よわ兄はメスガキちゃんをわからせたい!

くま猫

第1話『ムサミューがわからない』

「ところでさっき言ってた、"ムサミュー"ってのはなんだ?」


「うわっw よわ兄、大学生なのにムサミュー知らないんだぁ~♡ ちょっと、だらしなさすぎじゃない?」


「知らん。まったく全然、カケラも知らんっ!」


「うそぉ~w ちょーうけるっw よわ兄、ださぁーい♡ ……なんてね」



(……年下のくせにハーバード主席のお前と比べられたら、誰だってそう。それにしても、今日の彼女はいつもより少し元気がなさそうだな……)



「よわ兄、大学生なのにハーバー丼の味も知らないんのぉw よわよわぁ~♡」


「ぐぬぬ…………」


(ところで、ハーバー丼ってなんだよ?……ハーバード大丈夫か?)


「ぷーくすくすw そんな、だらしなぁーいわたしのよわ兄に、ハーバー丼の味をわからせてあげる♡」


「つっても、ハーバードってアメリカじゃん。わざわざ飛行機に載ってまで丼ぶりを食べに行くのもなぁ……」


「よわぁーい♡ そんなざこざこな、よわ兄のために、来週の金曜日にハーバードの学食のおばちゃんをわたしが日本に招待してあげる♡」


「そんなことより、ムサミュー行こっ♡」


「だから…………そのムサミューってのがわからないんだよ。なんだそれ?」


「よわ兄の知らないのっw ムサシビ武蔵野美術大学生なのに知らないとかちょーうけるっ♡ ムサミューは角川武蔵野ミュージアムのことだよ。ばーか♡」



 まぁ、たしかに俺はムサシビの学生だ。だが俺の学部は市ヶ谷キャンパス。


 つまり、新宿だ。埼玉にある武蔵野キャンパスには入学式以来行ってないからなぁ。


 ……あいつも、本当は一人で行くのは不安なのかもしれないな。


「だらしなーいw ざこでよわよわな兄ちゃんをわたしが、わからせてあげる♡」

「なんだよその指パッチン? 頭上からけたたましい音が聞こえてくるのだが…………」


 だんだん大きくなるリズミカルなバタバタバタっていう音……工事の騒音かと思ったけど、違う。


 もちろん違う。ヘリコプターだ。彼女が指を鳴らすと、クソでかいヘリが降りてくる。今はGガンダムの世界なのか?


 マジで、あいつの家はどれだけ金持ちなんだ? あのパイロットは常時待機なんだろうな。


 その馬鹿げたスケール、さりげない見せつけにイラっとしたい自分もいるけど、でも、あいつのあの輝く目、あの挑戦的な喜びを見ると……な。


 世界に中指立ててるみたいで、あらゆる瞬間を馬鹿でかくしてる。そして、ああ、うん、毎回驚かされるのは確かだ。


 なんであんな小さいやつが、こんなに……過剰なんだ? 多分それが、俺が……。



「それじゃあ、よわ兄は、わたしのヘリにのって♡」


「おう」


「あっ…………」


 やれやれ。スロープでコケそうになるとは。こういうところはまだ子供だな。


 ……いや、少しふらついたか? ……また、無理してるんじゃないといいが。


「…………っと、危ないぞ。あんまりはしゃぐな」


「あっ…………ありがとう、お兄ちゃん」



 なに顔赤らめてんだよ。こっちまで照れるじゃないか。……素直なところは、昔から変わらないな。



「って!/// いつまで手を握ってるのよぉー! ざーこ♡」


「はいはい。すまんすまん」


「罰として、所沢につくまで握った手、離してあげないんだからっ!」


「まったく。仕方のない奴だな」


 ……気のせいか顔が赤いし、手も汗ばんでいるな。本当に大丈夫か? 


 でも、こうして繋いでいると、少し安心しているようにも見える。


「ほら、窓の外の景色をみろよ。綺麗だぞ」


「ぷーくすくすw 空からの景色が珍しいなんて、お兄ちゃん、よわよわだね♡」


「みないのか? もったいないぞ」


「なによぉ~…………よわ兄がそこまで言うなら、見るにきまってるじゃない♡」


 なんだよ、くそっ……かわいすぎかよ……。

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