第38話
(あーあ……、タイムマシーンってどっかに落ちてたりしないかなぁ……)
最近こんな現実逃避をしてばかりだ。
「ならお前の残りの人生、俺にくれよ」
「! ひ、ヒデ……。なんでここに……?」
「どっかの馬鹿が全然飯食いに来ないから様子見に来たんだよ」
突然かけられた声に驚き顔を上げれば、いつの間にかグランドと自分の間に
「何やってんだ」と苦笑いを向けてくる親友に、予想外の出来事に困惑する悠栖。
すると英彰はそんな悠栖の隣に座ると、「とりあえず腹に入れとけ」と菓子パンが二つ入った袋を差し出してきた。
状況ができないまま悠栖は英彰から袋を受け取り、促されるまま昼ごはんとして一つ手に取ってみる。
(あ……これ、俺の好きなやつだ……。それにこっちも……)
適当に選んできたから文句は言うなよ。なんて英彰は言うが、ちゃっかりどちらも悠栖が美味しいと絶賛してよくリピートしていたパンだった。
自分には勿体ないぐらい大事にされていると改めて感じて、そして何故かこの瞬間、英彰の『想い』がストンと胸に落ちてきた。
今までだって『好きになったら仕方ない』とか、『気持ちは嬉しい』とか、受け入れているような言葉を英彰に何度も言っていた。
でも本当はずっと『同性を好きになるなんて』と理解できていなかった。英彰は『男が好き』というわけじゃなかったから。
でも今、本当に今この瞬間、英彰の『想い』を受け止めることができた。
『理屈じゃないんだ』と、ただ『相手を大事に想い』、ただ『相手の幸せを願っている』だけなんだと、そう理解できた……。
「ありがとう、ヒデ……」
「礼なんていいからさっさと食え。午後練でぶっ倒れるぞ」
これ以上迷惑掛けたくないんだろ?
そう言って手に持っていたスポーツドリンクで喉を潤す英彰。悠栖は力なく笑うと黙ってパンに噛り付いた。
(こんな良い奴なのに、なんで俺、ヒデの事好きだって言ってやれないんだろう……)
こんなに良い奴なのに、最高の親友だと思っているのに、それ以上の感情をどうしても抱けない。
自分の心なのに思うようにいかなくて、それが心底悔しいと思ったことは今までなかった。
英彰に想いを告げられてから一年以上経っているのに、本当にこれが初めて。
悠栖は、『男は女を好きになるもの』なんて固定概念が無くなればいいのにと奥歯を噛みしめた。
そうすれば自分は英彰を好きになることができただろうし、
(くそっ……、なんか今すっげぇ情けねぇ……)
自分の女々しさが涙を誘う。『もしも』の話なんて意味がないと分かっているのに、どうしても望んでしまう自分が浅はかだと思った。
「……らしくねぇーな」
「な、にがだよ……」
「お前と唯哉だよ。精々二、三日が限界だと思ってたのに随分長引いてるじゃん?」
喧嘩したところで二日後には我慢できずに元通りだと思っていたのに随分意地を張ってるんだな。
そう言った英彰は、「いい加減許してやれよ」と苦笑いを向けてくる。どうやら悠栖が唯哉に怒っていると勘違いしてるようだ。
(まぁそうだよな……。チカが怒るとか、想像できねぇよな……)
自分の失態がいかに酷いものだったか思い知る。
悠栖は自分を信じてくれている英彰に真実を話すかどうか迷う。
ありのままを告げることで今度は英彰にまで失望されてしまいそうだと考えてしまったから、真相を告げる言葉が喉の奥に引っかかってしまう。
(チカに嫌われてその上ヒデにまで見限られるとか、そんなの絶対嫌だ……)
どんなに自分を正当化しようとも、綺麗な言葉を並べて説明しようとも、結局は『自分が可愛い』だけ。親友に嫌われたくないと言う『保身』だけ。
きっとこのまま黙っていれば英彰は自分の味方でいてくれるはず。
でも、本当にそれでいいのだろうか……?
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