第42話

「さあ、僕の可愛いしもべよ、次はあいつをお食べ」


アルが声高々に宣言する。


「ガアアアウゥゥゥゥゥゥゥグァッ」


雄たけびを上げてリミットレス・ウルフが迫る。

俺に真っすぐに跳ねる。


「……ざけんじゃねえ」


俺は、ゆっくりと両指を組み合わせて大きく上にあげる。

振りかぶる。

息を吸う。

獣が迫ってくる。

ひとっ跳びで距離が一瞬にして縮まる。

その歯牙が目前まで迫って――


「ぅらああああああああああああああああ」


合わせたこぶしを全力で振り下ろし頭蓋を思いっきりぶん殴った。

鈍い音と共にリミットレス・ウルフは地面に叩きつけられた。

衝撃で小さなクレーターが出来るほどに強烈に。

リミットレス・ウルフはその一撃で沈黙した。

起き上がってくる様子は無い。


「ふんっ」


俺は更に地に伏したリミットレス・ウルフの頭部を足で踏みぬいた。

ガシャッびちゃっ。

頭蓋骨がぶち抜かれ血しぶきが散った。

もはや息があるとかのレベルを超え、完全にリミットレス・ウルフを仕留めた。


「うっ……うああああああああ何で!? 何でだよ!? 最後の1頭だったのに!」


一時の静寂をアルの叫びが破る。


「えっ、何で? どうして!? さっきまでそんなじゃなかったじゃないか。意味が分からない! 何なんだよ、何なんだよおっさん!!」

「……皆殺してやるだぁ? その前に……俺がお前を殺してやるよ!」


己の中の埋没していたドス黒い何かに身を任せるようにして、俺は宣言した。


「ない、ないないないそんなの、え? 嫌だ認めないあり得ない信じない」


アルは両手で顔を覆い、ぶつぶつと何かを唱えながらあからさまに動揺して頭を振るい千鳥足だったが、すぐにぴたっと動きを止めたかと思うと、腕をだらんと落とし、


「こんな知らないおっさんに負けるなんて……あり得ないよね? そうだよ、僕は出来る。ユミだって殺した! あひゃひゃひゃひゃひゃ……殺してやるよ。いいよ殺してやるよおおおおおおおおビルドオオオオオオオオ」


絶叫すると当時にその雰囲気が更に凶暴性を増した。

だが、一切のためらいも無く俺はアルに向かってゆっくりと歩きだす。


「アクア・アロー!」


アルの周辺に水が具現化し、それが更に濃縮し形を伴っていく。

一瞬にして6本の矢が出来上がった。


「シュート!」


腕を振りつつアルが叫ぶと同時に、それらは鋭くこちらに飛んできた。


「うらあ!」


俺は腕を振るってその飛んできた矢を払った。

ひと薙ぎで迫ってきた矢は全て弾かれ、形の無い水となったのちに霧消し消えた。


「はあああああああ……ウォーター・ストリームッ!!」


続けて、アルが両手を前に構えたかと思うと、膨大な水の流れが飛来してきた。


「……ハッ!」


俺は真正面から腕で顔を守りつつ受け止める。

視界一面が水で埋め尽くされる。

押し流されないようこらえる。耐え続ける。


「くっそっがああああああああ」


アルの叫びが轟く。

なおも流れてくる水は勢いを増して噴射され、こちらを押し流そうとしてくるが


「うそっ、そん、な……!?」


俺はそれに抗いじりじりと歩みを進める。

一歩、一歩、確実に進んでいく。


「来るなっ、来るなあああああああ」


声を張り上げて、それから歯噛みして、殺気立つアル。

だが俺はアルの前にまでたどり着いて、水流の起点となっているアルの手を弾いた。


「くらえっ!」


腕を払われ仰け反ったアルの顔めがけて、横殴りにこぶしを叩きこむ。


「ウォーター・フィルムッ! ぐがっ」


アルが直前で言葉を唱えた瞬間に水で出来た膜の層が展開しこちらの拳を阻もうとしたが、勢いを弱めるに留まり、飛び散った水しぶきの先にいたアルの頬を殴った。

威力はそがれたものの、アルは口から血を吐きながら少し吹き飛び地面に倒れ込む。

俺はすぐさまその上に跨り両手で首を絞めた。


「がっはっ……やめ、ろ……あ、あ……」


アルは必死に俺の手首を掴んだり胴を殴ったり足をばたつかせているが、せいぜい小突かれているような感じで気になるような妨害ではなかった。


「ほら、俺が殺してやるよ。……死ね。死ね死ね死ね死ね死ね!」


俺は絶叫して壊れた機械のように言葉を吐き散らす。

更に力を込めると、アルの力がより弱弱しくなっていった。


「く、くる、し……ぁすけ、ぇ……」


徐々にアルの顔から血の気が引いていく。

口元に血が付いた、蒼白になっていくアルの顔が、俺の記憶を呼び起こしていく。

いつか見た誰かのに重なる。

俺は舌なめずりをし、目を血走らせ、なおも首を絞め続けた。


「ぁ……ば、け……も、の………………」


目の輝きが失せてきたアルが、力無く掠れた声をしぼり出す。


「んはははははっ、死ねええええええええええ」


俺は口元を緩めて狂喜のままに力を入れ続けた。

それからしばらくして、アルの身体から力が抜けた。

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