97.壊したのはそのくらいよ
豪華な調度品は片づけられた部屋を、ぐるりと見回す。割った花瓶があった台に置かれたのは、陶器の鉢だった。壁にあった絵画は、人物画から風景画に変わる。陶器の鉢に植えられた花は、薬草として有名な白い小花だ。
ベッドの上の飾りが1つ欠けているのも、すべてクナウティアが破壊した名残りだった。それらの足りない部分を補ってなお、この部屋は十分すぎるほど贅沢な部類だ。少なくともリッピア男爵家の調度品より立派なのだから。
セージと共に滞在した王城は豪華すぎて落ち着かなかった。クナウティアにとって豪華な花瓶より、野の花が植えられた平凡な鉢の方が嬉しい。切ってしまえば花の寿命は短くなるのだから。
「素敵ね。ティアは聖女だから大切にされてるのよ! 安心したわ」
魔族の住む城であっても、親友が不自由なく過ごせていたのは嬉しい。真っ直ぐにそう言い切ったセントーレアは、部屋のソファに腰掛けた。手招きされた両親もソファに落ち着く。
「高そうなお部屋ね。あちこち触れないわ」
セントーレアの母が苦笑いする。弁償することを考えてしまうのは、普段接しない調度品の見事さに気後れしたのだろう。そんな彼女へ、クナウティアは無邪気に言い放った。
「そうよね! おばさまの言うとおりだわ。私も触ると壊れちゃって、叱られたのよ」
すでに壊していた――壁際の見事な燭台に触れようとした兄ニームが、びくりと指先を揺らす。引っ掛けて落とさないよう、数歩離れてから妹に視線を向ける。
「何を壊したんだ?」
「えっと……花瓶とベッド、絵も……あとは」
指折り数えるクナウティアの悪行に、ニームがストップをかけようとする。これ以上聞いたら心臓が苦しくなりそうだった。魔王城に来てまだ1ヶ月経っていないのに、何をしたんだ。
青ざめるニームの制止より早く、お茶を用意する侍女バーベナが罪状を追加した。
「絨毯を燃やして、壁を突き破り、魔王陛下を吹き飛ばしました」
「あ、ありがとう! バーベナ。そうなのよ、そのくらいかな」
そのくらい……と評されたが、とんでもない被害だった。最後の魔王を吹き飛ばしたのは、よく殺されなかったね。ニームの顔が引きつった。
「おお、これは立派な部屋をもらったな」
「素敵じゃない。私も一緒に住もうかしら」
ルドベキアとリナリアが長男セージと共に入室する。開いたままだったドアを振り返ると、魔王シオンも同行していた。
「1階は空き部屋がある。好きに使うがいい」
あっさり居住許可をもらえたことに、クナウティアは喜んだ。立ち上がり、近づいたシオンの手を握る。胸元に抱きしめるようにして、下から見上げた。その所作に迷いはなく、恥じらいもなかった。
「ありがとうございます! 魔王様っていい人ね」
……魔王がいい人って。そう思ったのはほぼ全員だった。だが賢明にも誰も口を開かず、バーベナが用意するお茶菓子を睨みつける。
「みんな、お腹空いてたの?」
家族と親友一家の視線の先を追ったクナウティアは、きょとんとした顔で首をかしげる。彼女以外の人間は「違うけど」と曖昧に微笑んで誤魔化した。
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