第二十六夜 記憶

 雄二が震えているのを見て、俺は雄二の視線の先に自分の眼の焦点を合わせた。


 オレの脳は一瞬で事態を理解し、そして心臓が早鐘を打ち始めたのを感じた。


 土手の上にいる男は、俺と、雄二と、双葉を見ていた。そして雄二と俺が視線を向けたのに気がつくと、背を向けて立ち去っていった。


「おい、どうした!晴矢!雄二も!」

 双葉が心配半分、不思議半分で俺と雄二に声を掛けた。


「あ、あいつが、」

 震え続ける雄二。


「あいつって誰だよ。どうしたんだ、そんなに震えて」


「双葉、おちおち落ち着いて聞いてくれ」


「落ち着くのは雄二の方だろうが?」

 俺が雄二に助け舟を出す。


「双葉、よく聞いてくれ。《林間学校》の時のあの男がいたんだ」

 双葉の顔は一瞬にして蒼白になった。


 言葉を失ったまま、三人はその場で立ちすくむしか出来なかった。


 俺たちの様子を見かねた筧さんが、


「おい、お前ら、そろそろ着替えろ!みんなクラブハウスに行っちまったぞ!」漸く俺たちは着替えに向かった。

 小声で双葉が俺に訊いた。


(おい、本当にあの男なのか?)


(ああ、見間違いようもない。)

 俺はやはり小声で返した。


(こんな事ってあるのか?)

 絶望したような顔で雄二も小声で呟く。


 俺は、あの時の林間学校の事をつぶさに思い出していた。


 あの時、あの事件が起きなければ俺たちは、もっと普通の中学生生活を送れたのかもしれない。


 俺はそっと目を閉じた。


 蘇る忌々しい記憶。


 もし、時間を巻き戻すことができるのならば、巻き戻してなんとしてでもあの時の俺たちを止めただろう。


 でも、そんな事は出来ない。

 

 後ろを振り向くことはしてはいけないが、この事実は俺や仲間たちに一生まとわりつくんだろうな。



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