第二十四夜 期末考査

 週が明けて、富士坂南中学は、二学期期末考査期間になった。


 自宅待機中に麻里奈と双葉が太刀川先生と三年の生活指導の小柳先生に外出が見つかったらしく、麻里奈は厳重注意、一方双葉は軽い注意を受けた。


 「その差はなんなんだ?」

 と、晴矢は二人に聞いたが、はっきりとした理由を聞くことはできなかった。


 麻里奈は、小柳先生にずいぶん逆らったとは言っていたが、双葉が軽く済んだのは、親父さんの事は多分無関係じゃないだろうとクラスのみんなは噂をしていた。


 しかしながら、晴矢はあの太刀川先生がそんなあからさまな事するわけないよな、とも思っていた。


 とにかく当事者がはっきりとした事を何も言わない限り晴矢たちに真相は分からない。


 クラスの奴らがある事ない事囃し立てて変な噂をしているのが二人の耳に入らないと良いな、と思ってもいた。


 そんな一大事もあったが、生徒たちにとって、とにかく今は試験が大切だ。


 晴矢は香織ほどじゃないけど成績はそこそこのレベルだ。サッカーでは残念ながら今は逆立ちしても勝てない双葉には成績では常に上回っている。


 雄二は、

「俺、もう家継ぐから勉強しなくてもいいんだ」

 とか吹聴して回っているが、商売やる上で必要な学問がある事を香織が真剣で説教してたこともあった。


 雄二も少しシュンとしてたけど、洸哉おとうとが、


「テスト前、雄二くんしょっちゅうネトゲで見かけたけどね」

 と言っていた。案の定だが、香織の折角のお節介も水の泡だ。


 そして試験にもかかわらず、晴矢はヒナの弟の件が引っかかっていた。

 聞くべきか、聞かざるべきか。アイツなんであんな嘘をついたんだろう、と、モヤモヤした気持ちを引きずっていた。


 でも、まずはこの悩みは期末考査が終わるまで棚上げにする事にしたのだった。


 期末考査の嫌なところは、主要五教科だけじゃなく、保健体育、音楽、美術、技術家庭にも筆記テストがある。


 三日間はとにかく寝られない。


 明日火曜日は、数学、技術、理科。

 晴矢にはちょっと手強い教科だ。


 平行と合同の証明、それから二等辺三角形が試験範囲だから、サブノートを何度もやり直して対策した。


技術は担当の市川先生が、


「ここはテストに出すからな」と言った箇所は絶対に出るのでおおよそ大丈夫だ。


 理科は…これからだ。結構焦ってくる。


 試験中は流石にみんなと集まることもない。既にみんな帰宅して勉強に励んでいる…筈だ…。


 否、みんなではないだろう。


 最初から赤点回避しか考えてない雄二はネドゲ、奈央は勉強やっているうちにお絵かきに変わってるらしい。

 奈央は創作が大好きだからだろう。


 そう考えれば香織だけか。まともなのは。


 そういえば、柊は勉強の方はどうなのだろうか。

 昨日、一昨日と、柊のサッカーのセンスについては十分すぎるほど見せつけられた。


 足元のテクニックの巧さはもちろんだが、ボールを持った時の次のプレーへの判断の速さと、オフザボール(ボールを持たない時)のポジショニングや、デスマルケマーク外しのテクニックは出色だった。


 パスの創造性は見惚れるほどだし、ドリブルも脚にボールが付いてるんじゃないかと錯覚しそうに上手かった。


 柊が、その上成績も良かったら、スーパーマンみたいだ。下らない嫉妬をしそうで嫌だな、とも思った。


 それから、ヒナは…どうなんだろう。


 クラスが違うから情報が少ないし、あのLINEのやり取り以来、ちゃんと話ができなかった。


 それより麻里奈と一緒に双葉が補導されたって耳に入ってると思うけど、どんな気分なんだろうか。


 ヒナへの疑問については、さっき棚上げしたつもりなのに、試験中に限って煩悩やら雑念が次から次へと自分の頭の中にやってくるこの状況に誰か名前をつけてほしいとすら思えた。


 俺は誰にでもなく文句を言うと、母さんが作ってくれた夜食のお握りを食べて、勉強やるぞ!と気合を入れたものの、radikoでSchool of Rockを聴きながら寝てしまったんだ。


 起きたのは朝の六時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る