張り切る瑠奈


梨央奈先輩とお泊まりして目を覚ますと、体に重さを感じた。


「......なんだ?」


目を擦って見てみると、梨央奈先輩が僕に抱きつくように乗っかって寝ていた。


「梨央奈先輩、朝ですよ」

「んっ。んー、おはよー」

「なーんで脱いでるんですか⁉︎」

「なんでって♡蓮くも脱いでるじゃん♡」

「.......なんでー⁉︎って、男が上を脱ぐのと女が脱ぐのじゃ訳が違うんです‼︎」

「下も脱いでるよ?蓮くんも♡」

「いや、だからなんで⁉︎」

「蓮くんが襲ってきたんじゃん♡」 

「僕は寝てただけですよ⁉︎」


梨央奈先輩は腕で胸を隠し、携帯を見せてきた。


「ほら♡」


見せられた写真は、いかにも僕が梨央奈先輩を抱き寄せてキスしているような写真だった。


「僕こんなことしてないです!」

「蓮くんがしてないって言っても、写真は嘘つかないよ?♡」


梨央奈先輩はセクシーに髪を耳にかけて、朝から濃厚なキスをしてきた。


「高校生は、夏休みに初めてを経験する人が多いみたいだよ♡」

「したんですか⁉︎」

「してない。本当にする時は蓮くんにリードしてもらいたいから♡それじゃ朝ごはん作ってくるね♡」


梨央奈先輩は掛け布団を体に巻いて、部屋を出て行った。


急いで服を着て携帯を確認すると、瑠奈からの不在着信が81件......


「もしもし?」

「あの写真なに。今どこいるの?」

「え?」

「これ」


瑠奈が送ってきた写真は、さっき梨央奈先輩に見せられた写真だった。


「これは違う!」

「梨央奈先輩から送られてきて、ずっと電話かけてたのに......ずっとお楽しみだったってわけね」

「だから違うって!」

「で、今どこ?」

「梨央奈先輩の別荘」


え、切られた。怖。


ベッドでくつろいでいると、キッチンから梨央奈先輩に呼ばれた。


「蓮くーん!目玉焼きできたよ!」

「はーい!」


梨央奈先輩の元へ行くと、梨央奈先輩はちゃんと服を着ていて、目玉焼きとベーコンとウインナーが用意されていた。


「今デザート作るから待ってね」 

「はーい」


デザートに小さめのパンケーキを焼いてくれて、二人で朝食を済ませた。


「ごちそうさま!美味しかったです!」

「よかった!そろそろ迎えがくるけど、なんか寂しいね」

「また来ましょうよ!次は雫先輩も一緒に!」

「蓮くんは優しいね」


とても優しい表情でそう言う梨央奈先輩は立ち上がり、別荘の大きな窓から綺麗な海を眺め始めた。

きっと、雫先輩のことを考えているんだろうな。


しばらくしてヘリコプターが迎えに来て、空港で降ろしてもらい、帰りは梨央奈先輩がお金を出してくれて、タクシーで帰宅した。


「ありがとうございました!楽しかったです!」

「私も楽しかったよ!また連絡するね!」

「はい!」


梨央奈先輩が乗るタクシーを見送り、家に入ろうとした時......


「蓮くん」

「し、雫先輩⁉︎」

「これ、緊急連絡用の携帯よ。生徒から連絡があったら、私に報告してちょうだい」

「あ、あー、はい。でもそれなら、雫先輩が持っておけばよくないですか?」

「生徒会に休みはないのよ」

「な、なるほど......それより、夏休み中でも制服なんですね」

「他の生徒に私服なんて見せたくないもの。それじゃ帰るわね」


ふぅー、いきなりの雫先輩は心臓に悪いよ......


「さっきのって梨央奈さん?」

「え⁉︎」


まだ帰ってなかったんかい。


「そうですよ?」

「上手く付き合ってるみたいね。さっき瑠奈さんとバッタリ会って、かなり機嫌悪そうだったけど大丈夫かしら」 

「いやー......僕が梨央奈先輩と付き合ってるの知ってるくせに、なんか束縛みたいなのが激しくて」

「上手くやりなさいね。女の子は怖いから」


言われなくても知ってますとも。


「本当に帰るわね」

「はい」


その頃瑠奈は、夏休み前日の教室で、雫に言われた言葉を思い出し、蓮に怒りをぶつけないように、散歩して気分転換をしていた。


そして時は流れ8月8日、夏祭り当日。


「よし、これでいいかな......」


瑠奈は今日のためにお小遣いを前借りし、ネイビーブルーがベースの色で水色とピンクの朝顔が模様になっている可愛らしい浴衣を買い、自分で着付けをしていた。


「お母さーん!髪やって!」

「はいはい。なに?そんな張り切っちゃって、デート?」

「べ、別に?」

「蓮くんでしょ」

「なんで分かるの⁉︎」

「昔から大好きだもんねー?付き合ってるの?」

「付き合ってない......」

「夏祭りは最高のチャンスよ。頑張りなさいね」

「うん!」


瑠奈は母親に髪を可愛くまとめてもらい、ワクワクしながら蓮に電話をした。


「もしもし!」

「なに?」

「今日の夏祭り、何時にどこで待ち合わせにする?」

「とりあえず雫先輩達と合流しないと、予定決めれないからさ」

「う、うん!分かった!」


なんだ?やけに素直だな。


「一応12時に着くように祭に行くから、それから連絡でいい?」

「分かった!」

「んじゃ切るね」

「ほーい!」


待ち合わせ時間が近づき、雫先輩から事前に言われた通り、制服を来て祭りに向かった。


この祭りは街の一角を通行止めにして行う、結構大きな祭りで、待ち合わせは祭りをしているすぐ側のデパートになっている。


「お待たせしました」


僕がデパートの入り口に着いた時には、すでに全員揃っていた。


「夏休み前に言ったように、交代で見回りをしてもらうわ。まず14時まで蓮くんと千華さんペアでお願い」


雫先輩がそう言うと、千華先輩は思わず笑みが溢れ、梨央奈先輩は焦った様子で雫先輩の手を握った。


「れ、蓮くんとは私が行くよ!」

「14時から16時までは蓮くんと梨央奈さんペアよ」

「僕連続ですか⁉︎」

「見回りと言っても、それなりにお祭りを楽しみながらで大丈夫よ。16時から18時までは私と睦美さん。18時から20時までは乃愛さんと結愛さん。最後の1時間は全員で見回りよ」


思ったよりハードスケジュールで、今から少し嫌になってきた。


「それじゃ蓮くんと千華さん、行ってきて。他のみんなは自由行動よ」


そして僕は、梨央奈先輩と目を合わせないように千華先輩と人混みの中に入っていった。


それを見送った雫は、乃愛と結愛を見つめて小さな声で言った。


「フードを外しちゃダメよ?」

「は〜い」

「分かってる分かってる」


その頃瑠奈は、いつ蓮から連絡が来てもいいように、一人で祭りの屋台を眺めながら歩いていた。

(早く連絡こないかなー。浴衣......可愛いって言ってくれるかな......)


そして雫は交代時間関係なく、一人で見回りを始め、結愛と乃愛も二人で見回りを始めた。


「睦美さん」

「なに?」

「一緒に祭り楽しむ?」

「梨央奈さんと⁉︎」

「え、嫌?」

「だって、いつもニコニコしてるのに、今の梨央奈さん、なんか顔が引きつってて怖い......」

「大丈夫大丈夫。ちょっと蓮くんを尾行っ、睦美さんと楽しみたいだけだから」

「半分以上も本音言ってたよ......」

「あはははは」

「あ、あはは......」

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