13 脱出と機転
♰[セイル]♰
これだ、とセイルは思った。
「ええ。ちょうど昨日に教会で治してもらいました。気にかけてくださりありがとうございます」
そう言ってセイルはフードを取った。
「!?」
そこにあったのは、男ですら惚れかねない、絶世の美しさを持つ男の顔だった。
もちろん、セイルの顔が美しいとかそういうわけではない。リーレに使っている魔法を自分の顔にかけ、あたかもセイルがイケメンであるかのように見せたのだ。
周囲の者たちは皆、セイル(似非イケメンver)に見惚れる。もちろんアリサも例外なく。
その隙にセイルは素早く辺りを確認し、リーレを見つける。リーレはこちらを見ていたので、余計なことになる前にセイルは魔法を上書きした。時間がないので内側に魔法をかけられなかったが、外側はしっかりと魔法をかけ、安定させることができた。
え?という一人の少年が疑問の声をあげるが、誰も気づかない。
「どうかしましたか?」
素知らぬ顔をして、セイルはアリサに声をかける。
「えっあああ、あ、あの、傷、な、治ってよかっ、た、です、ね」
緊張して噛みまくるアリサ。セイルは笑いを堪えるのに必死である。
そしてセイルは追い討ちをかけるように、
「はい、騎士様もお顔は美しいので、大事にしてくださいね」
蜜のように甘いセリフを吐き、魔法を変化させて天女のように美しい笑みを浮かべる。もうすでにリーレの魔法は安定させたので、これはただの悪ふざけである。アリサも含めて周りの者たちは皆息を呑み、顔を林檎のように紅くした。
誰もが見惚れる笑みの裏で、内心ほくそ笑んでいたセイルはフードを被り直す。
「心配していただきありがとうございました。では、私はこれで」
セイルが立ち去ろうとすると、アリサが声をかけた。
「あ、あの!」
「なんでしょうか」
「あなたは、シュバルツという凄腕の魔法剣士を知っているかしら?」
今度は噛まずに言えたアリサに、セイルは前と同じように答えた。
「残念ながら、私ではあなた方のお力にはなれないようです。すみません」
「そう、時間取って悪かったわね」
「いえ、騎士様のお望みでしたら、いつでも力になりますよ。それでは、縁がありましたらまた会いましょう。いや、二度あることは三度あると言いますし、きっとまた会うでしょう。もしかしたら、私達の出会いは運命神によって祝福されているのかもしれませんね。では」
一度目はともかく、二度目はアリサが探した結果であるため、運命だのなんだのは関係ない。これもまたセイルの悪ふざけである。
そうしてセイルは頬を朱色に染めたアリサと別れ、リーレのいるところへ向かった。
そして、誰も居ないところへ声をかける。
「おい、勝手にどこかへ行くな」
セイルが魔法を再構築すると、何もないところにリーレが現れた。
「!?……すみません」
「謝罪は要らないと言ったハズだ」
「……。」
「……はあ。ここに居てもしょうがない。さっさと街を出るぞ」
セイルとリーレは北門を目指して歩き出した。
しばらく歩くと、辺りに香ばしい匂いが立ち込める。串焼きの出店から漂うその香りに、リーレの意識が惹き付けられた。
「おい」
しかたない、と呟いてセイルは財布を取り出す。さっきみたいなことになっては困るからである。
リーレを街路樹の下で待たせ、出店に向かう。匂いにつられた者が他にも居たようで、出店の前には十人ほどの人の姿があった。
「串焼き二本」
「はいよ」
少し待ってスキンヘッドの主人から二本の串焼きを受け取り、リーレの下へ戻る。
そこには、数人の男達に絡まれているリーレの姿があった。
「はあ……」
セイルは大きく溜息を吐き、魔法をかけて今度は強面の男に顔を変え、フードを脱いでリーレに声をかける。
「おい」
「なんだあ?……っひいい!」
男達はセイル(悪人面ver)に気圧される。
「連れなんだが……」
ドスのきいたバリトンボイスで語りかけ、ガンを飛ばすと、男達は
「「「マジ
と言って一目散に逃げていった。
少し離れたところで、ッべーよ!などとほざいている男達を横目に、セイルは座り込んでしまっているリーレへ手を差し伸べる。
しかし、リーレはその手を取ろうとしない。怯えているようである。あんな者が怖かったのか?と疑問に思ったセイルだが、そういえば、と自分がいかついおっさん顔になっていることを思い出す。しかし、魔法を解いてみるがやはりリーレは手を取らない。というか、見蕩れるているらしい。なぜ?と再度自問し、記憶を探るセイル。
「……あ、えと……セイル、ですか?」
(あ、イケメンの魔法解いてなかった……)
今度こそ魔法を解き、リーレに再度手を差し伸べる。
リーレはセイルの顔を凝視したあと、そっとその手を取った。
「……びっくりしました」
♰
その後は特に何も起こることなく、串焼きを食べながら歩いて行った二人は北門に着く。
門番に身分証と顔を見せ、用事を伝えて許可をもらえれば街の外に出ることができる。
セイルはギルド証とカードを見せ、今度はちゃんと顔を見せた。
リーレは身分証を持っていないので孤児と説明し、銀貨五枚を支払った。
二人ともこの街を発ち、他の街へ向かう旨を伝えて門をくぐった。
昼前の青空には、燦然と太陽が輝いていた。
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