第60話 アルザス先生との再会

 俺と香織は戻ってきて二十四時間を経過する時間に合わせて、すぐに異世界へ向かった。

 ファンダリアの拠点部屋からマリアに念話する。


『マリア、今戻った。転移門を頼む』

『解ったよ。今は王都の商業ギルドで積み荷の納品中だから、ギルドの横の路地に行くね』


 俺は香織と一緒に、門をくぐった。


「リュミエル、もう大丈夫なの? ゴメンネ私を庇ってくれた為にあんな大けがさせちゃって」

「テネブルのお陰で、結局はどうも無かったんだからいいよ。これからはもっと強くなってお互いテネブルに迷惑かけない様に頑張ろうね」


「うん、一杯頑張るよ。あ、テネブル。サンチェスさんが待ってるよ」

「解った」


 俺はマリアと香織と共に、サンチェスさんの元に向かった。


「テネブル、リュミエル。無事じゃったか心配したぞ」

「ご心配おかけしました。ってテネブルが言ってます」


 サンチェスさんは王都の商業ギルド長の部屋に居たので、隣の応接室へと移って、俺のインベントリから、サンチェスさんに頼まれていた荷物と俺が持ちこんでいる荷物を全部出した。


 鏡や腕時計の高額になりそうな商品は、サンチェスさんのマジックバッグに移す。

 リュミエルが大量に持ち込んでいる下着と化粧品は今日の商業ギルドの営業終了後に、商業ギルドの女性職員と関係者や上流家庭の女性を集めて披露会を行われる予定になっているそうだ。


「ファンダリアの辺境伯が今は王都に来ているので、今日の化粧品の披露会にご婦人方と共に参加して頂く事になっている。辺境伯が気に入れば辺境伯主催のパーティが開催され、そこで王都の社交界へお披露目される手順じゃ」

「何だか規模が凄くて心配です」


「わしに任せておけばよい。マリアは夕方までアルザスの所でも訪ねてくれば良いぞ」

「解りました。アルザス先生にお会いできるのは楽しみです」


 俺達はサンチェスさんに場所を教えて貰ってアルザス先生の家を訪れる事にした。

 初めて見る王都は、とてつもなく広い。

 人も今まで通ってきた町と比べると、圧倒的に多く活気がある。


 人種も様々ではあるが、中流以上の生活をしていると見受けられる人々は、殆ど人属だな。

 着ている洋服の雰囲気などからそう思わせる。


 王都の中央に見えるのは正に絵にかいたようなお城だ。

 日本では千葉のレジャーランドでしか見る事の出来ないようなお城が、その十倍以上の規模でそびえ立っている。


 王都自体は一辺が五キロメートルほどの正方形の区画になっていて、周囲は高さが十メートルほどもある石造りの壁によって囲まれている。

 壁の上には二百メートルおきくらいの間隔で物見櫓ものみやぐらがある。


 中央のお城には二十メートルほどの幅のある堀が張り巡らされ、それを囲う様に貴族街と行政機関が一キロメートル四方ほどの範囲で広がり、それを囲むのは商業区で、その外側に居住区、工業区、歓楽街などが広がる。


 王都の壁の内側だけでも三十万人もの人々が暮らす空間だ。

 

 マリアが写真を撮りながらアルザス先生の自宅までの道をチュールちゃんと俺と香織で観光をしながら移動した。


「あ、テネブル。ここだよアルザス先生の家」


 そうマリアが言ったのは商業区にあるかなり豪華な作りの邸宅だった。


「流石に儲かってるっぽい家だよね」

「アルザス先生は基本往診での治療しかされないから、治療院みたいな作りでは無いけど、お弟子さんたちはここで学んでるんだって」


「へぇそうなんだ」

 門番の人に「ファンダリアのマリアと言います」と伝え、取次を頼むと許可が出たようで中へ招き入れられた。


「お久しぶりですアルザス先生。今回はサンチェスさんの護衛任務を受けて一緒に連れて来ていただきました」

「おおそうか、テネブルもよく来たな。その犬と猫人属の女の子もマリアの連れか?」


「はい、こっちの白いワンちゃんがリュミエルって言って、テネブルのお友達です。猫人属の女の子はチュールちゃんと言って、途中で知り合いになって、一緒にファンダリアに行く事になりました」

「よろしくね」ってリュミエルが言ったけど「ワン」としか聞こえないぜ!


「チュールです。よろしくお願いします」

「アルザスじゃよろしくな」


「アルザス先生、ちょっとテネブルがお尋ねしたい事があるみたいですけど、いいでしょうか?」

「ん? なんじゃ?」


「賢者ソウシの名前はご存じですか? って」

「…………なんと、何故テネブルはその名を知っておる。賢者様の存在を知る者たちの中でも、ファーストネームはわしら弟子くらいしか知らぬ筈じゃ」


「教科書などでもファミリーネームの『オキタ』しか伝わっておらぬからの」


「え? 俊樹兄ちゃん…… 沖田って何? 聞いて無いよね?」

「香織、聞いては無いが、なんとなくそんな気は俺は感じていた。ただの一般人が幕末の時代に異世界転生で呼び出されて、それなりの名を残してる方が不思議だからな」


「えぇ、じゃぁ私達って新選組の沖田総司の子孫だって事なの?」

「まぁそうなっちゃうのかな?」


「テネブルは賢者様とお話が出来るらしくて、アルザス様の事を聞いたそうですよ」

「なんと、まことか。わしはハーフエルフじゃから今となっては、ただ一人の賢者様の教えを継ぐものとなってしまったが、四百八十年の時を生きても尚、賢者様には遠く及ばぬのじゃ」


「アルザス先生は、賢者様より年上だったんですか?」

「そうじゃな、初めてお会いした時にわしは既に三百歳を超えておったかの。人属のひょろっとした若者が、次々に失われた魔術を蘇らす事に恐怖もしたし、憧れもした。わしも最初は賢者様に張り合っておったが、何をしても敵わんでな。最終的には教えを受ける事になったんじゃ」


「アルザス先生は古代魔法エンシェントマジックは使えないのですか?」

「それがの……教えを受ける前に勇者達と魔神の封印へ行かれたまま。戻っておいでになられなかった」


「そうなんですか……」

「テネブル、わしはもう一度賢者様にお会いして古代魔法を会得できるのであれば他になんの望みも無い。どうか会えるのなら案内して貰えぬか」


「アルザス先生。テネブルが聞いてみてはくれるそうですが、お返事はすぐには出来ないと言っています」

「そうか……じゃが、わしにも生きる希望が湧いて来たぞ。こうしてはおれん。エルフの森から仙桃せんとうを取り寄せ、若返りを行わねば」


「仙桃って人間にも効果はあるんですか?」

「残念ながら若返りの効果が現れるのはエルフだけなんじゃ。じゃが、エリクサーの原料としても必要な事は知られておる。エリクサーは仙桃の果汁と薬草、神秘の泉でくみ上げた聖水を使って調合し、十万分の一の確率で成功する事があるのじゃ」


「仙桃の実と聖水は一体どれくらいのお値段がするのですか?」


「仙桃の実を王都で手に入れるには一個が五十万ゴールド程もする。聖水も調合一回に使用する量で五万ゴールド程じゃな」

「とても成功する事は、難しそうですね……」


「じゃが賢者様はかなり高い確率で成功されておったから、調合にも何か重大な秘密があるはずじゃ」


 なんだか結構この世界での目的になりそうなキーワードも混ざっていた気がするな。


「アルザス先生はこの後お時間ありますか?」

「うむ大丈夫じゃ」


「王都の商業ギルドマスターのお宅で、ちょっとテネブルやリュミエルの用意した、新商品のお披露目が有るので是非お越しください。一応誰が用意したのかは秘密ですけど、アルザス先生にだけは教えておきますね」


「ほう、賢者様を知る者が用意した商品とは楽しみじゃな」


 俺達はアルザス先生に王都で有名な薬調合を行える錬金術師を紹介してもらったりしながら夕方にアルザス先生の家の馬車に乗り商業ギルドへと戻った。

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