拐われる三人


「千華先輩、見回りって僕達がする必要あるんですか?先生達も見回りしてるみたいですし」


僕と千華先輩は、のんびり見回りをしながら話をした。


「正直先生って、なにかして見つかっても怒られるだけでしょ?反省してるフリしとけば説教は終わるし、でも雫は、反省してるフリすらも見透かす気がするし」

「あー、確かに」

「そうそう。だから先生が見回りするのと、生徒会が見回りするのじゃ怖さレベルが違うってわけ!」

「でも、この祭り毎年来てますけど、喧嘩とかありました?聞いたことないですよ」

「これは憶測に過ぎないんだけど、雫は夏祭りじゃなくて冬の雪祭りに結愛と乃愛にボコボコにされてるんだよね。それとなにか関係してるのかなって。二人がフードをかぶり始めたのもその頃なんだよねー」

「前はかぶってなかったんですか?」

「それまでは普通だったよ?乃愛も眠そうじゃなかったし」

「へー。あ、ちょっと瑠奈に電話しますね」

「う、うん!」


瑠奈に連絡しなきゃいけないことを思い出し、一度立ち止まって瑠奈に電話をかけることにした。


「もしもし」

「もしもし!」

「時間なんだけど、16時からでいい?」

「4時間後⁉︎」 

「うん。見回りが忙しくて」

「そ、そうだよね!無理しないようにね!一緒に花火見れるならいいや!」

「花火って何時から?」

「20時間から21時までの1時間!」

「あー......」


全員で見回りする時間だ......


「どうしたの?」

「ううん!とりあえず時間になったら、また連絡する」

「了解でありまする!」

「じゃあねー」

「はーい!」


隙を見て抜け出すしかないか......なんか今日の瑠奈、張り切ってるのが声から伝わって、邪険に扱うのは可哀想だし。


「どうかした?」

「いや、大丈夫です!」

「そういえば、今日20時から花火大会があるね!蓮と一緒に見れる!」

「え⁉︎」

「え?」

「いや、なにも......」


どうしてこういう時、僕はハッキリ言うことができないんだろう。

きっと昔、嘘もつかずに、真っ直ぐ正直に生きていて、それが裏目に出て瑠奈を酷い言葉で傷つけてしまったからかな......それでも瑠奈.....好きでいてくれてるんだもんな......いつか、あの時のこと謝らなきゃな。


「蓮?やっぱりなんか元気ないよ!唐揚げ食べよ!奢ってあげる!」

「あ、ありがとうございます」


見回りをしながら唐揚げ屋さんに向かい、千華先輩は唐揚げの大サイズを買ってくれた。


「一緒に食べよ!」

「なんか、千華先輩から貰う唐揚げって怖いですね」

「酷い!」

「でもありがとうございます!いただきますね!」

「うん!」


二人で唐揚げを分け、蓮はただただ唐揚げを食べて満足していたが、千華は違った。

(やったやった!♡蓮と一緒になにかを食べる夢が叶った!♡いつか弁当も一緒に食べたいな♡)


そしてそれを離れた物陰から見ていた梨央奈は壊れかけていた。


「睦美さん!なにあれ!なんで一緒に唐揚げ食べてるの⁉︎」

「私に言われても......」

「蓮くんも満足そうにして......ムキー‼︎」

「ムキーって言って怒る人初めて見た」

「ほら!睦美さんも一緒にムキー‼︎」

「なんで私も⁉︎てか、梨央奈さんって結構明るい人だったんだね」

「そんなのいいから!今は蓮くん!」

「はいはい」


それから蓮と千華は、それなりに祭りを楽しみながら見回りを続け、14時になった瞬間。


「蓮くん!14時になったよ!」

「梨央奈先輩、ずっと尾行してたの分かってましたよ」

「してないよ?」

「してましたよ」

「してない」 

「してた。睦美先輩、してましたよね」

「してた」

「睦美さんの裏切り者‼︎そんなことより14時だから、千華はどっか行って」

「えー、このまま四人で見回りしようよー」


梨央奈先輩はプクーっと頬を膨らませて、不機嫌そうに僕を見つめてきた。


「り、梨央奈先輩と二人で見回りしますね」

「んー、蓮が言うなら分かったー。んじゃ睦美先輩、一緒に射的しに行こ」

「うん。いいよ」


千華先輩と睦美先輩は二人で人混みの中に消えていき、梨央奈先輩は機嫌を直し、僕と手を繋いで見回りをし始めた。


「蓮くん!なにか食べる?なんでも買ってあげる!」

「さっき千華先輩といっぱい食べちゃって」

「唐揚げ、焼きそば、かき氷、食べたいよね?」


全部さっき食べたやつだ......

絶対わざと言ってるよ......


「た、食べますか......」

「クレープと焼きトウモロコシもね!」

「勘弁してください」

「どうして?千華より私が下ってこと?」

「なんでそうなるんですか。てか、なにも食べなくても、梨央奈先輩と祭りに居るだけで楽しいです」

「そうなの?本当?」

「はい!」


逃げのための言葉に聞こえてないか不安だけど、梨央奈先輩は僕の言葉を信じてくれる。

それに今のは本心だ。


「見回りがなければ、梨央奈先輩の浴衣姿とか見たかったですよ」

「実は雫に浴衣じゃダメか聞いたんだけど、ダメだったんだよね」

「いつか見せてくださいね!」

「もちろん!来年は見せれるといいな!」

「楽しみにしてます!」


それから梨央奈先輩は輪投げに夢中になった後、一緒に水ヨーヨーを取り、二人で喜んでいる時、見回り中の雫先輩に声をかけられた。


「随分と楽しんでるみたいね」

「み、見回りもしてます!」

「別に疑ってないわよ?二人とも、結愛さんと乃愛さんを見なかった?」

「見てないよ?」

「僕も見てないですね」

「あの二人、パーカーを着てフードをかぶっているから、見つけたら何か飲み物を買ってあげてちょうだい。暑そうだったら、かき氷とかも買ってあげて。言ってくれれば後でお金は渡すから」

「あ、二人居ましたよ」


結愛先輩と乃愛先輩は、フランクフルトを食べながらこちらに歩いてきた。


「あ、雫達だ〜」

「二人とも、水分は取ってる?」

「取ってな〜い」

「今からかき氷で水分補給する」

「かき氷と水分は別よ。何か買ってあげるわ」

「ラムネ〜」

「ラムネがいいの?」

「私は水でいいよ」

「そう。それじゃ買いに行きましょう」


雫先輩は結愛先輩と乃愛先輩を連れてラムネと水を買いに行った。


「なんか雫先輩、あの二人に過保護ですね」

「やっぱりあれは裏があるねー」

「まぁ、あまり深入りしない方がいいですね」

「そうかなー?」

「そうですよ」

「とりあえず、今から20時間まで時間あるし、休憩しながら楽しもう!」

「あ......16時から瑠奈と約束が......」

「......」

「梨央奈先輩?」

「もう嫌だ」

「え?」

「どうして蓮くんは私を不安にさせるの?」

「そんなつもりは......」

「んじゃ約束して」

「なんですか?」

「花火は一緒に見るって」

「......はい......」


その頃瑠奈は、履き慣れない下駄で歩き続け、指の間が擦れてベンチで休んでいた。

(もうちょっとで16時なのに、足痛めちゃったな......)


そして16時になり、僕は瑠奈に電話をかけようとしたが


「充電切れてる......梨央奈先輩って瑠奈の番号知ってます?よかったら携帯貸してください」

「貸さない」

「え」

「だって瑠奈ちゃんに会うためでしょ?協力したくない」

「そうですよね......んじゃ僕行きますね」

「......うん」


花火大会......どうすればいいんだ⁉︎それに後で梨央奈先輩のケアもしないと。

とりあえず瑠奈を探そう。


瑠奈は携帯を眺めて、蓮からの連絡をずっと待っていた。


「瑠奈だ〜」

「乃愛先輩と結愛先輩だ」

「今日可愛いじゃん」

「似合う〜」

「ありがとう!蓮知らない?」

「さっきは梨央奈と居たよ〜」

「今は知らない」

「瑠奈〜、ラムネのビー玉取って〜」

「無理だよ。そのキャップ硬いじゃん」

「え〜。取って取って〜」


乃愛は駄々をこねて、ラムネの瓶を持ってグルグルと回りだした。


「乃愛、危ないよ」

「取って〜」

「子供か」


その時、乃愛は一人の大柄でガラの悪い男性にぶつかり、転んでしまった。

そして転んだ拍子にパーカーのフードがめくれ、乃愛の顔があらわになった。


「アンタ、そういう顔してたんだ。目も眠そうなんだね」

「おい。こいつ雪祭りの時の奴じゃね?」

「本当だ」


瑠奈は状況が理解できなくてキョロキョロしていたが、結愛の脚が震えていることに気付き、一度乃愛の体を起こしてあげて言った。


「ほら、謝って」

「......」

「なにシカトしてんだよ。謝れよ」


結愛はポケットに手を入れ、3人の男にバレないように携帯をいじった。

(最悪......よりによってコイツら......)


「そっちのチビ、フード外せよ」

「......」


男は結愛のフードを外すとニヤッと笑い、結愛の腕を掴んだ。


「んで、さっきからなにいじってんだ?」

「別に」

「口の利き方気を付けろよ。とりあえず携帯没収〜!まさかまた会うとはな。コイツら連れてくぞ」


瑠奈も腕を掴まれ、どこかへ連れて行かれそうになってしまった。


「は、離してよ!なんなの⁉︎」

「いいから来いよ」


乃愛はただ無気力に腕を引っ張られながら思った。

(みんな見て見ぬふり。こっそり動画撮るようなクソもいる......また、誰かを傷つけちゃうのかな......)


結愛、乃愛、そして瑠奈の3人は、3人男に祭りの外に連れて行かれた。


「瑠奈〜」

「は、早く雫先輩に連絡してよ!」

「やだ〜」

「は⁉︎」

「この祭りは大きいし〜、街から人が居なくなるんだよ〜」

「なにが言いたいの?」

「バーカ。諦めろってことだよ!」

「その通り〜」

「は⁉︎」


その頃蓮は、さっきまで瑠奈が座っていた場所に座って休憩していた。


ラムネと水のペットボトル......まさかあの二人、ポイ捨て?.....なんで下駄まで捨ててあるんだろ。


その時、蓮が持っていた緊急連絡用の携帯が鳴った。


「もしもし」

「あ、蓮?」

「その声はー、同じクラスの直樹なおきくん?」

「うん。なんかさっき、乃愛先輩と結愛先輩と瑠奈が、ガラ悪い男達に連れて行かれたけど大丈夫か?」

「それ本当⁉︎どこで⁉︎」

「えっとねー、横にくじ引き屋があって、古い、茶色いベンチがある場所」

「ここだ......」

「ん?なに?」

「なんでもない!教えてくれてありがとう!」

「はーい」


んじゃ、この下駄は瑠奈のかな......とりあえず生徒会のグループ通話でみんなに知らせよう!......携帯の電源切れてるんだった〜‼︎

あっ!梨央奈先輩なら僕を尾行してるはず!


「梨央奈先輩!梨央奈先輩いませんか⁉︎」

「呼んだ?」

「よかった!大変です!と、とりあえず携帯貸してください!」

「だーかーら」

「違うんです!瑠奈達が拐われました!」

「......雫に電話しなきゃ」

「グループ通話で、全員に知らせた方がいいですよ」

「そうだね」


梨央奈先輩は生徒会のグループ通話に電話をかけた。


「もしもし、瑠奈ちゃんが拐われたって」

「は⁉︎どこで⁉︎」

「千華、落ち着いて」

「結愛先輩と乃愛先輩もです」

「結愛と乃愛もだって」

「場所は?」

「蓮くん、場所分かる?」

「分からないです」

「だって」

「千華さんと睦美さんは一緒よね」

「うん」

「二人はそのまま周辺を探してちょうだい。梨央奈さんと蓮くんも一緒に行動して」

「分かった」


電話を切り、僕と梨央奈先輩は祭りの外を探すことにした。


雫は一人で俯き、自分の下唇を強めに噛んだ。

(拐ったのがあの日の3人なら......次は瑠奈さんが......)


雫は腕につけていたヘアゴムで髪を束ね、怒りで右の拳に力を入れた。


「......許さない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る