第15話

「すぐそこだから5分とかからないさ。さ、行くぞケンジ」

「おそとだー!」

「わかった、すぐ行く」


俺は、メアと手を繋ぎヒデヲを追うように大門をくぐりヒデヲの横に並んで歩く。


「なあヒデヲ、メアも連れて行って平気なのか?」

「村の近くの草原は大丈夫だ。さっきも言ったが、凶暴で危険なモンスターは生息してない。ただし、あっちに見える森の中はわからねえから気をつけろ」


ヒデヲが指さしたのは大門から続いてる道とは反対で先ほど村から確認できた森だ。


大門を出て道沿いに歩くこと3分程。

「ここだ、ケンジが倒れていたのはあの辺の草陰だ」


道から外れた草むらを指さす。だだっ広い青々とした草原が広がっていた。

風が少し背の高い草を揺らしてさざめいていた。

広大な草原を前にしてメアもテンションが上がったのかヒデヲが指さした辺りに草むらダイブしている。


「周辺には特に何もないのだが……どうだ、何か思い出すことはあるか?」


ヒデヲに案内された場所は村からほど近い道から少し外れた草むら。

「おぉこんな草陰で倒れているのよく見つけてくれたなぁ」

「風が吹いたときになチラッと見えたんだ。ホント偶然だ。」

「んーすまん。やっぱり何も思い出せないな」


……当然何も心当たりなど無い。俺、ここに倒れてたのか。


「ごろごろー」


メアが草むらダイブの後、周辺をごろごろ転がっている。うん、天使。


「ごろごろーあれーなんか落ちてるよ。四角い薄いの。」

「おー!もしかしてケンジのか!」


メアがカードのようなものを拾って満面の笑みで俺のところに走ってきた。


「はい、ケンジのー」

「ありがとな・・・・・!ぱ、PASUNOだ!」

「やっぱり、ケンジのか。なんだそれ?」

「ああ、確かに俺が持ってたやつだ。・・・・でもそれ以上は思い出せん。」

「そうか、これでも思い出せないか・・・・・・。まぁ何か思い出すかもしれないし持っておけよ。」

「ああ、そうだなしまっとくよ」


所謂交通系ICカードってやつだ。

そういやあの日は珍しく手に握ってような気がする。

これも胸ポケットに入れておこう。

しかしこんなもんどうしろってんだ。もっとココでも使えそうなの落とせよ!


「ないかぁー」


心なしか、メアもしょげているようなトーンでそう呟いた。

その本能に若干の罪悪感を覚えるが、あの瞬間何が起きたかは自分でも理解できないのだ。しょうがない。


「いつかは思い出すだろうよ。今はそれでも大丈夫だろ。だっはっは」


ヒデヲはバシバシと俺の背中を叩いて豪快に笑った。

底抜けに明るいヒデヲに少し気が楽になる。いいやつだ。


「そろそろ戻ろうぜ。今日の仕事に間に合わなくなっちまう」

「そうだな。手間をかけてすまなかった」

「もどろー!」


目印も特になく青い空と緑の草原しかないが俺たちは来た道をたどっていく。

そういや、門は開けっ放しにしておくって言ってたけど……

大丈夫なのかそんなに警戒しなくて。


「おう、どうだったよ?」


大門をくぐったらジロウが気さくに声をかけてきた。


「思い出せねえみたいだ。良い案だと思ったんだがな」

「すまない、俺も何でここにいるのか知りたい気持ちはあるのだが…」

「すまーなーいー!」


メアは俺の足にまたしがみついて俺を見上げる。


「げんきだしてー!」


ズボンを握ってぴょんぴょん跳ねたり体重をかけたりしてくる。

可愛らしいなぁ、この生物。元気付けまでしてくれるなんて。

思わず頭を撫でてあげる。メアは目を細めて喜んだ。

にしても、俺って結構メアに懐かれてる気がするんだが、何故なんだろうか?


「じゃあ門を閉めるからな!」

「おうよ、ありがとうなジロウ」


ジロウは小屋の奥へとまた姿を消した。それから門が閉じられていく。

やがて完全に塞がった門を確認し、


「じゃあ次はこっちだ、ついてきな」

「ついてこいー」


ヒデヲが歩き出す。そのすぐ後をメアがかけていく。

俺もその後に続いていった。

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