在宅ワークを終えてソファに寝転びながらドラマを観る環と、傍らで採点のアルバイトを終えた主人公。
本作は、交際16年目を迎えるアラフォーの同性カップル(婦婦)が織りなす、ある夜の何気ないひとときを切り取ったショートストーリーです。
男性同士の恋愛がコメディドラマとして消費される社会の風潮に、少しの冷めた視線を向けつつも、自分たちは自分たちのペースで静かに年を重ねていく――そんな二人の飾らない等身大の姿が描かれます。
本作の最大の魅力は、劇的な事件が起きるわけではないからこそ胸に迫る、圧倒的な「日常のリアルさと温かさ」です!
付き合い始めた頃の思い出や、年齢を重ねて指輪がきつくなったことなどを笑い合いながら語る二人の会話からは、16年という長い歳月を共に歩んできた深い絆と居心地の良さがじんわりと伝わってきます。
世間からは見えにくい関係性かもしれないけれど、この部屋の中には確かに愛があり、穏やかな生活がある。
派手な百合作品とは一線を画す、地に足の着いた大人の女性たちの静かな愛の形に深く魅了されます。
心に温かい余韻を残してくれる、リアルで愛おしい日常の物語を読みたいすべての方におすすめしたい名作です。
自作語りで恐縮なのですが、某自作に「BL」タグをつけるとき、つかの間ためらった記憶があります。自作には男性同士のわかりやすい"絡み"がないからです。やはり「BL」というタグをきっかけに作品を読む読者は、男性同士の惹かれ合いを、イチャイチャを求めているのではないか──。「BL」の後ろに「の境地には到底至らなかったため」というタグをつけたのは、私なりの読者に対する配慮なのです。
「BL」「GL」というタグを目にしたとき、あなたがその作品に抱くイメージ、期待する作風は一体如何様なものでしょう。ストレスフリーのイチャイチャであれ、同性同士ゆえの葛藤やすれ違いをつぶさに描いたものであれ──やはり多くは"せっかくフィクションに触れるのだから"と美男美女を求めてしまう、"対岸の花見"を楽しむ気持ちで彼・彼女らが織りなす関係性を眺めていたいと思う部分があるように思います。
本作は紹介文にもある通り、「都会の片隅で暮らすアラフォーのカップル」のお話であり、彼女らは確かに愛し合っているのでしょうが、奈緒美には夫とお腹の子どもを亡くした過去があり、環とて離婚した夫に似た俳優を贔屓している一面(もっともこの部分は奈緒美の主観に基づく見方ではあるのですが)があります。
「アラフォーのカップル」である以前に、それぞれが一人の人間であることを切に訴えてくるのです。
「それも確かに正解だから、私はきちんと丸を付けた」の一文がやさしい。同時に曖昧さを受け容れる上で必要なのは、やさしさばかりでなく知性であるとも思うのです。