第54話

――先手、必殺ッ!

俺は全速力で駆ける。


「うおおおおおおおらああああああああ」


一瞬で距離を詰めて、その首を狙って両手で構えた木剣を水平に振るう。

対してジュンヤは構えた体勢からこちらの軌道に合わせて自らの剣先をずらす。

ガゴッと剣同士がぶつかり合う鈍い音が響く。

お互いに歯を食いしばって押し合いになるが、


「ふっ」


しばらくしてジュンヤはこちらの力の流れに逆らわずにバックステップでその場から身を退いた。

こちらの剣勢も相まってか剣10本分程もの距離が開く。


「力だけであんだけかませるなんて、やるじゃねえかおっさん」

ジュンヤは揚々と喋る。先手を打ったこちらの一撃では動じる事は無かったようだ。


「確かケンジだったか? にしても、初撃で魔法を使ってこないなんて大した心がけじゃねえか。もっと本気で来てもいいんだぜ?」


ニヤリとジュンヤの口元が歪む。

全力で打ち込んだつもりだったが、全く効いた様子も臆した気配もしない。

だが、今はそんなことでこちらがビビッてはいられねえ!

奴を……仕留める!


「はああああああああああああああああ」

またも一息に距離を詰めて斬りつける。


「よっ」

右からの袈裟切り。しかし、容易に剣でいなされる。


「こっからああああああああ」


素早く切り返して横薙ぎに剣を振る。

だがそちらも容易に受け止められる。

そこからは剣戟の応酬だ。

俺は相手を戦闘不能に追いやるべく素早く幾度も斬りかかる。

しかしそれら全てをジュンヤは受け止め、いなし、躱す。

ガゴッバゴッと音が無数に鳴る。

もの凄い速さでの打ち合いだが、それを重視する事によって俺の一撃一撃は軽い。

こちらの攻撃をジュンヤは悉く収めていく。

一切の反撃の無いままに打ち合いは続いた。

やがて再びのつばぜり合いになった。


「中々やるじゃねえかケンジッ。」

「……一撃も入れられてねえから余裕ってか? 後な、目上の人には敬称を付けるようにって、習わなかったか?」

「ははっ、お説教なんて勝ってから言うもんだぜおっさん!」


未だ、ジュンヤからは余裕が崩れない。


「もっと楽しませてくれっ」


弾んだ調子でジュンヤは喋るが、言葉とは裏腹につばぜり合いから後退して距離を取った。

俺も息を整える。


「もっと魔法も駆使していいぜ」

ジュンヤからは疲労の色は見えない。こちらも、体力としては申し分ない。


「……んなもんはな、知らねえんだよ。期待に沿えなくて悪いな」

「そうなのか!? 惜しい事をしてんな。がっかりだわ」


ジュンヤはその場で何度か軽く跳躍してから木剣を構え直す。

「っし、こっからは本気の半分ぐらいでいってやるよ。ビルドッ!」


途端、ジュンヤの雰囲気が変わる。先ほどまでより遥かに攻撃的な気配だ。

次いで急速に距離を詰めて斬りつけてくる。速いっ!

すんでのところで反応してこちらの木剣で受け止めるが、凄く重い一撃だった。

そこから再び互いの木剣が何度もぶつかり合う。しかし、今回は攻勢に出たジュンヤが一方的にこちらを斬りつける。俺はギリギリで避け、受け流していくが、徐々に四肢にかすり傷が増えていく。

これは、マズい。反撃の余地が無いのはおろか、捌ききる事すらも困難だ。


「はあっ」

やや屈んだ姿勢から踏み込み放たれる水平斬りを、俺は咄嗟に横っ飛びで回避し距離を離す。

だが完全には避けきれずに切っ先はズボンを裂き、太ももの肉を抉った。

そして、破けた箇所であるズボンのポケットに入れられていたメガネケースとPASUNOカードが宙へと舞う。


「っ!?」

ジュンヤは手を伸ばしてPASUNOカードを掴んで、


「バーン・デビル・ハンド!」

一息にそう呟いた。

すると突然、手が炎に包まれた。

だが、その炎は拡散することは無く一時燃え上がったのみですぐに消え去ってしまった。


「わりいおっさん。今の、燃やしちまって大丈夫だったか? まあもうやっちまったもんはどうしようもないんだが」


ジュンヤは手を払いながら喋ってくる。

対して俺は、軽い痛みに歯を食いしばりながらジュンヤを睨みつけた。

……だから、現代っ子は痛みに慣れてないんだって! いくら脳内麻薬ドバドバでもこんなガッツリ抉られたら無視できないって! あー辛い泣きわめいて地面に転がりたい!

つかあれも魔法か!? 自分の手を炎で包むとかすげーじゃねえか!

……などと感心している場合ではない。今燃やされたのはPASUNOカードだったからよかったものの、今のを相手取らないといけないなんて寒心に堪えないぞ。


「……ああ。別に価値があるものでもない。ただ、そっちのメガネケースは貰い物でな。無くなると困るんだ」

「へえ。もし燃やしちまったら?」

「本気でお前を殺す」

「なるほどね。じゃあやってみろよ。バーン・デビル・ハンド!」


再び炎が灯る。今度は両手に。そしてその炎はジュンヤの持つ木剣に伝わっていき炎を纏った。


「ほら来いよおっさん。早くしないと燃やしちまうぜ?」


俺は一目散に飛び出し、ジュンヤに向かって突進していく。

誘い出された形だが、つとめて冷静に思考する。

斬り合いになると確実に分が悪い。おそらくは経験の差、ポテンシャルの差の両方共だ。どうあがいても一撃も与えられそうにない。

あらゆる面において、俺はジュンヤに劣っているのだろう。こちらの攻撃は難なく躱され、スピードもあちらの方がうわて。

だが、ジュンヤは未だに余裕を崩さずにこちらの様子を窺って戦っているのだ。

……なら、その油断に付け入って一発お見舞いしてやんよ!

今のジュンヤは両手と木剣に炎を纏わせているが、そんぐらいでおめおめと退けるかっ! やってやらあ!

上段からの隙だらけで大げさな垂直斬りを放つ。

ジュンヤは頭上に木剣を横向きに構えて受け止める様子だ。予想通り。

瞬時に木剣から手を放し空ぶった勢いのまま身を屈ませてふところに飛び込んだ。

ジュンヤは空いているもう一方の手を俺に向けてくるが、


「はっ!」

「んなっ!?」


俺は素早くジュンヤの両腕を払いのける。上方からの衝撃に備えていた腕を押し上げられ、ジュンヤは大きくのけぞった。


「くらえおらああああああああ」

その胸に渾身のストレートパンチを決めた。


「がっ!?」

勢いに押されてジュンヤの身体が吹き飛んだ。

しかしジュンヤは倒れることは無く、片手には剣を掴んだまま、もう一方の手で胸を押さえて地面にしゃがんで静止した。


「ごほっごほっ……ってえ。こいつは驚きだわ。やるなケンジ。強化してなかったら負けてたかもしんねえぜ」

纏っていた炎は消えてやや辛そうにしていたものの、それは少しの間だけだった。


「とか言って、全然余裕そうじゃねえかよガキ。足りなかったか。どうだ? 負けを認める気にはなったのか?」


ジュンヤはニヤリと笑んだ。


「んな訳ねえだろ。だがとりあえず決めたぜ。あんた、俺が勝ったら俺たちと一緒に来い」

……はあ? 何言い出しやがったこいつ?


「ええええええええ!? ジュンヤ正気?」

呆れる俺の代わりに、立ち合いを務めていたハルが驚きの声を上げた。


「ああマジだ。お前も見てたろ? 不足はねえよ」

「そりゃ見てたわよ。でもあんたが他人を誘うなんて思わなかったわ。まして、こんなおっさんよ」

ハルが俺を指さす。


「別にいいだろおっさんだって。それに俺やハルの方がつええだろうし」

「なら尚の事よ! 不要よ不要! 王都の増援だって拒否してたじゃないの!」

「あれはお前だって嫌がってただろ!? それに今までアヤノ以外の機会が無かっただけなんだって。あと、このおっさんには見込みがある。魔法を使わないでこれだ。魔王城にたどり着く頃には数段レベルアップしてるさ。ま、俺が負ける訳ねえだろうけどな!」

「ぐぬぬ。まあ確かに! いいセンいってると思うわよ!」

ハルは不満顔でぷんすか怒りを露わにしていた。


「お待ちくだされジュンヤ様、ハル様。我々としては、まずはメア様の――」

「「お前は黙ってろ!」」

アキラの言葉はふたりに一蹴された。


「……黙って聞いてりゃほいほい話を進めやがって。そんな簡単に負けてやるつもりはねえよ。むしろ、俺が勝って終了だ」


見栄を張るものの、正直こちらの勝ち目が見えない。

さっきは本気の半分くらいと言っていた。つまり相手はまだまだ全力ではない。

対してこちらはその半分の実力に振り回されている。今のような奇策を練って絡め取っていかなければ到底及ばないし、当然そんなアイディアがいくつも思いつくはずがない。木剣も抛ってしまって手元にない。くそっ、あの強力だった斧とか使わせてくんねえかな今ここに無いけど。

あと地味に足が痛い! ちょっと気にかかる! なあまた一瞬にして治ってくれたりしないの? 今回はあの時ほど重傷じゃないよ?


「ああ、悪かったなケンジ。そんじゃ、そろそろ終わりにすっか」

何も勝機は見いだせていない。万事休すだが俺は腰を落として構える。まだ負けたわけじゃねえんだ退きはしねえ!


ジュンヤが木剣を手放しゆっくり立ち上がり、

「フルスロットル・フォース」


そう唱えた次の瞬間、ジュンヤの姿はそこには無かった。

消えた!? そう錯覚するほどに一瞬の移動で俺の目前にまで迫っていた。

くっ、動きが、追いつかないっ。


「ほらなおっさん。俺の勝ちだ」

その言葉を最後に強烈な衝撃を受け、俺の意識は闇に落ちていったのだった。

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