にする古代のスクロールは、そのような文句で書き終えられているらしかった。
「6時間。随分と魅了されていたように思うよ、面白かったのかな?」
「……たぶん、そうなの。抉られるわ……此処が」
薄い胸に手を当ててそう呟く彼女は、問うた方へ一瞥も寄越さない。
ここ天壌大災穏目録は、変化を蛇蝎と見る少女
輪廻する人々の散逸した時の果ての記憶のうち、復元に際して「大略」に分類されたものの全てがここにある。
この
しかしクゥの中には、このハビタットの殆どの者と先までの自分とは、とんでもない愚か者ではないかとの思いが芽生えていた。何故なの――この偉大なる知の巨塔は、それほど遠くにあるわけではなかったのに。
「もう少し、いたいよ」
「構わないと言ってあげたいけれど、刻限を過ぎているどころじゃあない。お兄様に怒られてしまうよ……私が」
「構わないよ」
相変わらずクゥの視線は、抱き上げられた猫のようにスクロールへ固定されている。
自分のことではないとなれば間髪入れずこうだ、と内心で軽く毒づいてから、少年はクゥの肩へ手を伸ばした。
「そう言わないで。明日また来るだろう? 任務もせずに本の世界へ日がな一日。君の天職さ」
その横顔が少し膨れたようにも見えたが、ともかく彼女を連れ出して返す必要があった。
抄血し園が瀬、灰に記す天。 まり @Xeilin-s
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