校則違反 そのニ

「なあ鮎川、うめえ棒に当たりがあるって知ってるか?」


 ジョーが唐突に問いかけた。


「知ってるよ。なかなか出ないらしいね」


「 一回当たり出してみたいんだよな。

 というわけで、買ってきたぜ、うめえ棒五十本!」


「あほか。散財するぞ」


 ヤモリの水槽をいじっていたぶちょーが顔を上げて言った。


「何言ってんすか。うめえ棒 一本あたり10円なんですから、五十本買ってもワンコインっすよ」


「それはそうと 、『激辛辛子明太子味』『魅惑の納豆ほうれん草味』『 イカ風味タコス味』って。なんでこんなにギャンブル性の高い味ばっかりなの」


「これが当たり率が高い味のトップスリーらしいんだよ」


「仮に当たっても欲しくないね」


「それに、普通のやつばっかりだったら飽きるだろうが」


「そのセリフ、普通の味を買ってきてから言ってほしい」


「では、ぶちょー、 激辛明太子から行ってみましょうか」


「なんで俺なんだよ。ジョーから行けよ」


「まあまあ、固いことは言わずに」


 ジョーはそう言って激辛うめえ棒を開ける。

 その瞬間、鼻をつく香辛料の匂いが生物室に充満した。


「うわ、きっつ。匂い残ったら先生にバレるよ」


「換気扇回してるから大丈夫だ。

 さあさあ先輩、景気よく一口で」


「おい、待て。それやばいって。匂いだけで鼻が痛いんですけど、ちょ、やめ」


「はいドーン!」


 ジョーは情け容赦なくうめえ棒をぶちょーの口に突っ込んだ。

 ぶちょー可哀相だよ。涙目だし悶絶してるよ。

 吹き出しそうになっているぶちょーと、その口をしっかり塞ぐジョーを見て、私は恐怖を覚えた。


「あーこれ、当たりじゃなかったっすね。 もう一本いっときます?」


「ふざけるな……この悪魔……」


 その言葉を最後にぶちょーは力尽きた。

 なんでこの味が店に並んでいるんだろう。商品開発係、ちゃんと仕事しろよ。


「 じゃあ次は鮎川、 納豆ほうれん草味行ってみるか」


「冗談じゃない!絶対やだ!」


「俺のおごりなんだぞ。食えねえとは言わせねえぞ」


「タチの悪い上司みたいなこと言わないでよ」


 その時生物室のドアがガラッと開いた。永田と寺峰が入ってくる。

 なんというバッドタイミングで来るんだ。このままじゃ被害者が増える一方じゃないか。


「うわー何この匂い。すっごい辛い匂いがする」


 ジョーが悪魔の笑みを浮かべる。


「丁度良かった。お前らもこれ食べてみろよ」


「わあ!うめえ棒の納豆ほうれん草味だ!これ、おいしいんだよね」


「は?」


 ぽかんと間抜けな顔をしているジョーの前を通り過ぎ、寺峰が嬉々としてうめえ棒の袋を開ける。永田もその横でイカ風味タコス味の袋を開けた。 激辛明太子以上にヤバイ臭いがする。それらを二人は一気に半分ほどかぶりついた。


「お前ら正気?」


「ふつーに美味しいけど?」


「ん、こっちもイケる……」


 もしゃもしゃと笑顔で食べ続ける寺峰と、二口目をかじった永田。

 ジョーは二人を見比べて、イカ風味タコス味を手に取った。


「ジョー、まさか」


 ジョーはゴクリと唾を飲んで袋を開けた。

 おいおいマジか。このド天然とポーカーフェイスの感想を真に受けちゃだめだって。

 ジョーは恐る恐るうめえ棒を食べた。顔色がみるみる青く……いや、もはや白くなっていく。


「うっ……生臭え……タコスと混ぜるもんじゃねえ……」


 そう言い残して、ぶちょー同様、ジョーも息絶えた。

 あーあ言わんこっちゃない。

 私はふと寺峰達の方をみる。

 二人は味の違う二本目を食べていた。


「辛いのもいいね!」


「納豆ほうれん草味、クセになる……あ、当った。ラッキー……」


 ……あの二人に勧められた食べ物は絶対食べないようにしよう。

 私は心に固く誓ったのだった。





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